勇気を与えてくれる本「BLUE GIANT」
「私の本棚」は、私が読んだ本でオススメの本をご紹介するカテゴリーです。世界の人口は、2020年の世界銀行の統計によれば、約78億人だそうです。私がこれまでの人生で何人の人に会って、これから何人の人に会うかは分かりませんが、少なくとも78億全ての人に会うこと不可能であること位は分かります。また、皆さんご存知のGoogleは、世界中の書籍数を約1.3億と推定しています。これも全部読むことは不可能であろうと思います。一期一会という有名なことわざは、人との出会いを想定していますが、本も出会いだと思っています。良い本に出会うことは、私たちの人生に多少なりとも影響を与えると信じています。
この本との出会い
この本との出会いは、あるお客様先に伺った際の打ち合わせ後の雑談でした。専務から「塞王の楯って読まれましたか?石垣とか好きそうだから」と言われました。確かに私は、松江城およびその周辺のガイド養成訓練を受けましたし、石垣の種類は、ガイドの基本的知識ではありましたが、「いやぁ~、まだ読んでいません」ということで、紹介して頂きました。辞書くらいある本でしたが、帯には【第166回直木賞受賞作、「絶対に破られない石垣」と造ろうとする職人の匡介(きょうすけ)。そこに立ちふさがるのは、「どんな城も落とす鉄砲」ー 誇りをかけた職人同士の戦いを描く、圧倒的戦国小説!】と書いてありました。”ほこ×たて”ですね。読むしかないだろうと忘れないように写メして、家に帰るやいなや、ポチってしまいました。
「塞王の楯」のご紹介
出版社である集英社の紹介には、【「最強の楯」×「至高の矛」。近江の国・大津城を舞台に、石垣職人“穴太衆”と鉄砲職人“国友衆”の宿命の対決を描く究極のエンターテインメント戦国小説。『童の神』(直木賞候補)、『八本目の槍』(吉川英治文学新人賞受賞)、『じんかん』(山田風太郎賞受賞・直木賞候補)、「羽州ぼろ鳶組」シリーズ(吉川英治文庫賞受賞)の今村翔吾最新作!(出典:集英社ホームページ)】とあります。あらすじは、【幼い頃、落城によって家族を喪った石工の匡介(きょうすけ)。彼は「絶対に破られない石垣」を作れば、世から戦を無くせると考えていた。一方、戦で父を喪った鉄砲職人の彦九郎(げんくろう)は「どんな城も落とす砲」で人を殺し、その恐怖を天下に知らしめれば、戦をする者はいなくなると考えていた。秀吉が病死し、戦乱の気配が近づく中、匡介は京極高次に琵琶湖畔にある大津城の石垣の改修を任される。攻め手の石田三成は、彦九郎に鉄砲作りを依頼した。大軍に囲まれ絶体絶命の大津城を舞台に、信念をかけた職人の対決が幕を開ける。(出典:集英社ホームページ)】とあります。読みたくなるように書いてあるんですが、まさにこのとおりで、読んで損はないと思います。
私はこの本を自己啓発本としても読みました。どのようにして自己啓発本として読んだのかをご説明していきたいと思います。
チームビルディングの勘所はこれだ
チームビルディングとは、ただ人を寄せ集めることではなく、様々な能力や経験を持つメンバーが、目的達成に向けて主体的に取り組んだり、能力を発揮できるような組織を構築したりすることだそうです。
主な登場人物である匡介の所属する飛田屋では、石垣造りに必要な職能によって部署が3つに分かれています。石垣に必要な良い石を山から切り出す「山方」、切り出した石を石垣造りの現場に運ぶ「荷方」、そして石垣を積む「積方」の3つです。一般的(と言っても物語の上ですが)には、いったん山方になったら、ずっと山方。荷方になったらずっと荷方であり、石を積むことはできませんが、飛田屋では、新入りは3年ほど基本的な石の積み方覚えさせられるので、山方であっても、荷方であっても、皆が最低限でも石を積むことができます。石積みの基礎を学んだ後は、全員が実力順に甲乙丙の3つに分けられ、最も優れた甲は積方、次点の乙は山方、それ以外の丙は荷方になることになっています。
何がチームビルディングの勘所なのかというと、最終工程であり、重要な仕事である石積みの現場を全員が知っているということです。山方は、積方にとってどのような石が必要かを考えることができますし、荷方は、積方にとってどのようなタイミングや順番でどのような石が必要なのかを考えることができます。チームで石垣作りの最終的なイメージを共有でき、仕事全体を見ると縦割りではありますが、与えられた仕事を最終的なイメージを持ちながら主体的に進めることができます。また、突貫工事等(本では「懸(かかり)という造語を使われていました」)の場合は、皆で石を積むという動的なリソース分配にも対応できます。チーム作りの参考にしたい考え方だと思いました。
リーダーの姿
「最強の盾」×「至高の矛」がこの本のクライマックスの舞台である大津城の戦いで描かれます。有名な関ヶ原の戦い前夜、徳川家康の東軍と石田三成の西軍が衝突するにあたって、琵琶湖畔の大津城は戦略上の要地となりました。特に西軍にとって大津城は進攻のための道を繋ぐ交通の要衝であったと同時に補給の拠点ともなり得る重要な地点でした。大津城をおさえておくことは、関ケ原の戦いの行く末に重大な影響を与えるということで激戦が繰り広げられました。東軍側の大名であり、大津城の城将であったのは京極高次です。高次は、要地で西軍を消耗させつつ、東軍の到着を待って籠城します。一方の西軍側の大将は毛利元康ですが、こちらには当時を代表する名将である立花宗茂がついています。籠城側の高次に「最強の楯」飛田匡介が、攻城側の立花宗茂に「至高の矛」国友彦九郎が協力するという、緊張感とスピード感のあるストーリー展開が繰り広げられます。
籠城側の高次の出世は自身の功ではなく、妹や妻の尻の光のおかげなのだといわれ、高次は陰で蛍大名と囁かれていました。匡介は、その高次に最強の盾である石垣を作って欲しいと依頼されます。最初に面会した時から高次は人懐っこく、匡介は高次に対して礼儀作法を気にしないフランクな印象を持ちますが、一緒に仕事を進めていくにつれ、家臣や城下の民に慕われていることを実感します。高次の妻である初とともに、常識を逸脱した行動に驚かされ続けるのですが、石垣を作っている職人の心でさえ鷲掴みにし、家臣や職人のモチベーションを最高潮にまで持ってきます。読んでいる私でさえ、涙を流してしまうほどです。高次は言葉にはしていませんが、匡介は、高次が覚悟を決めていることを感じ、自分として最大限できることをしようと心に決めるのです。
覚悟を持って、信じる道を進みつつ、周囲のモチベーションが最大になるような行動をとり、最終的には自分だけが責任を取るという姿に対し、憧憬の心を持たざるを得ませんでした。
まとめ
ネタバレをしないよう意識すると、なかなか書きにくいところではありました。他にも事業承継みたいなことも考えさせられました。さすが直木賞作品。職人の集団(技術集団)に憧憬を持ちながら、高次、初の夫婦と人々の関係に涙し、「最強の楯」×「至高の矛」に手に汗握りながら読めます。とりあえずは、手にとってみてはかがでしょうか。新しい出会いがあるかも知れません。私は、無意識に時代物を避けていたような気がしますが、少し触手を伸ばしてみようと思います。ますます時間が足りないなぁ。
ここ数年は、コロナ禍もあって、街角などでの人や本とのいわゆる偶然の出会いの機会が損なわれているように思います。そこを補完する代替サービスを考えながらコロナ禍の収束を待ちたいところですが、いずれにしても偶然の出会いは大切にしたいと思います。