定年後に再雇用として働くメリット・デメリット
世間では、「定年退職時に必要な貯金額は3000万円」などと言われますが、本当にそうなのでしょうか。確かに、平均寿命が伸長するなか、これまで以上に老後生活費に気を配る必要があるでしょう。しかし、公的年金の標準支給額などを見ると、それほど多額の貯金は必要がないように思えます。しかも、人手不足が進展するなか、シニアが就労する場は広がっています。今回は、定年退職時に必要な貯金額について考えてみます。
定年後の生活費をどう考えるか
定年後は現役時代と異なり、収入が激減するため、生活を心配する人は多いでしょう。近年は、「老後破産」といったおだやかでない言葉も報道で耳にするようになりました。このような言葉を耳にするにつけ、不安に人は多いですが、現実を知らずに報道を鵜呑みにするのはあまり良いことではありません。
まずは、いたずらに不安をあおる報道に対してまっとうなリテラシーを持ちましょう。そのためには、老後に必要な生活費と実態について客観的に把握しておく必要があります。生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」によると、夫婦2人の場合、最低日常生活費の平均額は月額22.0万円。一方、ゆとりある老後生活費の平均額は月額34.9万円となっています。
ゆとりある老後生活費から最低日常生活費の差額である12.9万円をどう考えるか。この差額の使途を見ると「旅行・レジャー」「身内とのつきあい」「趣味や教養」などとなっています。つまり、生活をより豊かにするための費用をどれだけ用意するかという考え方が老後生活の貯金を考えるうえで必要不可欠なのです。
参照:生命保険文化センター
(http://www.jili.or.jp/research/report/chousa10th.html)
貯金額は生活スタイルを考慮する
先述したゆとりある老後生活費の平均額である月額34.9万円で、定年退職後60歳から平均寿命である80歳まで20年間暮らした場合、いくらかかるでしょうか。
年間で約420万円かかりますから、20年では8400万円です。こんな数字を見せられると「こんなにも多額のお金が必要なのか」と思わず感情的になってしまうかもしれませんが、本当にそうなのか立ち止まって考える必要があるでしょう。
当然ですが、老後の生活費は全て自分で負担するわけではありません。公的年金も支給されるため、貯金額はそれほど多くなくても済むケースもあります。公的年金の支給見込額は、年金事務所のほか、インターネットでも確認できる便利な時代です。もし定年後の生活が不安である人は、まず自分にどのくらいの公的年金が支給されるか確認してみることをおすすめします。
厚生労働省によると、厚生年金の標準支給額(夫婦2人の場合)は22.1万円です。この数字を見て、「支給額は思いのほか多いものだな」と感じた方もいるはずです。この標準支給額をもとに貯金額を計算すると、「ゆとりある老後生活費を準備することはそれほど無茶なことではないのではないか」ときっと冷静になるはずです。
とはいえ、このシミュレーションは、健康に特段問題なく暮らせた場合です。もちろん、大きな病気や介護に備えて貯金に励むことは必要でしょう。現役時代から老後を見据えて、財形貯蓄や確定拠出年金などをうまく活用して無理のない範囲で老後生活の準備をしたいものです。
健康管理を徹底し長く働くことも有効な手段
平均寿命が伸長するにつれ、元気なシニアが増えてきたことは事実です。今や60歳の方を「高齢者」として扱うことは失礼なことだとさえ思えるようになってきました。こうしたなか、国でも元気なシニアに就労の場を提供する施策(高齢者雇用安定法や働き方改革など)が開始されました。
つまり、60歳を超えても働ける場があるということ。例えば、60歳から65歳までの5年間、年間200万円収入を得ることができれば、現役時代の貯金額をかなり減らさずに維持できます。
前回の記事でも触れましたが、働いている人ほど元気があるのは事実。働くことは収入を得るというだけではなく、健康維持にとっても重要なのです。となれば、日頃の健康管理が最も大切。身体が動けば、収入を得ることはそれほど難しいことではないからです。
前回の記事で解説しましたが、起業も収入を得る手段のひとつとしてカウントしても良いでしょう。シニアには今まで培った職務能力と人脈があります。再雇用された場合、今までと同じ仕事をしているのに収入が半分程度まで落ちてしまう傾向があるだけに、納得できない人もいるでしょう。近年の起業はそれほど多額のお金は必要としないもの。しっかりと準備して起業すれば、生活費を稼ぐことはそれほど難しいことではないでしょう。
巷では「定年退職時に必要な貯金額は3000万円」などと言われますが、くれぐれも鵜呑みにしないようにしてください。自身の職務能力と人脈さえあれば、たとえ定年になったとしても、生活の糧を得ることはできるということです。大切なのは、巷に流布する情報に惑わされずに正しい判断力を持ち、現実に向き合うこと。人手不足に陥っている企業が目立つなか、「働くこと」を選択肢に入れれば、自身に最低限必要な貯金額はそれほど多くないはずです。