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深田倍生

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深田倍生(ふかだますお) / ITコーディネーター

株式会社テクノプロジェクト

コラム

改正電子帳簿保存法の宥恕期間終了が迫る中で考えた2つのこと

2022年11月25日

テーマ:法改正

コラムカテゴリ:ビジネス

 カテゴリー「法改正」は、今後予定されている法改正の概要、改正に伴う必要な対応などの話題や既に施行済の法改正によって変化しているビジネス環境等を取り上げます。直接的にビジネスに影響する、しないに関わらず、世の中の流れに関して問題意識のある方の参考になるように頑張ります。

改正電子帳簿保存法

 経済社会のデジタル化を踏まえ、経理の電子化による生産性の向上、記帳水準の向上等に資するため、令和3年度の税制改正において「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」の改正等が行われ(令和4年1月1日施行)、帳簿書類を電子的に保存する際の手続等について、抜本的な見直しがなされました。要するに、2022年1月1日から改正電子帳簿保存法が施行され、国税関係の帳簿・書類のデータ保存について大幅に変更になったということです。経済産業省の中小企業向け補助金・総合支援サイトで、改正電子帳簿保存法の概要が解説されていますので、少し抜粋してご紹介します。

改正電子帳簿保存法の概要

 改正電子帳簿保存法の主な保存区分は、①電子帳簿等保存、②スキャナ保存、③電子取引データ保存の3種類に分けられます。①電子帳簿等保存は、「電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存」することです。具体的には、自分が会計ソフト等で作成した帳簿や決算関係書類などを「電子データのままで保存する」ことを指します。②スキャナ保存は、「紙で受領・作成した書類を画像データで保存」することです。具体的には、相手から受け取った請求書や領収書などをスキャニングして保存することです。③電子取引データ保存は、「電子的に授受した取引情報をデータで保存」することです。具体的には、領収書や請求書等をデータでやりとりした場合には「電子取引」に該当するので、そのデータを保存しなければならないというものです。「ネット通販なら必ずデータ保存が必要」というわけではなく、あくまで領収書などを紙ではなくデータで受け取った場合等だけが対象です。今までは電子データを出力した紙で保存しても良かったのですが、オリジナルの電子データの状態で保存しておく必要があります。

令和4年度の税制改正大綱における宥恕措置

 ところが、電子帳簿保存法の具体的な取り扱いが国税庁から公表されたのは2021年の7月で、この時点で運用開始まで半年を切っており、対応に関して多くの企業が困惑していました。そこで令和4年度の税制改正大綱では、改正電子帳簿保存法に対応出来ない事業者対策として、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に行った電子取引については「宥恕措置」を設けることが盛り込まれました。
 「宥恕」という言葉は、私としては馴染みが無いので調べてみました。宥恕(ゆうじょ)は、「寛大な心でゆるすこと」で、一方私としてお馴染みの「猶予」は、「実行時期を先送りし、余裕を与えること」と書かれていました。明らかに意味が異なりますね。宥恕は、本当はしなければならないけど、寛大な心で許してもらっているということですので、早めに改正電子帳簿保存法に沿った業務運用に変更しておかなければなりません。

保存情報の廃棄問題

 2022年10月20日付の神戸新聞は、神戸市須磨区で1997年に発生した連続児童殺傷事件で14歳で逮捕され、少年審判を受けた「少年A」の全ての事件記録を神戸家裁が廃棄していたと報じました。裁判の判決書に当たる少年審判の処分決定書や捜査書類、精神鑑定書など、非公開の審議過程を検証できる文書一式が消失したそうです。一般的な少年事件の捜査書類や審判記録は、少年が26歳に達するまでの保存が定められていますが、最高裁が作った裁判所の内規で、史料や参考資料となるべきものは「保存期間満了の後も保存しなければならない」とし、26歳以降の「特別保存(永久保存)」を命じています。この記録の廃棄については、国会でも議論されることとなり、経緯調査などを進める最高裁の小野寺真也総務局長は、調査・検証結果について「国民に対する説明責任を果たしていく」と述べ、記録のデジタル化についても、長所や短所に言及しつつ「電子化に伴う保存の在り方を検討する必要がある」とし、議論の方向性や情報公開の範囲などの詳細については「有識者委員会の意見を踏まえる」としています(2022年11月17日付の神戸新聞)。
 ご存知の方もおられると思いますが、1995年に地下鉄で毒物を撒いて多くの方を死傷させた事件の記録が廃棄されそうになっていたのだそうです。この有名な事件は複数の事件から構成されており、言い渡された刑の種別及び刑期等によっては、記録の保存期間が最短で3年であるため、一部が廃棄されそうになっていたところを、刑事法学者やジャーナリストらでつくる司法情報公開研究会が刑事参考記録に指定して保存を続けるよう求める文書を法務大臣に提出し、永久保存することを法務大臣が決めたそうです。
 裁判所の肩を持つわけではありませんが、膨大な記録は日々積み重なっており、保管コストも積み上がっていく中、誰も閲覧しない記録(閲覧するための手続きが煩雑であるという問題はある)を保管する必要があるのかという見方もあるかも知れません。
 この記録の廃棄問題は、簡単に言うと、保存されるべきと考えられる情報が保存されていなかったという問題なのですが、保存されるべき情報とは何かという問題を提起していると私は感じました。

情報を保存する目的

 私はIT業界で働いている関係上、情報の利活用についてご提案することがあります。せっかく色々な情報が蓄積されるのだから、それを有効に活用して、来るべき次の機会に活かしましょうというご提案です。そもそも情報の保存は、目的ではなく手段だと思っています。冒頭にご紹介した電子帳簿保存法は、手間の削減による業務の効率化、書類を管理する人の負担の軽減、保存場所の確保と紙や印刷にかかるコストの削減を目的としたものだそうですが、根底にあるのは、必要な情報を見たい時に見ることができることだと思います。
 電子帳簿保存法とは直接関係しませんが、例えば、過去の経営指標の推移を参考にして、今後の事業計画を立案するというのはよくある話で、皆さんもイメージできるものだと思います。さらに例えば、医療に携わる方々が患者さんに対してより良い診療を迅速に提供するために電子カルテで過去の診察記録等を参照しておられます。これらの例は、あらかじめ過去のデータを活用するという目的があって、日々の業務の中で発生するデータを質の良い状態にした上で蓄積する仕組みがあるという前提で成り立つものです。
 最近では、AI(人工知能)の活用が叫ばれています。日本政府も2019年にAI戦略を策定し、2021年に大幅改訂してAI戦略2022を策定しています。AI戦略2022では、中小企業に対し、AI技術の利活用による生産性の抜本的改善を期待していますが、AIも上質なデータで学習すればするほど、より良い効果が期待できます。最新のAIに関係する技術として、ディープラーニング(深層学習)があります。乱暴に言えば、人間が知識を習得することを模したような仕組みで、十分なデータ量があれば、人間の力を借りることなく、機械が自動的にデータから特徴を抽出してくれる仕組みを用いた学習ですが、これも上質なデータを入力する必要があると思います。上質なデータを入力したいと思う心は、勉強して欲しい子供が教科書よりもゲームをやっているのは非効率と親が感じる(子供の人生にとっては意味があるかも知れません。念のため)のと似ているかも知れません。

まとめ(改正電子帳簿保存法が迫る中で考えた2つのこと)

 改正電子帳簿保存法の宥恕期間終了が迫る中、考えたことをまとめてみます。

何のための保存するか

 改正電子帳簿保存法等、法の要請で情報を保存するということも大切ですが、せっかく保存するのですから、利活用も考えて仕組みを整え、その目的のために情報を上質なものとし、それを蓄積していくことを考えるべきなのではないかと思います。その仕組みの中で法の要請に応える方が、例えば今回の改正電子帳簿保存法の対応も戦略的に活用できるのではないでしょうか。

保存されるべき情報とは何か

 電子的に保存・保管すれば、保管コストも小さくなりますが、やはり電子媒体も有限ですから、廃棄することを考える場面が出てきます。単純に決められた保管期間が過ぎた情報は廃棄するという考え方もありますが、その中には大切で価値のある情報が含まれていると考えなければならないと個人的には思います。大切で価値のある情報とは何かというのは今後のテーマになるかも知れませんが、少なくとも、大切で価値のある情報は、いわゆる上質なデータに含まれるものだと思います。

この記事を書いたプロ

深田倍生

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