利益拡大にむけて理想の因果モデルを書いてみる
百貨店個人営業(いわゆる外商)勤務の時に顧客の反応を見て実感したのは、「もう売り込みが通用する時代ではない」、一方で「売り込み時代の働き方から脱却できていない」ということでした。実は、顧客と接点を持つ担当者レベルでは分かっていたことなのですが、ラグジュアリーブランドを含めた取引先はもちろん、経営者の意識が変わっていないことを実感していたのでした。戦後~高度経済成長期のモノがない時には、“つくれば売れる”ので外商担当は顧客に積極的に紹介すれば買ってくれるのです。婦人服を担当していた先輩はこんなことも言っていました。
「毛皮を担当していた時には、定期的に銀行などへ職域販売に行ったんだよ。従業員の食堂に、ちょっとお買い得の毛皮を並べておくと、休憩時間になるとパートタイマーの方々が見に来て結構買ってくれたんだよ。パートタイマーと言っても結構お金持ちの方も多かったんだよ。」
こうした職域販売は、紳士服なども定期的に開催していて、それなりに大きな売上を作っていたのでした。
もちろん外商担当は、宝石や毛皮、美術品、ペルシャ絨毯などを持参して顧客宅へ訪問販売していました。「今でも結構売れるんだよ」とおっしゃった外商部長さんもいらっしゃったのですが、それはほんの一部で、大半の部長さんは「今は外販しても売れない。むしろ来店頂いて非日常の快適な環境の中で多くの商品をご覧頂いた上でお買い物をして頂くことの方が売上につながるんですよ」と言います。しかし、社長や店長たちはまだ担当が外販していると思っている。
「店頭商品は取引先販売員が売っているんだから、外商は店頭で売ってない商材を売ってきてよ!」という経営者は本当に多いです。だから、働き方が催事中心になるのです。そこに労力をかけても売上はあがらない。逆に特定の顧客に営業活動が集中することによって、最近お買い上げが少ない顧客への接点活動が疎かになり、結果として離反する。将来のお買い上げを失う…まさしく縮小均衡になっている。
「でも最近、百貨店外商の売上が好調じゃないですか!」と、新聞などでも報道されるので、今の働き方が上手く行っているように見られるのですが、外商担当が売っているのではなく、コロナ禍での「強制貯蓄」や「行動制限」の反動でラグジュアリーブランドを中心に顧客が自主的に買っているだけです。このバブル状態はいずれ収まる。その時に今の働き方のままで良いのでしょうか。私は1991年をピークとしたバブル経済が崩壊する前の状況と今の状況が重なって見えるのです。
では、百貨店外商はもうダメなのか…いえいえ、ポテンシャルは高いと思っているのです、ある医療機関から「外商顧客にがん検診を薦めて欲しい」との依頼を受けたことがあります。これは面白い商材だと思ったのです。私が低稼働顧客担当チームのマネジャーだった時に月ごとの商材を決めてご紹介する活動を実践していました。接点活動のためのご紹介です。やってみて気づいたのですが、歳時記の商材や顧客のニーズに合致する提案は抵抗感がない。
例えばお中元やお歳暮の時期に「ギフトセンターが開設されました」と伝えると喜んで聞いて頂けることが多かったです。売り込まなくても良い、ご紹介のための接点活動の位置づけです。定期的な接点があれば、他のお買い物がある時に最初にお声が掛かる可能性が高まる。結果としてウォレットシェアが高まる。関係が継続すればライフタイムバリューも高まる。そうなれば、どんな商材でも紹介できるのです。直近でのお買い上げ高に関わらず広くチャンスが広がる訳です。
こうした地道な活動がとっても大切なのです。