特定の子に財産を相続させないことはできるのか?
故人(被相続人)の葬儀費用は、誰が支払うべきなのでしょうか。
葬儀費用の金額は、日本消費者協会「第11回『葬儀についてのアンケート調査』報告書」(2017年)によると、平均して約195万7000円となっており、相当高額な支出です。
これを故人の遺産から当然に支出してもよいのか、その費用負担については、しばしば相続人間で争いとなります。
例えば、長男など相続人の代表格である喪主が、独断で葬儀費用を故人の遺産から支出していた場合、各相続人の遺産の取り分は減ってしまいますから、喪主以外の相続人から不満が出るわけです。
この点、民法上、885条1項において、「相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する」としか規定されていません。
葬儀費用がここでいう「相続財産に関する費用」にあたるのであれば、故人の遺産から支出することができますが、そもそも葬儀費用は、故人の入院費用などの相続債務(=マイナスの相続財産)ではなく、あくまでも、喪主などの遺族と葬儀業者との間の契約に基づいて、「故人の死亡後に新たに発生する費用」であることから、「相続財産に関する費用」にあたるとは言い切りがたいため、以下のように判例・学説上争いがあり、現時点では法的に確立された見解はありません。
○ 喪主負担説
葬儀費用は喪主が独自に負担すべきであり、他の相続人に負担を求めることはできないという考え。
○ 相続人全員負担説
相続人全員が相続分に応じて負担すべきという考え。
○ 相続財産負担説
相続財産=遺産から支出すべきであるという考え。
葬儀費用は民法885条1項の「相続財産に関する費用」と考える説。
○ 慣習や条理によって決めるべきであるという説。等々。
以上のように、葬儀費用は誰が負担すべきかについては、判例・学説上争いがありますので、大切なことは、「葬儀費用は当然に喪主が負担すべき」とか「当然に遺産から支出されるべき」と決めてかからないこと。そして、喪主の長男などが「遺産から出すのは当然だ」などと断定的な物言いをしても、必ずしも従わないといけないわけではありません。
葬儀費用について、後日の紛争を回避するためには、「誰が負担するのか」、「遺産から支出するのかどうか」について、事前に相続人全員で協議・話し合いをしておくとよいでしょう。
現実には、故人がお亡くなりになられた悲しみの中、このような話し合いまで対応するのは難しいものですが、遺産分割の話し合いの際に、あわせて葬儀費用の負担についても話し合いをし、相続人全員の合意により、遺産から支出すると決めておかれるケースが一般的です。
なお、葬儀費用と類似する問題として、初七日などの「法要費用」がありますが、これについても、「故人の死亡後に新たに発生する費用」という意味では葬儀費用と同様ですから、遺産から当然に支出をしてもよいものではなく、法要費用を遺産から支出するためには、相続人全員の同意・承諾が必要になります。
弁護士 松尾善紀