成年後見人のお仕事とは
親である自分が亡くなった後、知的障害がある子どもはどうなるのだろうか、また万が一、自分が認知症などの重い病気になった場合、子供の生活を支えることが難しくなるので元気な間に手を打っておきたい。知的障害の子どもを持つ親御さんはこうした悩みを抱えておられるのではないでしょうか。
この記事では、成年後見制度を使って知的障害を持つ子どもをサポートする方法についてご紹介します。
法定後見人を選任して早めの対処を
知的障害を持つ子どもの将来が心配な場合は、法定後見制度を利用することをおすすめします。
法定後見制度とは、知的障害がある方や認知症の高齢者など、現時点ですでに判断能力が低下しており、何らかの生活支援を必要とする方をサポートする制度です。本人(被後見人)の判断能力の度合いに応じて、「後見」「保佐」「補助」の3類型に分かれています。
「親が生きている間は、親が後見人になって子どもの生活の面倒をみたい」と考える親御さんも多いと思いますが、後見人候補者となる親族が高齢の場合は、後見人に選任されない傾向にあります。
また、障害のある子どもが若い場合は、後見する期間が長期にわたるので、法人が後見人に選任されることも少なくありません。法人であれば、後見人が本人(被後見人)よりも先に亡くなることはありませんし、本人と相性が良い担当者を自由に選ぶことができます。
親が高齢な場合は、認知症などにより親の判断能力がなくなる可能性も否めません。そういった場合は、子どもだけでなく、親の生活支援や財産管理についても同時に対策を講じておく必要があります。
また、成年後見人は一人だけ選ばれるとは限りません。行政書士などの専門職後見人と、親が一緒に後見業務を行うことも可能です。親が亡くなった後は、専門職後見人に選ばれた専門家が、親の代わりに子どもの生活や財産管理をサポートします。
法定後見人の手続きの流れ
次は、法廷後見制度の手続きについてご説明します。
(1)家庭裁判所に申し立てをする
成年後見制度を利用すると決めたら、必要書類を準備して家庭裁判所に提出し、申し立てを行います。申し立ては、本人、配偶者、4親等内の親族、市町村長などができます。
【用意する書類】
申し立て書類
申し立て書付票
本人の戸籍謄本
住民票
登記されていないことの証明書
診断書
成年後見人候補者の住民票
知的障害の場合、療育手帳(愛の手帳、みどりの手帳、愛護手帳)のコピー
総合判定の記載のあるページのコピー
申し立て書、申し立て書付票、診断書は家庭裁判所で取得できます。診断書については、家庭裁判所で入手した用紙を使って、かかりつけの医師に診断書作成を依頼しましょう。
登記されていないことの証明書は、法務局で取得できます。
【申請手続き費用】
申し立て手数料 800円
代理権または同意権の付与 各800円
登記手数料 2600円
送達・送付費用 3200円または4100円
精神鑑定などが必要な場合は、別途鑑定費用が5~10万円程度かかります。
これらの申し立てに要する費用は、原則申し立て人が支払うことになります。
(2)面接を受ける
家庭裁判所が関係者に事情を聞くため、本人と申し立て人、後見人候補などが出席して面接を行います。
(3)家庭裁判所が審判する
家庭裁判所調査官が事情を聞き、関係者に問い合わせをして調査した後、審問→鑑定→審判という手順を踏まえ、必要な場合は成年後見人を選任します。
(4)登記
選任された成年後見人が、審判書謄本を受け取ります。2週間以内に関係者から異議の申し立てがなければ登記が完了します。
後見事務開始
登記完了後1カ月以内に財産目録と年間収支予定表を作り、家庭裁判所に提出し、後見事務を開始します。
成年後見制度の活用例
【事例1】
70代女性A子さん。夫はすでに他界しており、自分も高齢になっている。息子は知的障害があり、自分の生活や財産の管理ができない状態。そこでA子さんは、成年後見制度を活用して、息子が一人になった時に困らないよう専門職の後見人が選任された。
また、A子さん自身が認知症や寝たきりになった時のため、財産の管理などを安心して任せられる任意後見人を決めた。
他にも、A子さんが亡くなった後に行う葬儀や不動産契約の解約、住居内の遺品整理、親族への連絡などは任意後見事務の範囲外になるため、それらの手続きを委任する「死後事務委任契約」を締結した。
【事例2】
知的障害がある妹は、商品を購入すると料金が必要になることなどが理解できない。勝手に携帯電話を契約して料金を払わないなどのトラブルを起こすこともある。今後、他人にだまされて多額の借金などを背負い込んでしまわないか心配なので、後見人制度を利用して法定後見人を選任した。
成年後見制度を利用することで、妹が勝手に結んだ契約を取り消したり、無効を主張できるようになった。