売上高を個人目標にしない働き方
百貨店個人営業(いわゆる外商)で販売促進担当のマネジャーだった時、営業管理システムの更新の話が本社システム担当からありました。それで活用していた営業管理システムは既に4~5年が経過しており、確かに使い勝手にも課題が見えている時でした。そのため、新システムに対する期待は大きかったのです。
既存営業システムは、「大福帳型」とも言うのでしょうか。顧客単位でカード型になっており、取りあえずメモ情報として入れておいて後で見られるようになっている“だけ”です。顧客情報は個人の手帳にだけしか記述されていない時代から、みんなでこの営業システムに入力するようになったのは大きな進歩でした。営業担当は休みの時もあれば、外出している時もある、他のお客様をご案内している時もある。だから、顧客からの問合せや連絡があった時に、これまでの取引の履歴や仕掛かり中の案件などが入力されていると対応がスムースになります。お互いさまなので入力は徐々に徹底されていった訳です。しかし、このシステムは顧客単位での情報閲覧はできるのですが、そもそも1項目に100文字しか入りません。また検索機能は文の頭だけで、文中検索はできません。もちろん曖昧検索などもない、とっても非力な機能しかなかった。でも、シンプルな機能なので、パソコンが苦手な方でも使えたのでした。
新しく提案されたのは、超有名なSFA。いろいろカスタマイズ出来て、何でも出来る。商談ごとの進捗も、提案前→提案中→見積→検討→成約(例えば、こんな感じです)と細やかに管理できる。直近1週間で買い物した方とか、特定の商品カテゴリーを購入した方とかも抽出できる。営業担当が抱えている総ての商談を管理することも出来る。マネジメント側からするととても便利に思えます。しかし、決定的にネックとなったのは、入力項目が多岐に亘り、総ての活動を記録しておくことが必要だということでした。顧客の基本属性に関する項目、お買い物の特性に関する項目、商談に関する項目など、今までは取りあえず大福帳に書き込んでおけば良かったのですが、別々に入力しないといけない。自宅訪問、電話アプローチ、DM郵送、店舗内案内など、「○月○日 ○○というコメントあり。」など記録しないといけない。「営業日誌の代わりになる!」との触れ込みがあって、その通りなのです。マネジメント職はこれを見ると何でも分かる。
結果として導入は見送られました。超有名なSFAは基本構造がB2B仕様なので、やっぱり細かい点にも課題がありました。百貨店ですので家族カードの取り扱いをどうするのか、B2Cは一人当たりの担当顧客が200件(場合によっては数千件)程度を抱えていて一覧で表示はできないのか、など…ということもあります。しかし、最大の課題はこのシステムはマネジメント側には良いのですが、決して営業担当にとっては仕事が軽減されない。むしろ事務作業が増えてしまう、ということでした。ちょうど、「全社を挙げてIT化を進めよう!」という方針もあったので、ここで採用しなければ「個人営業チームはIT化に後ろ向きなんだよな」という受け止め方をされて、今後の活動にも悪影響が想定されかねない状況でしたが、やめました。私がプロジェクトをやっていた時には。
本社の偉い方が超有名なSFA会社と仲良くなっているとの噂もありましたので、その後も本社システム担当からいろいろプレシャーがあったようで、私がいなくなって後にもっと大がかりな仕組みとして導入されてしまいました。でも、結局使いこなせないので、今ではほぼ使われなくなっていると聞きます。超有名なSFA会社も使われなくなっては困るので、契約価格も10分の1程度になったとも聞きました。
超有名なSFA会社が悪いとは思いません。働き方改革の考え方が先にあって、そのためのシステム導入という手順が踏まれていなかったということに本当の理由があると思うのです。ちなみに、他の百貨店にもいろいろヒアリングしましたが、実態は同じで、とっても立派なシステムを導入したんだけど、手間ばかりかかって使いこなせていないというところばかりでした。
私はプロジェクトの中でベンダーさんに質問しました。
「このシステムを導入すると売上は上がりますか?」
ベンダー担当者の答えはこうでした。
「私たちの役割は仕事の効率化を図ることです。売上を上げるのは御社の仕事です。」
それはそうですね。