男女間トラブル事件簿その1~別れ話のもつれによるトラブル事例
警察庁の統計によれば、平成28年(2016年)の配偶者からの暴力事案等の相談等状況の件数は69,808件、同検挙状況の件数は8,291件といずれも最多となりました。
このような配偶者等近しい人からの暴力(ドメスティックバイオレンス。DV)被害に遭ったときに有効な手段として挙げられるのが、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(「DV保護法」)」による保護命令制度(DV保護命令)の活用です。
DV保護命令とは、配偶者等から身体的な暴力を受け、または生命等に対する脅迫を受けた被害者の申立により、地方裁判所(家庭裁判所ではありません)が加害者に対して、つきまとい等を禁止する命令を行う制度です。
加害者がこの命令に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられるため、強力な抑止力が期待できます。
以下、DV保護命令の詳細について、ご説明しましょう。
DV保護命令における「被害者」とは
DV保護命令における「被害者」とは、「配偶者等からの身体に対する暴力を受けた者」、または「配偶者等からの生命または身体に危害を加える旨の脅迫を受けた者」に限られ、かかる「被害者」が、配偶者等から受ける身体に対する暴力により、その生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きい場合にDV保護命令の申立をすることができます。
このように、被害者は加害者と婚姻関係(あるいはそれに類する関係)にあることが必要になりますが、ここには事実婚の場合も含まれ、DV被害を受けた後に離婚をしたような場合も含まれます。
また、婚姻関係になかったとしても、同棲中の交際相手からDV被害を受けている場合、または、かつて同棲していた元交際相手より同棲中から継続するDV被害を受けた場合には、同様に申立をすることができます。
なお、同棲を伴わない交際の場合は、DV保護命令を利用することはできず、ストーカー規制法など他の法律によって対応していくことになります。
まずは警察・DV相談支援センターへ相談する
DV保護命令の申立にあたっては、これに先立って、警察、もしくは自治体が設置する配偶者暴力相談支援センター(DV相談支援センター)へ相談する必要があります。
裁判所へ提出するDV保護命令の申立書に、これらの機関に相談した旨を記載するためです。
これを受けて、裁判所から当該機関(警察あるいはDV相談支援センター)に対して書面提出の請求がなされます。
したがって、警察等への相談に際しては、DV被害について、全てを正直に話しておくことが重要です。
なお、警察等の機関に相談することなく、DV保護命令の申立をすることもできますが、この場合には、公証人の認証を受けた宣誓供述書を作成する必要があり、費用もかかるため、警察等の公的機関への相談の方をお勧めします。
保護命令の種類
ひとくちにDV保護命令の申立といっても、以下のように様々な命令があり、事案に応じて、適切な命令の発令を求めなければなりません。
(1) 退去命令
命令の効力が生じた日から起算して2か月間、申立人(被害者)と共に生活の本拠としている住居から退去すること。同住居の付近を徘徊することを禁じること。
(2) 接近禁止命令
命令の効力が生じた日から起算して6か月間、申立人(被害者)の住居(相手方(加害者)とともに生活の本拠としている住居(=同居している場合)を除く)その他の場所において申立人の身辺につきまとい、または、申立人の住居、勤務先、その他その通常所在する場所の付近を徘徊することを禁じること。
(3) 電話等禁止命令
接近禁止命令の効力が生じた日から起算して6か月間、申立人(被害者)に対して次に掲げるいずれの行為をすることも禁止すること。
① 面会を要求すること。
② その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと。
③ 著しく粗野または乱暴な言動をすること。
④ 電話をかけて何も告げず、または緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、もしくは電子メールを送信すること。
⑤ 緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ送信を用いて送信し、もしくは電子メールを送信すること。
⑥ 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付しまたはその知りうる状態に置くこと。
⑦ その名誉を害する事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと。
⑧ その性的羞恥心を害する事項を告げ、もしくはその知りうる状態に置き、またはその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、もしくはその知りうる状態に置くこと。
(4) 子への接近禁止命令
申立人(被害者)への接近禁止命令の効力が生じた日から起算して6か月間、申立人の子の住居、その他その通常所在する場所の付近を徘徊することを禁じること。
子への接近禁止命令は、被害者が幼年の子と同居しているときであって、配偶者(加害者)が、幼年の子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていること、その他の事情があることから被害者がその同居している子に関して、配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するために必要がある場合に認められます。
(5) 親族等への接近禁止命令
申立人(被害者)への接近禁止命令の効力が生じた日から起算して6か月間、申立人の親族その他申立人と社会生活において密接な関係を有する者の住所、その通常所在する場所において身辺につきまとい、徘徊することを禁じること。
親族等への接近禁止命令については、配偶者(加害者)が、親族等に対して著しく粗野または乱暴な言動を行っていること等の事情があり、これによって申立人が配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するために必要である場合に認められます。
DV保護命令申立のポイント
DV保護命令の申立においては、まず、生命身体に危害を加えられたことを証明することができるかがポイントとなります。
この際、診断書や被害状況を撮影した写真など、怪我をしたことが分かる資料を提出することが有効です。
写真を撮る場合には、怪我をした部分に加えて、怪我をしたのが誰であるのかが分かるように、顔が写った写真も残しておくようにしましょう。
このような客観的な証拠がない場合であっても、保護命令が認められることもありますので、必ずしも諦める必要はありません。
客観的な証拠がない場合には、いつ、どのような態様で暴力を加えられたのか、できるだけ具体的かつ詳細に陳述書に記載をします。
脅迫の場合も、録音があるに越したことはありませんが、ない場合にも諦めずに、どのようなことを言われたのかをよく思い出して、それをありのまま陳述書に記載することになります。
次に、今後、暴力を受けるおそれがあることを裁判官に理解してもらえるかどうかがポイントになります。
ここでは、相手方(加害者)が、今後、申立人(被害者)の生命または身体に重大な危害を与えるような暴力をふるうであろうことを説明するために、相手方の性格や日頃の言動等を明らかにすることが重要になります。
保護命令を申し立てた場合、裁判所に出頭して、裁判官から事情を聴取されます。
申立書に記載した事情について、裁判官が知りたいと思うことを聞かれますが、ありのまま事実を述べれば、それで十分です。
相手方(加害者)は、申立人(被害者)とは別の日に呼び出されますので、顔を合わせることはありませんので、ご安心ください。
再度の申立
接近等禁止命令の有効期間である6か月を経過してもなお、相手方(加害者)からの面会要求が続いているなど危害を加えられるおそれがある場合には、再度の申立を行い、接見等禁止の期間を延長してもらうことによって、安全を確保していくことも可能です。
DV被害に遭われた方の中には、いつ、また同様の被害に遭うのではないかと恐怖に怯え、なかなか離婚手続等、別離に踏み切ることができない方も少なくありません。
DV保護命令を活用すれば、安全を確保しつつ別離を進めることが可能になります。
勇気を出して、まずは私たち弁護士にご相談いただき、新たな第一歩を踏み出してください。
弁護士 上 将倫