新刊発売します!
テーマは、「普通の人が、選ばれる経営コンサルタントになるための名著案内」です。
何を隠そう、私は子どもの頃から何か秀でた才能があったわけではありません。普通の学校を卒業し、普通のサラリーマンとして社会人生活をスタートしました。
その私が17年前に独立し、今日まで医業経営コンサルタントとして仕事を続けてこられたのは、特別な能力があったからではないと思っています。
大きかったのは、人との出会い、そして良書との出会いです。心に残った本を何度も読み返し、そこに書かれていることを一つずつ仕事の現場で試してきました。その小さな行動の積み重ねが、少しずつ「クライアントから選んでいただける力」になったのではないかと感じています。
このコラムでは、経営コンサルタントを目指す学生や20代、30代の方、独立を考えている方、そして現場で試行錯誤している新人コンサルタントの方に向けて、私自身の仕事に影響を与えた名著をご紹介していきます。
話題の新刊だけではありません。すでに絶版となり、知る人ぞ知る存在になっている本も取り上げます。
第1回は、私が30年以上にわたって読み続けてきた一冊です。
私が30年間読み続けている座右の書
今回ご紹介するのは、小林忠嗣氏の『社長が自分と自分の会社を診断する本』(日本実業出版社)です。
初版が発行されたのは1982年2月28日。偶然にも、私の12歳の誕生日でした。
今から40年以上前に書かれた本ですが、時代遅れという印象はありません。むしろ、経営環境が不透明になっている今だからこそ、あらためて確認したくなる問いが詰まっています。
本書を著した当時、小林忠嗣氏は日本エル・シー・エー(以下、日本LCA)の社長、そして経営コンサルタントとして活躍されていました。その後、1986年にはベンチャー・リンクを創業し、事業を大きく成長させていきます。
1990年代、日本LCAは、税理士事務所や会計事務所などを対象に、中小企業向け経営コンサルティングの仕組みを提供する「LCAグループ」を展開していました。
私が1993年に新卒で入社したのも、会計事務所を母体とする経営コンサルティング会社でした。その会社ではLCAグループのサービスを活用し、顧問先企業への経営支援に取り組んでいました。
新人研修で聞いた、小林氏の「準備の人生と本番の人生」という話に衝撃を受けたことを、今でも鮮明に覚えています。
その後、LCAグループの初期研修に参加した際に本書を知りました。それ以来、折に触れてページを開き、30年以上読み続けています。
20代の私には受け入れにくかった言葉
本書には、「販売なくして事業なし」という言葉が登場します。
正直に申し上げると、20代の私はこの言葉に嫌悪感さえ抱いていました。
当時の私は、ベンチャー・リンクや日本LCAに対して、「強い営業で成長した会社」「売上至上主義の勢いのある会社」といった、やや一面的な印象を持っていました。そのため、「販売なくして事業なし」という言葉も、「とにかく売ればよい」という意味に受け取っていたのです。
しかし、経験を重ねてから読み返すと、その理解が浅かったことに気づきました。
ここでいう「販売」とは、単に商品やサービスを売り込むことではありません。誰に、どのような価値を提供し、なぜ自社が選ばれるのかを考え続けることです。
どれほど優れた知識や技術があっても、その価値が必要な人に届かなければ事業は続きません。経営コンサルタントも同じです。専門知識を身につけるだけでは、クライアントから仕事を依頼してもらうことはできません。
誰の、どのような悩みを解決するのか。そのために、自分はどのような価値を提供できるのか。それを相手に伝わる言葉で表現できるか。
「販売なくして事業なし」とは、事業の存在意義そのものを問い直す言葉だったのです。
40年以上たっても色あせない「経営への問い」
本書の特徴は、経営に関する答えを一方的に教えるのではなく、社長自身に数多くの問いを投げかけていることです。
例えば、次のような問いです。
・あなたの会社の存続と成長を保証してくれる最も重要なものは何か。
・目先の小欲にこだわり、大欲を逃していないか。
・経営者としての能力は、現在の企業規模を上回っているか。
・5年後、誰があなたの会社を食べさせてくれるのか。その相手に狙いを定めているか。
・社員一人ひとりが、どのような目標を持っているかを把握しているか。
・仕事をするうえでの「行動規範」が確立されているか。
・自社の重要な管理指標が何かを理解しているか。
・3年後、5年後の財務体質に問題はないか。
いずれも、流行の経営手法ではありません。経営者や経営コンサルタントが避けて通れない、本質的な問いです。
また、本書では、新規事業に必ず成功する保証はないことを前提に、「どれだけ投資し、どの段階で撤退するか」を事前に明確にする必要性も説かれています。
さらに、社長、部長、課長など、それぞれの立場で企業ビジョンに即した「考えの軸」を持ち、それを自分の言葉で伝えられる人材の重要性にも触れています。
こうした内容は、40年以上が経過した現在の企業経営にも、そのまま通用します。
経営コンサルタントは「問いを持つ仕事」
若い頃の私は、経営コンサルタントとは、経営者の質問に正しい答えを返す仕事だと思っていました。
しかし、実際の現場では、経営者自身が問題の所在に気づいていないことも少なくありません。目の前の悩みを解決するだけでなく、その奥にある本質的な課題を見つける必要があります。
そのために欠かせないのが、経営者の思考を深める「問い」です。
本書を読み続けるうちに、私は経営コンサルタントに必要なのは、知識の量だけではなく、経営者に考えてもらうための良い問いを持つことだと学びました。
自分なら、この問いをクライアントにどのように投げかけるか。どのような事実や数字を確認するか。どこまで踏み込んで助言するか。
そのような視点で読むと、本書は単なる経営者向けの診断本ではなく、経営コンサルタントにとっての実践的な教材になります。
本は、読んだ回数より行動した数
良書は、一度読んだだけですべてを理解できるものではありません。
20代で読んだときには反発した言葉が、30代では仕事のヒントになり、独立後には経営者としての自分を振り返る問いになりました。経験を重ねるたびに、同じ文章から受け取る意味が変わります。
大切なのは、本を何冊読んだかを誇ることではありません。一冊の本から何を学び、仕事の現場で何を実行したかです。
私自身も、書かれていることをすべて実践できているわけではありません。今でも迷ったときや、自分の考えが小さくなっていると感じたときに本書を開き、自分自身を診断しています。
『社長が自分と自分の会社を診断する本』は、すでに絶版となっていますが、中古書として入手できる場合があります。
経営コンサルタントを目指す学生や20代、30代の方、いつか独立したいと考えている方、新人経営コンサルタントの方には、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
特別な才能がなくても、良い人と出会い、良い本と出会い、そこから学んだことを小さく実践し続けることはできます。
選ばれる経営コンサルタントへの道は、その積み重ねから始まるのだと思います。
お読み頂いてありがとうございました。


