一事業に専心たらんとせば株に手を出すな ~三越の古典に学ぶ その22~
現在は「ジョブ型雇用」が大流行りだけれども、その本当の意図は賃金の切り下げにあると思っている。年功序列型賃金体系のもとで、陳腐化した能力にもかかわらず、高い賃金を払わざるを得ないことを何とか止めたい。日本型雇用制度は既に終焉を迎えたとも言われるが、企業に対して“適正な”ロイヤルティを醸成することは、決して悪いことではないと思う。
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◎商店は規則づくめは禁物
私は我店員が日常の執務上に於て斯く奮闘努力するのみならず、自己受持の業務以外に就て店の利益となるべきことに関して遠慮なくドシドシ建議するものあるを見て非常に愉快を感じつつある。
私は元来規則づくめにすることが大嫌ひである。規則通りにやつたからとて商売が繁昌するものではない。臨機に便宜とする所に従つて活動せねば生命ある仕事は出来ぬ。故に其職務以外の事情に関しても其人に見込があればドシドシ担当させる自分は何課だから何の仕事はせぬといふ様なことは云はさぬ。
又実際千有余の店員の中には夫々天才があつて之を発揮させれば有利に利用されるものが沢山ある。
◎真に職務に忠実なる店員の一実例
又先頃或外国部員が『自分の道楽でこんなものを調整し私費で印刷した。一般の店員に増々便利であらうと思ふから之を頒布して戴き度い』。と申し出たことがある。見ると各種の織物の原産地、価格、特色等が詳細に一表に掲上せられたもので、日本織物の現状が一目の元に明らかになる便利で有益な思付であつた。私は之を見て『之れは有益な調査である、店員一般に頒布すればとれ位利益になるか知れぬ。君は私費で作つたと云はれるが、これは当然店で支払ふべきものである。啻に実費を支払ふのみでなく、店は君に対して大に感謝せなければならなぬ』と云ふて厚く感謝したことがある。然るに其の多忙の時間にかかる表を調整し少しにても店員の便利を図り店の利益を増進せんとする斯の如きは金銭の為に店務に従事し、職務だから店に出勤するといふ様な人に得て望まれることではない。真に店を思ふの念が熱烈で、発展を期する奮闘心が溢れて発したのでなければ爰に至ることは出来ぬと思ふ。
斯る事実が月々に現はれるのを見て、私は我店員が衷心より我店を思ひ、独り肉体を労して奮闘するのみならず、精神上に於ても店と一体となつて奮闘しつつあるを思ふて喜びに堪へぬ。
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日比翁助専務は、百貨店という商売を知らないが故に、現場を良く見ていたのだと思う。商売繁昌の秘訣は現場にあることを肌感覚で理解していたと言える。