特定の子に財産を相続させないことはできるのか?
(前編はコチラ)
どうして「きょうだい平等」という事業承継が起こりがちなのかというと、創業者である親が、「どちらの息子も可愛い。自分はどちらの息子とも良好な関係を保ちたい。自分の築いた会社を息子2人ともに与えたい。自分の死後も兄弟仲良くやってほしい」等々の心理から、兄弟に株式を公平に分けたり、兄弟2人とも会社に入れて共同経営を始めたりするからです。
さらには、将来の相続や事業承継の問題について、創業者である親が、兄(長男)と一対一で話すときには兄の希望に沿うような話をし、弟(次男)と一対一で話すときには弟の意向に迎合するような話をするために(要するに「ええかっこしい」をしてしまうのです)、兄弟間の対立を悪化させ、紛争の混迷を深めてしまっているケースもあります。
それでも創業者が健在のときには「抑え」が利いており、争いも顕在化しないのですか、代替わりをした途端、抑えを失った兄弟が、一気に係争モードに変わってしまったという事例は、多く見受けられます。
そのように息子たちが泥沼の争いをすることを避け、事業をなるべく健全な形で次世代に遺すための対策は、当たり前のことですが、事業の後継者、会社経営の主導権をはっきり確定させるということです。
ベストなのは、早い段階から、子供たちそれぞれの資質や能力、意向などをよく把握して、子の中から後継者にする者を見定め、そのことを親族内で周知し、計画的に会社に入社させ、段階的に責任のあるポジションに就かせていき、経営者となるに相応しいキャリアを積ませ、かつ、会社経営に不可欠な資産についても、その後継者に相続させる段取りを進めることです。
このような計画的な対策が無理であっても、せめて、しかるべき遺言をすることにより、会社の株式の3分の2以上と、経営の基盤となっている資産を、特定の相続人に相続させるべきでしょう。
上記いずれの対策をとるにしても気を付けないといけないのは、株式の配分という点で、後継者が安定した多数派を形成しさえすればよいわけではなく、会社経営に不可欠な資産についても、適切に整理、集約して後継者に相続させる必要があるという点です。
トラブルとなる例で多いのは、事業運営の基盤となる不動産を、深く考えずに、きょうだいの共有にしていたり、あるいは、個々の土地建物は、きょうだいそれぞれの単独所有にしていても、非常に入り組んだ形で事業のために提供しているために、個別財産をめぐる争いが生じても、簡単に手を切れないという複雑な状態に陥っているケースです。
このようなトラブルを回避するためには、事業に必要な資産は、長期的な計画のもと、会社名義で取得を進めるのが望ましいですし、同族の個人名義で保有するとしても、取得の際に後継者の単独所有としたり、同族内外での譲渡や交換等々をもって整理をしたり、最終的には遺言で後継者に集約するということが重要なのです。
このほか、計画的で賢明な対応策として実務上見られるのは、創業者が、事業内容の異なる会社を複数立ち上げて育て、相互に経営や運営に、ある程度独立性のある構造にした上で、きょうだいそれぞれに別個の会社を与えて継がせるという形でバランスをとるという例です。
ただこの場合でも、各会社の規模や経営状態には、どうしても差異が生じますので、完全に平等な結果にできるわけではありません。
上記のような各対策は、「結局は子供の内の1人を優遇する結果になるのだから、後継から外された子から恨まれてしまうではないか」という懸念をもたれる方もおられるでしょう。
確かにそういう側面は否定できません。これについては、どうして特定の子を後継者とするのかという理由や、事業経営を継ぐということは、良いことばかりではなく、相当な負担や責任、リスクも合わせて背負い込むという点で大変なことでもあることなどを、家族内で長い年月をかけて説いて理解を求めていくほかありません。
また、事業の後継者とならなかった子に対しても、かける愛情は平等であることを伝えるとともに、他の局面で有形無形の優遇をしたり、会社経営に関係のない資産を十分に相続させるなどして、きょうだい間のバランスをとる努力をすることも必要でしょう。
仮に、特定の子を後継者とすることで他の子との関係が悪化する時期があったとしても、その後、何十年も子や孫(※)たちが争うよりもましであると考えるくらいの覚悟で、心を鬼にして決断してください。
しかるべき後継者に安定した形で事業を承継することは、成功した事業者には避けることのできない責任、大袈裟に言えば宿命のようなものかもしれません。
※ 自社の株式を子に平等に持たせる同族会社は、さらにその次世代の子たち、すなわち、創業者の孫たちにも、概ね公平に株式を分け与えることになる傾向があります。しかし、そうして株式保有者が細分化し、利害関与者が増えるほどに、会社経営が混迷化するリスクは増していきます。
弁護士 中村正彦