男女間トラブル事件簿その4~妊娠中絶をした場合、慰謝料や中絶費用等を請求できるか(後編)
最近では、「リベンジポルノ」という言葉が当たり前のように使われていますが、この問題は、SNSの普及に伴い、デジタルカメラや携帯電話・スマートフォンなどの撮影機器からの画像や動画を専門的な知識を要することなく、インターネット上へアップロードすることが容易になっていく中で社会問題化したものであって、極めて現代的な問題です。
「リベンジポルノ」の典型は、交際相手の裸体やわいせつ画像・動画等を、別れ話を切り出されたことへの腹いせや嫌がらせ目的等でインターネット上に流出させる行為です。
かつては、交際相手の裸体や性行為の様子などの画像や動画を所持していること自体がそれほど多くはなかったと思われますし、仮に所持していたとしても、インターネット上へアップロードするためには一定の専門的知識が必要であったため、インターネット上への流出は稀なことで、他人が見ることができる場所に流出させるためには、当該女性の居住地や勤務地などにプリントアウトしたわいせつ画像をばらまくといった、加害側にも非常にリスクの高い方法をとらざるを得なかったことから、個人的に所持するにとどまっていたものと思われます。
しかしながら、現在においては、SNSや撮影機器の発展に伴い、一個人が自己の保有する情報を非常に容易にインターネット上へアップロードすることができ、これにインターネット上での匿名性が相まって、「リベンジポルノ」のハードルは非常に低くなっているといえます。
こういった社会状況の変化を受けて、平成26年11月に施行されたのが、いわゆる「リベンジポルノ防止法」です。
従前、「リベンジポルノ」に対しては、わいせつ物頒布罪や名誉毀損罪、ストーカー規制法等を適用して取り締まることが考えられました。
しかしながら、わいせつ物頒布罪の「わいせつ物」に該当するのか、名誉毀損罪の成立に必要な「公然と事実を摘示して名誉を毀損した」ものといえるのか、あるいは、ストーカー行為に該当するのか等については、いずれも個別の事案ごとの検討が必要であり、容易に摘発できるわけではありません。
また、わいせつ物頒布罪などは、本来、社会の健全な風俗を守るための規定であって、女性の人権を守るという視点から制定されたものではありません。
このように、既存の法律でもある程度の対応は可能でしたが、必ずしも十分であるとはいえなかったため、新たな立法を行って、より一層、「リベンジポルノ」を封じ込める必要があったわけです。
では、この「リベンジポルノ防止法」とはいったい、どのような法律なのでしょうか。
リベンジポルノ防止法の正式名称は「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」といい、「私事性的画像記録」の提供等によって私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、流出によって名誉または私生活の平穏の侵害があった場合における支援体制の整備等について定めることにより、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生またはその拡大を防止することを目的としています。
そして、この法律における「私事性的画像記録」については、以下の①から③のいずれかを撮影した画像に係る電磁的記録その他の記録をいうと定義づけがなされています。
① 性交又は性交類似行為にかかる人の姿態
② 他人が人の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。)を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
③ 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され、又は強調されているものであり、かつ性欲を興奮させ又は刺激するもの
但し、撮影した者、撮影対象者(撮影された人自身)及び撮影対象者から提供を受けた者(撮影された人自身から当該画像などを譲り受けるなどした人)以外の者が閲覧することを認識した上で、撮影対象者(撮影された人)が、任意に撮影を承諾し、又は撮影したものを除くとされています。
このことから、①から③のいずれかに該当すれば、交際相手にだけに見せることを前提とした画像や隠し撮りをされた画像は、「私事性的画像記録」となりますが、一方で、アダルトビデオやグラビア写真など不特定の第三者に見られることを撮影された人自身が認識して撮影を許可した画像は、「私事性的画像記録」にはあたらないことになります。
この「私事性的画像記録」に該当する画像を、第三者が撮影対象者(撮影された人)を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて不特定もしくは多数の者に提供した者が、リベンジポルノ防止法に基づき、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
すなわち、「私事性的画像記録」に該当する画像であっても、顔にモザイクをかけたりするなどして撮影対象者(撮影された人)を特定できない方法による場合、インターネット上に流出させたとしても、この法律により処罰することはできませんし、先述したような画像をプリントアウトしてばらまく場合も「電気回線を通じて」いませんので、他の法律に触れることはあっても、この法律による処罰はできません。
このように、リベンジポルノ防止法をもってしても、その全てが処罰の対象となるわけではありません。
その当時、どんなに親密な関係であっても、その関係が未来永劫継続する方が稀なわけで、そもそも「撮らせない」というのが最大の自衛策です。
「リベンジポルノ」は、交際を解消されたことに納得できない加害者が、逆恨みして行うのが通常であり、同時進行的にストーカー行為が行われていることが多いはずです。
リベンジポルノの被害に遭ったなら、速やかに警察や弁護士へ相談をし、リベンジポルノのみならず、ストーカー行為による被害を防止するための措置をとるようにしてください。
弁護士 上 将倫