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男女間トラブル事件簿その18~嫡出推定-前夫の子供ではないのに戸籍上の父が前夫になってしまう?

上将倫

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テーマ:男女間トラブル事件簿

嫡出推定制度

 皆さんは、法律上の父親と血縁上の父親とが違う場合があるという話を聞いたことがあるでしょうか。
 母親は分娩の事実をもって当然に母親になるのに対して、父親と子供との関係は、当然には明らかにはなりません。
 そこで民法は、夫婦の間に生まれた子は、血縁上も夫の子であることが多いという経験則を背景にして、次のとおり嫡出推定制度を設けています(民法772条)。

① 妻が婚姻中に懐胎した子は、その夫の子であると推定する。
② 婚姻成立の日から200日を経過した後、または、離婚後300日以内に出生した子は、妻が婚姻中に懐胎した子であると推定する。

 このような嫡出推定が及ぶ子の場合、出生届を提出すると、戸籍の父の欄には、その夫の名が記載され、法律上その夫が父親であるということになります。
 なお、結婚後200日を経過する前に生まれた子については、嫡出推定は及びませんが、戸籍には夫婦の子として記載される(戸籍の父の欄には、その夫の名が記載される)実務が定着しています。
 
 問題となるのは、離婚後300日以内に、前の夫以外の別の男性との間の子供が生まれた場合です。
 その子は、実際には前の夫以外の男性の子であるにもかかわらず、上記②の要件に該当するため、前の夫との間に嫡出推定が及びますから、戸籍上、前の夫の子とされてしまいます。
 このように、子供の戸籍の父の欄に、前の夫の名が記載されてしまうことを嫌って、母親が出生届を出さないがために、子供に戸籍がない(無戸籍)事態に陥ってしまっているケースがあり、「離婚後300日問題」として、大きな社会問題になったことは記憶に新しいところです。

認知制度

 血縁上の父親と嫡出ではない子との間の父子関係は、「認知」によって生じます。具体的には、血縁上の父親が役所に「認知届」を提出することによって、その子との間に父子関係が発生することになります。
 認知をしていなければ、当該男性(血縁上の父親)には扶養義務がないため、母親は当該男性に対して養育費を請求することもできませんし、その子が、将来、当該男性の死後に相続権を主張することもできません。

 血縁上の父親が認知に応じない場合には、親権者である母親または子自身は、「強制認知」を求めて、家庭裁判所に申立をすることができます。
 この手続は、調停(裁判所での話し合い)をすることが義務づけられているため、まず調停申立をします。調停が成立しない(裁判所での話し合いに折り合いがつかない)場合は、訴訟を提起することになります。
 なお、認知を求めるべき血縁上の父親が死亡しているときは、検察官を相手方として手続を進めます。

嫡出否認

 前記のような嫡出推定制度の下では、原則として、戸籍上の父親が嫡出否認の訴えを起こさなければ、これを破ることはできないとされています(例外的に、出生届に添付された医師の証明書によって、最も早いと考えられる懐胎時期が、離婚後であることが確認できる場合には、戸籍に「民法772条の推定が及ばない」と記載される取り扱いが、平成19年5月21日から開始していますが、これは、子供が未熟児で出生した場合における特殊な取り扱いです)。

 例えば、2017年3月に離婚した女性が、その8か月(約240日)後である同年11月に別の男性との間の子を出産したとします。この子は、離婚後300日以内に生まれたわけですから、前の夫との間に嫡出推定が及んでおり、このまま出生届を提出すると、前の夫の子とされてしまいます。
 このような場合、嫡出否認の訴えを起こすことができるのは、戸籍上の父親である前の夫だけであり、母親や子自身は、この訴えを起こすことができません。
 また、嫡出否認の訴えを起こすことができるのは、戸籍上の父親が出生を知ったときから1年以内とされており(民法777条)、非常に短い期間に制限されています。
 このような制度設計がなされているのは、血縁関係の有無にかかわらず、実際に親子として生活してきているなら、それを尊重しようという考え方からです。
 例えば、出生から何十年も経って、戸籍上の父親が死亡した後、別の子(きょうだい)から当該子に対して、父子関係、ひいては相続権の不存在を主張して争うことができるとすれば、家族関係の安定が損なわれてしまいます。
 したがって、父子関係を早期に確定することは、家庭の安定に必要不可欠であると考えられたわけです。この点、民法の制定当時には、DNA鑑定などの科学的な父子関係を判別する方法がなかったことも、影響しているものと思われます。

 なお、嫡出否認の訴えについても、訴え提起の前に、調停を経る必要があります。

例外的に嫡出推定が及ばないと判断される場合

 上記事例のような場合には、まず、前の夫に嫡出否認の調停を起こしてもらうように依頼することが考えられます。
 前の夫としても、実際には自分の子ではない子供が戸籍に入ったままでは、養育費の支払義務を負い、また、相続権も発生してしまうことから、手続に協力するメリットはあるため、応じてくれる見込みは十分あります。

 ところが、前の夫が、根深い確執などから(嫌がらせとして)手続に非協力的であったり、あるいは、母親が前の夫からDVを受けていたような場合には、前の夫に手続の協力を得ることは困難です。
 このような場合、何らかの方法で、子供の父親を前の夫としない戸籍を作成することはできないのでしょうか。

 この点、最高裁判所は、「妻が子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実体が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合」には、嫡出推定は及ばないと判示しています(平成12年3月14日判決)。
 このことからすると、長期の別居など夫婦としての実体が既に失われているような場合には、嫡出推定が「及ばない」ことになります。

 このように嫡出推定が及ばないと判断される場合には、子自身または血縁上の父親は、戸籍上の父親に対して、親子関係不存在確認の訴えを提起することが可能です(なお、これについても訴え提起の前に調停を経る必要があります)。
 また、嫡出推定が及ばないわけですから、前述した、子自身または母親から、血縁上の父親を相手に強制認知の訴えを行う方法も有効です。
 とりわけ、出生届が未了の場合、予め家庭裁判所で認知の審判または裁判を得ていれば、最初から、血縁上の父親を戸籍上も父親とする戸籍を作成することができます。

 ただ、最高裁がいう嫡出推定が及ばない場合とは、例えば、「遠隔地に居住している」とか「夫が刑務所に入っていた」など、およそ性的関係を持つことがあり得ないような場合を想定しているようにも考えられます。
 そうだとすれば、別居後間もないとか、家庭内別居であったとかいう場合には、血縁のない父親が法律上の父となるのはやむを得ず、あきらめないと仕方がないのでしょうか。DNA鑑定で、法律上の父親とは父子関係がないとの鑑定結果が出ている場合にまで嫡出推定が及ぶのかが問題となります。
 この点、最高裁平成26年7月17日判決は、戸籍上の父と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的根拠により明らかであり、かつ、戸籍上の父と妻が既に離婚して別居し、子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても、嫡出推定が及ばなくなるとはいえないと判断しました。
 したがって、本件最高裁判決の事例のように、法律上の父親(=戸籍上の父親)が、嫡出推定が「及ぶ」ことを主張している場合には、たとえDNA鑑定で生物学上の父子関係が存在しないことが立証されていたとしても、嫡出推定を否定するのは困難でしょう。

 しかしながら、法律上の父親が、親子関係の不存在を争っていない場合にまで、どこまで嫡出推定について厳格に考えるかは、裁判官によって異なると考えられます。
 実際、私自身、嫡出推定が及ばないとは言いがたいような事案について、親子関係の不存在を認めてもらった経験があります。
 難しい事情があっても、あきらめずに、まずは私たち弁護士に相談してみることをお勧めします。

                               弁護士 上 将倫

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専門家

上将倫(弁護士)

弁護士法人 松尾・中村・上 法律事務所

依頼者にしっかりと向き合い、依頼者と一緒に最良の解決を目指す。離婚問題、男女間トラブルについて特に経験が豊富で、高い解決力をもつ

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