其責任は我店が受けなければならぬ ~三越の古典に学ぶ その17~
いわゆる「石垣論」である。日比翁助専務は、経営者から従業員までの一体感の重要性を重視していた。
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◎店主にても小僧にても責任は同じ
我三越は常に客本位を取り、客の便利を増進する為めには最善の力を用ひて居る。
従つて平常店員に対しても客の待遇に全責任を負ふことを奨励して居る。
三越を代表するのはこの日比翁助であると思ふものもあるかも知れぬ。が併し実はさうではない。諸君全体が各三越全体を代表して居るものである。成程重役と売場員や我は其の執る所の仕事は同一でない。併し三越を代表して夫れに対する責任を負ふとは諸君も私も敢て厚薄がない。一人の小僧が客に不親切のことをする、一人の下足係が客に粗末な振舞をすると。諸君は之を以て小僧や下足係の為したこととして自ら卑下するかも知れぬが、併し世人はさうは観察せぬ。三越は不親切である粗末な振舞をするといふて、其一挙手一投足は批評の中心となり直ちに三越全体の信用に関係するであらう。
故に其執る所の仕事が如何なる種類にもせよ、自分は三越呉服店全体を代表する大切なものであることを覚悟して貰ひたい。諸君は桜田見付を入つたことがあらう。
見付の左側に高い石垣がある。諸君は之れを見て何と感じたか、石垣には巨大な石塊が積み重ねられ、其間に小さな石があつて空隙を埋め、其上に大石が泰然として据へてある。石垣は大石のみで出来るものでない。小石は不用の様に見へるかも知れぬが、もしあの石の中から一の小石を抜き去つて見よ、堅牢な石垣も少しの事故で崩壊し去るであらう。如何に巨大な石のみがあつても夫だけでは石垣の堅牢を期することが出来ぬ。小僧とか下足係と云ふ小石があつてよくその為すべきこと為せばこそ大石も始めて活用し堅牢な石垣となるのである。世の中は総べて相持ちである。諸君も私も共に其全力を発揮し協同一致すれば始めて事業が発達する、故に諸君は其執る仕事の大小貴賤を問はず、自分は三越といふ大きな堅牢の石垣を作つて居る大小の石であることを思ひ、其の職務に奮闘して貰ひたい。
些々たる比喩であるが、之れに由つて各人は皆三越を代表するといふ観念が深く印象し
其効果が各方面に現はれつつあると信ずるのである。
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企業には様々な役割がある。どの役割が欠けてもいけない。各人がそれぞれの役割を全力で果たしてこそ、事業は成長していくのであるとの信念を持っていた。