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同族会社の事業承継の難しさ(前編)―「きょうだい平等」は危険

中村正彦

中村正彦

 いつの世も、同族会社内での争いや事業承継をめぐる紛争は尽きません。
 先般も、大塚家具で創業家の父娘、親子間が係争していることが話題となりましたが、私たち弁護士が実務で多くみるのは、ロッテの経営権争いの事案のような、きょうだい間の実権争いです。
 具体的には、中小規模ながら、ある企業を一代で立派に育てあげた創業者から、次世代に代替わりした後に、創業者の子らが、会社の主導権や経営方針をめぐって激しい紛争を繰り広げる事例です。
 こういった事例において、事態が深刻化している原因のひとつとして、「創業者がきょうだいを平等に扱ってきた」ことが挙げられます。
 教育論としては、「きょうだいを平等に扱う」というのは正しいことなのかもしれませんが、こと事業承継の場面においては、必ずしも正しい経営判断とはいえません。

 会社の株式を2人兄弟の子供に50%ずつ平等に相続させたというような事案が典型で、そういう会社では、兄弟の意見が食い違った場合に、重要な事項を決定することが非常に難しくなってしまいます。
 兄弟の保有割合に優劣がついている場合でも、例えば、兄が55%、弟が45%というような僅少の差にすぎなければ、結論は同じです。
 会社法では、会社運営上の重要事項は、株主総会において出席株主の議決権の3分の2以上で決することとされているため、3分の2に満たない割合しか有していなければ、結局、兄弟の意見が一致しない限り、会社として重要な決断ができないのです。

 かといって、兄弟のどちらかが会社を離れるということも簡単にはできません。
 兄弟ともに、長く深く会社に関わっており、個人資産も含めて会社との関係が密になっていることが多く、また転職をして同待遇の収入を得ることは容易ではないからです。
 結果として、最終決着に至らないまま、十年単位の長期間、時に膠着状態に陥りながら、延々と喧嘩をし続けているという同族会社は少なくありません。

 兄弟2人ではなく、比較的対等な割合で会社の株主となっている3人以上の兄弟姉妹や同族で争うケースもみられますが、そういう事案も、「主要な株主が幾人も(あるいは、多くのグループ)いる」という状況はやはり揉めやすく、会社経営は不安定になりがちです。
 経営陣たる同族間で揉めていても、会社の収益が好調に推移していればまだよいのですが、得てして社内で派閥争いを背景とした人間関係の問題を抱え、業務内外で足の引っ張り合いをしているような会社は、適時に適切な事業運営上の決断ができなかったり、有能な従業員が社内の揉め事に嫌気をさして辞めてしまったりして、企業としての競争力が低下しがちです。
 経営陣がバラバラでは、会社が衰退していくのは必定です。

 兄弟で創業した事業が、兄弟仲も良いままで、長く継続するということは少なくないようですが、ゼロから起業し事業を育てあげる中で苦楽をともにした創業一代と、既にできあがった事業を引き継ぐ二代目とでは、同じ兄弟関係でも相当意識が異なります。
 二代目の兄弟経営者は、やはりどうしても、会社という一つの利益を取り合うライバル関係になりがちです。
 また、これはあくまで私見となりますが、中小企業の経営というものは、合議的に行えばベストという性質のものではなく、1人のトップリーダーの強力な個性やリーダーシップが会社を発展させ、生き残らせる原動力となるという面が強いように思います。
 二代目経営者も、創業者のそういうトップリーダーとしての強烈な資質や経営姿勢から学び、受け継いでいる面が少なからずあり、代替わりしたからといって、急に円満な集団指導体制に移行することは難しいようです。
 事実、「複数の息子を自社に入れるのは絶対にやめよ」と断言する経営者もおられます。(後編へつづく)

                                   弁護士 中村正彦

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中村正彦(弁護士)

弁護士法人 松尾・中村・上法律事務所

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