成年後見人になる心構え
判断能力が弱まった本人の代わりに財産を管理したり、必要な契約を結んだりする成年後見人。この記事では、成年後見人に一任される仕事や、専門職後見人、第三者後見人などについて詳しくご説明します。
成年後見人のお仕事
成年後見人の仕事は、財産管理と身上監護の二つに分かれています。
財産管理では成年後見人が、財産の管理ができなくなった本人の代理となり、日常生活の金銭管理から重要財産の処分まで一切の財産を管理します。
普通預金や定期預金、生命保険の証書、不動産の権利証や契約書などを預かり、家賃や社会保険料、税金などの支払いを本人の代わりに後見人が行います。
【成年後見人に一任される財産管理】
1.印鑑、現金、預貯金、不動産などの管理
2.収入、支出の管理(預貯金の管理、年金・給料の受取、公共料金・税金の支払いなど)
3.貸地・貸家の管理
4.有価証券などの金融商品の管理
5.遺産相続の手続き
などです。
一方、身上監護とは、本人の安全や健康に気を配り、安心した生活を送れるよう、契約の更新や、医療機関の各種手続きなど、法律行為による支援を行うことを指します。本人に対する、介護や看護サービスは含まれません。
【成年後見人に一任される身上監護】
1.医療機関に関する手続き
2.家賃の支払いや、契約の更新など
3.介護保険に関する各種手続き、費用の支払い
4.住居の確保に関する手続き
などです。
家庭裁判所への報告
成年後見人は、その業務内容を家庭裁判所に定期的(実務上は年に1回程度)に報告する義務があります。また、本人が住まいの場所を移したり、財産を処分した場合は、その都度、家庭裁判所に報告しなければいけません。
裁判所に求められた報告を行わなかった場合には、家庭裁判所が成年後見人を解任することがあります。
専門家が後見人を務める「専門職後見人」
専門職後見人とは、司法書士や弁護士、行政書士、社会福祉士などの専門家で後見人に就任した人のことをいいます。専門家が後見人になると、専門的で面倒な事務作業を親族が行う必要がなくなります。また、専門の研修を受けているため、後見人としてのスキルが親族よりも高いこともメリットです。
親族以外が後見人になる「第三者後見人」
第三者後見人とは、後見人に就任した「親族以外の第三者」を指します。市民後見人がその代表的なものです。成年後見制度が始まった当初は、本人の親族が成年後見人を務める割合が、全体の8~9割を占めていました。しかし、2015年には親族の成年後見人は全体の3割を切り、親族以外の第三者が成年後見人に選定される件数が増えています。
後見人になれる人とは
任意後見制度(将来に備えて後見人をあらかじめ決めておく制度)では、契約で依頼をされた人が後見人なります。
一方、法定後見制度(すでに判断能力が不十分な人を保護する制度)では、家庭裁判所から選任された人が後見人になります。法定後見制度では、成年後見人を選任するのは家庭裁判所なので、例えば母が息子を候補者として申し立てても、息子が選任されるとは限りません。トラブルが予想される場合は司法書士、行政書士などの専門家が専任されることもあります。
行政書士が後見人になるメリット・デメリット
それでは、行政書士が後見人になった場合どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。順に見ていきましょう。
まずはメリットからです。
1.本人の財産管理は、成年後見人である行政書士が行うので、判断能力が不十分になっても不利益な契約を結んでしまうリスクがありません。
2.病院に入院したり、施設に入居する際の契約も、本人の代わりに行政書士が行います。もし、本人が不利益な契約を結んでも、後見人である行政書士が契約を取り消すことができます。最近は、親族が財産を私的に流用することも増えているので、中立的な立場である行政書士や弁護士などが成年後見人に選定されることが増えています。
次は、行政書士が成年後見人になった場合のデメリットについて見てみましょう。
1.家庭裁判所が決めた報酬を行政書士に支払う必要があります。あくまでも目安ですが、本人が所有する財産が1000万円以下なら2万円/月、1000~5000万円の場合は3~4万円/月、5000万円なら5~6万円/月となります。
2.本人の判断の判断能力が回復する、あるいは死亡するまで成年後見人が継続します。それに伴い、後見人に支払う報酬が継続的に必要となります。
3.成年後見人が選定されると、本人がさまざまな資格制限を受けます。例えば、会社の役員・医師・弁護士など、高度な判断能力が必要とされる役務を果たせなくなるので、これらの資格は取得できなくなります。
親族は後見人になれない場合がある
最後に、親族が後見人になれない場合についてご説明します。成年後見人になるための特別な資格はないので、基本的には誰でも後見人になれます。しかし、「未成年者や破産者」「本人に対し訴訟をした場合、または訴訟をした人、およびその配偶者並びに直系血族」「行方の知れない人」は、親族であっても後見人にはなれません。