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一事業に専心たらんとせば株に手を出すな ~三越の古典に学ぶ その22~

鈴木一正

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テーマ:経営

時代の特徴なのだろうと思う。株式投資=投機であるとの認識は今では、それはちょっと言い過ぎ…と思われるだろう。しかし、日平均株価が4万円を超え、米国ダウ平均が4万ドルを超えるような“バブル”経済の今、地に足をつける地道な経営活動の大切さは再確認しておく必要はあると思う。

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商人と株
第三編 商品の活動
○商人と株式
◎私は(株)を持てぬに非ず持たぬなり
投機=株式の売買といふことをやつたことがないもの、私の如きは最も少いだらうと思ふ。私は今日まで株と云ふものに、一回だも手を出した事がない。やらうと思へば機会はいくらでもあった。又貧乏して居るが、少し位の相場が出来ぬ程にもない。併し一回だも株の売買を行つた事はない。
私は殆ど株式と云ふものを持たぬ。最も帝国劇場外二社に少しばかりの株主となつて居るが、これは店又は友人との関係上、株主とならなければならぬ為で、其他には一株も持つて居らぬ。
持たぬのではあるまい、有てぬのだろうなどと云ふものもある。実際私に正金はない。併し貧乏したからとて未だ百や二百の株を持つことが出来ぬ程ではない。多少の信念があるからである。

◎手堅き商人は株に手を出す勿れ
私は決して株式の売買を以て敢て絶対に悪しきこととは思はぬ。併し真面目の事業を経営するものが株に手を出す時は、其信用に関し、人をして疑を懐かしめ、且つ人格もまた下劣となるを免れぬ。殊に私は事業には専心となり一心不乱に従事せねばならぬと云ふ思想を有するので、他の事業に手を出す気にはなれぬ。決して株の売買などに関係すると頭脳は常々株の騰落に掩はれ、到底事業に専念となることが出来ぬ。
私は事業に専念するのを主義とする。既に此の事業に従事した以上、如何なることがあつても、全力を傾注して他を顧みぬ。もとより私もまた一の大なる雇人たるに過ぎぬ。何時退職せねばならぬ事情が発生するやも知れぬ。併し経営して居る間は全力を注ぎ、退店した後でも、日比はデパートメント、ストーワの外には相当の用途がないといはれる位にしたいと思ふ。他の用途がないと云ふのは事業専念のおかげで、私は書く一心不乱となり売るのを喜ぶのである。

◎一事業に専心たらんとせば株に手を出すな
故に私は自分の仕事以外には一切関係せぬ。株式さへも前に述べた通り持たぬのである。他の事業と関係し、又は他会社に株主となつたならば多少の思想を其方面に吸収されるであらう。一事業にさへ成功するに容易ならぬことである。然るに其力を他に分つならば何れの事業も共に到底成功せぬ事になる。苟くも事業の経営を托された以上。全力を用ひずして充分の成績を挙げ得ぬのは私の忍び得ぬことである。
事業熱の熾なりし三十九年末には私も各方面より事業の発起人又は賛成人となるように勧誘を受けた。私が欧米より帰朝したのは十月二日で、企業熱の終りに近かかつたけれども、其の熱度は旺盛を極め殆ど絶頂に達して居た。単に金儲けがしたいとか重役になりたいとかいふならば不肖ながら相当に出来たであらう。併し私は一事業に専念なれと云ふ主義から総べて之を謝絶した。


恐らくこの当時は、高い経済成長率であったはずで、多くの企業が成長する一方、多く消えていったのだと思う。そういう意味で、一攫千金を狙う投機家も少なくなかった。経営者の中にもそういった方がいたはずである。経営者たる者は経営に専念せよとの信念を持っていた。

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専門家

鈴木一正(経営コンサルタント)

合同会社スズセイ

百貨店個人営業(外商)での経験をもとに、BtoC企業のお得意さまづくりをサポート。訪問や電話などアナログな接点づくりを大切にする顧客戦略の設計図を描き、お客さま本位の働き方改革を実現します。

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