グリコ出荷停止問題から考える「縁の下の力持ち人材」の課題
先日、某大手家電量販店の社長への取材記事を新聞で読みました。販売員の積極性を高めるために評価制度の見直しと表彰制度の導入を計画しているとのこと。従業員のモチベーションを高める取り組みはとっても重要です。但し、やり方を間違えると逆効果になるので注意が必要です。
某大手百貨店外商部の総務系スタッフからこんな相談がありました。
「業績向上のために、営業担当者に売上高に応じたインセンティブを導入しろと言われているのですが、どう思いますか?」
これは悩ましい問題です。残念ながら経営者の中には、「営業職は手厚いインセンティブを用意するとモチベーションが高まって、結果として売上高が拡大する!」と思っている方が少なくないようなのです。もちろん、「業績を上げよう!」との意識は高まり、一定の効果はあるのです。これは間違いない。でも、様々な問題を引き起こします。まず、商談を成約に導くためにはチームメンバーの協力が必要です。事務作業を手伝ってくれるアシスタント、不在時に顧客対応してくれる同僚などなど、その成果を営業担当者一人が持っていってしまうことには、ちょっとモヤモヤ感が残ります。また、既に述べて来たように担当顧客や担当商品分野のポテンシャルの違いも課題です。売上の作りやすさも決して平等ではない。
某高級車ディーラーの営業担当者にヒアリングした時にも「高い業績を上げていると言われる担当者は、良い顧客を抱えているんです。私たちは、ショールームに初めて来た顧客などを担当していて簡単には売上には結びつかない。」と言われたことがあります。この事例では、そもそも好業績の担当者と苦労している担当者では顧客数が倍くらいに違いました。
強すぎるインセンティブは“諸刃の剣”なのです。チームとしての貢献度も評価する仕組み、公平な競争環境などの整備があってこそ、インセンティブは有効に働くのですが、こうした条件が整っている職場はそれほど多くないと思います。また、営業担当としても短期的に売上が見込める顧客に対応が集中し、ポテンシャルを持っていながらも短期的には売上が期待できない(と思っている)顧客には声も掛けない…という状況に陥ります。
先に触れた高級車ディーラーの経営者はとても従業員への配慮がある方で、モチベーション向上に熱心だったのですが、「営業職を採用しても定着せず、短期間で退職してしまう…」と頭を抱えていたのです。経営としては「良かれ!」と思ってインセンティブを考えるのですが、結果として、チームワークを乱し、社内の不満を高めていた面もあったようでした。
私が勤務した百貨店個人外商部門では、その設置の主旨(低稼働顧客の活性化)から当初個人業績評価は導入せず、チーム業績評価だけで運用されていました。その後、業績を大きく伸ばしてく中で、頑張っている営業担当者に報いていくために個人業績評価が導入されたのでした。しかし、振り返ってみるとチーム業績だけだった時の方が、職場の雰囲気は良かったし、評価の納得性は高かったようにも感じます。処遇改善のためには“やむを得ない”対応だったとは思うのですが。
「営業担当にインセンティブを付ければ業績は向上するのか?」に対する答えとしては、以下のとおりです。
向上するかも知れないですけど、環境整備が必要ですね。それよりも組織的な営業の仕組みを考えた方が良いのではないですか?
今年は働き方改革の年です。