男女間トラブル事件簿その1~別れ話のもつれによるトラブル事例
婚姻届を提出し、法律上の婚姻関係が認められる場合(法律上の夫婦)、夫婦は、互いに貞操義務(夫または妻以外の者との間で性的な関係を持たない義務)を負っているため、肉体関係を伴う不倫(不貞行為)について、不倫をした配偶者や不貞の相手方には損害賠償義務が発生し、不倫をされた配偶者は、慰謝料請求をすることができます。
これに対して、婚姻届を提出していないカップルは、互いに貞操義務を負っていませんから、浮気をしたとしても、原則として損害賠償義務が発生することはありません。
もっとも、以下のような場合には、婚姻届を提出していないカップルであっても、損害賠償義務が発生し、慰謝料請求をすることができる可能性があります。
婚約をしている場合
婚約とは、将来的に婚姻をすることを約した契約がなされたものと解されるところ、婚約当事者には、互いに誠意をもつて交際し、婚姻を成立させるよう努力すべき義務があるため、婚約中に浮気をすることは民法上の不法行為に該当し、損害賠償義務が発生します。
婚約の成立についての判断にあたっては、結納や結婚式場の予約、婚約指輪の授受等の客観的な事情が重視されます。恋人同士で「いつか結婚しようね」などと言っていたというだけでは、婚約が成立しているとは認められないでしょう。
浮気相手に対して慰謝料請求をするには、浮気相手が婚約の存在を知っていたことが必要です。相手方の認識を証明するのは容易ではありませんが、LINEのやりとりなど客観的な証拠がある場合には、立証が可能なこともあります。
内縁関係が形成されている場合
① 通常の内縁関係の場合
婚姻届は提出していなくても、同居している男女が事実上の夫婦となることを合意しており、社会的にみて夫婦と異ならないような実態がある場合には、内縁の夫婦であると解されます。
内縁の夫婦の場合は、実態としては婚姻届を提出している法律上の夫婦と異ならないわけですから、互いに貞操義務を負っており、浮気をすれば、法律上の夫婦の場合と同様に不法行為に該当し、損害賠償義務が発生します。
浮気相手に対して慰謝料請求をするためには、浮気相手が内縁関係の存在を知っていたことが必要になります。
② 重婚的内縁関係の場合
では、婚姻届を提出した配偶者がいるにもかかわらず、他の者と内縁関係を形成していたような場合(法律上の婚姻関係を残したまま、内縁関係を形成している場合)であっても、浮気は法的に許されないのでしょうか。内縁関係自体が浮気であるように思われ、すると、この関係は法的に保護する必要がないようにも思われます。
例えば、以下のような事例です。
男Xが婚姻届を提出した妻Yがいながら、内妻Zと事実上の夫婦関係(内縁関係)にあったとします。このような場合に、男Xが女Aという第三の女性と不貞行為に及んだ場合、内妻Zは、男Xや女Aに対して不貞行為を理由に慰謝料請求をすることができるのでしょうか。
この事例のように法律上の配偶者がいるにもかかわらず、別途、内縁関係が形成されているような場合を「重婚的内縁関係」といいます。重婚的内縁関係が成立しているといえるためには、法律上の婚姻関係がすでに形骸化していることが必要です。
かつては、刑法が重婚を許していないことなどから、重婚的内縁関係は法的な保護に値しないとする見解が有力でした。
しかしながら現在では、重婚的内縁関係であっても、内縁に入った経緯や内縁夫婦生活の実態、内容などを考慮して、事案によっては法的な保護を付与する考え方が一般的です。ただし、常に損害賠償義務が認められるとは限りませんし、通常の内縁関係の場合よりも賠償額が少なくなる可能性もあります。
浮気相手に対して慰謝料請求するためには、浮気相手が内縁関係の存在を知っていることが必要であるのは、通常の内縁の場合と同様です。
以上のとおり、婚姻届を提出していないカップルであっても、例外的にではありますが、慰謝料請求が可能な場合があります。これら事情に該当すると思われるようでしたら、私たち弁護士に相談してみてください。
弁護士 上 将倫