壁に穴が開いても、民泊をやめない理由|沖縄の不動産オーナーの収益を考える

多田進吾

多田進吾

テーマ:沖縄不動産オーナー



※本稿は、当社が民泊運営についてコンサルティング契約をしているオーナーとの実際の打ち合わせや運営現場での出来事をもとにしています。オーナーおよび物件の特定を避けるため、所在地、物件名、売上金額など一部の情報を伏せ、数値についても趣旨を変えない範囲で比率や概数等に置き換えています。

【毎週のように、自分が準備した建物が傷ついていく】
今年4月に開業したVillaで、最近、毎週のように少し悲しい気持ちになることがあります。ゲストがチェックアウトした後に建物を確認すると、床に傷がついていたり、クロスが引っかかれていたり、スーツケースをぶつけたような跡が残っていたり、グラスが割れていたりと、小さなものから中規模程度のものまで、何かしらの傷や破損が見つかることが続いているからです。

その中でも驚いたのが、開業してまだ4か月ほどしか経っていないにもかかわらず、壁に穴が開くという破損が2回あったことです。クロスが少し破れた程度ではなく、その下にある石膏ボードまで破損していたため、ボードを張り替え、その上からクロスも張り替える必要がありました。この程度になると、修繕内容によっては5万円、10万円単位の費用になることもあります。

このVillaは、もともと古びていたり、管理が十分ではなかった建物ではありません。オーナーから依頼を受けて、私自身もリフォームや開業準備に関わり、きちんと手をかけて綺麗な状態にしてからゲストを迎えています。もちろん費用を負担しているのはオーナーですが、その建物に対するオーナーの思いや気持ちも聞きながら、一緒に準備をしてきましたので、傷ついた建物を見ると修繕費がいくらかかるということよりも、まず悲しいという気持ちになります。

一般の住宅として家族が普通に生活していて、わずか4か月の間に壁に2回も穴が開くということは、あまり想像できません。それが民泊として使い始めてから起きているのを見ていると、民泊というのは、私が考えていた以上に建物に負担をかける使われ方なのかもしれないと思うようになりました。

【一般賃貸と民泊では、同じ不動産でも傷み方が違う】
私が実際に運営している物件だけではなく、知人や同業者から聞く話にも似た傾向があります。特に8名から12名程度が宿泊できるVillaタイプでは破損が目立ち、4名程度の部屋や6名程度の部屋、新しいアパートの一室などでは比較的少ないように感じています。

もちろん、大人数で宿泊するゲストが建物を乱暴に扱うと決めつけることはできません。ただ、大人数で泊まれるVillaには若い人のグループが宿泊して、お酒を飲みながら少し羽目を外すこともありますし、2家族、3家族で利用する場合には子どもの人数も多くなり、大人の目がすべてに届くとは限りません。同じ一戸建てでも、一つの家族が長期間暮らす一般賃貸と、数日ごとに違う家族やグループが入れ替わる民泊では、建物の使われ方そのものが違うのだと思います。

私自身、これまでオーナーに民泊の収支シミュレーションを作る際には、光熱費、インターネット、消耗品、シャンプーやトイレットペーパーなど、運営に必要になる費用を細かく入れていました。一方で修繕費については、それほど大きな費用が継続的に発生するという認識がなかったため、シミュレーションには入れず、口頭で説明する程度でした。

今回のようなことを実際に経験すると、この考え方では足りなかったと思っています。そのため、今後作成する収支シミュレーションには、一定の修繕費も入れることにしました。民泊の収益を見るときには、その年にいくら売上が上がったかだけではなく、その売上をつくるために建物がどのように使われ、どの程度傷んでいくのかまで考える必要があるからです。

今回の大きな破損については、幸いゲストが自分の過失を認めてくれたため、修繕費はゲストに請求し、100%負担していただきました。ただ、毎回このように解決するとは限りません。Airbnbでは器物の破損について補償を受けられる場合がありますが、Booking.comではゲストによる破損や破壊行為が補償されるわけではありません。ゲストが破損を認めず、予約サイトからも補償されない場合には、オーナーが加入している民泊保険などで対応することになり、保険にも加入していなければ最終的にオーナー自身の負担になる可能性があります。

実際、このVillaのオーナーにも開業前から民泊保険への加入を勧めており、加入するという返事をいただいていました。しかし今回の破損をきっかけに改めて確認すると、実際にはまだ加入していませんでした。そこで、ゲストが補償に応じなければオーナー自身の負担になる可能性があることを改めて説明し、その後、民泊保険に加入していただきました。事前にリスクとして聞いていることと、実際に自分の建物が傷つくことでは、やはり受け止め方が違うのだと思います。

【それでも私は、一般賃貸に戻すことには反対する】
では、これだけ建物が傷むのであれば、民泊をやめて一般賃貸に戻した方がいいのでしょうか。もしこのVillaのオーナーからそう聞かれたら、私は今のところ反対します。

理由は、不動産オーナーの収益や資産価値を最大化するというところから考えると、建物が傷むという一つの問題だけを見て判断することも違うと思うからです。物件によっては、民泊として活用することで一般的な居住用賃貸より大きな収益を得られる可能性があります。それなら、建物が傷むから一般賃貸へ戻すのではなく、今起きている問題を一つずつ整理しながら、ゲストの使い勝手、管理、清掃、保険、集客、そしてどのようなゲストに泊まってもらうのかまで微調整して、オーナーが望む方向へ持っていくことが私の仕事だと考えています。

もう一つ、不動産オーナーが民泊から収益を得る方法は、自分で宿泊事業を運営することだけではありません。民泊をやりたい事業者に物件を賃貸して、オーナーは賃料収入を得るという方法もあります。

沖縄で民泊を始めたいという相談を受けていると、事業には興味があっても、最初から1億円前後の資金を用意して不動産を購入することが難しい方もいますし、特に1店舗目であれば、いきなり物件を購入するのではなく、まずは賃貸から始めて事業を経験したいという声もあります。一方、物件を所有しているオーナーからすれば、条件によっては居住用として貸す場合の2倍、2.5倍、あるいはそれ以上の賃料になることもあります。事業用として賃貸することで、契約内容によっては賃貸中の設備の不具合や修繕などを賃借人側が負担する形にすることもできますので、オーナー自身が民泊を運営する場合とは、収益の取り方もリスクの持ち方も変わります。

さらに、オーナーが民泊事業者へ賃貸することには、収益の安定性という別のメリットもあります。オーナー自身が宿泊事業を行えば、順調に稼働しているときの宿泊売上は、事業者へ賃貸して毎月賃料を受け取るより高くなる可能性があります。一方で沖縄では、台風によって飛行機が欠航し、ゲストが沖縄へ渡航できなくなることがありますし、コロナウイルスのように人の移動そのものが長期間止まる事態が起きる可能性もあります。その場合、一つの予約がキャンセルになるだけではなく、すでに入っていた予約が次々にキャンセルになったり、一定期間一件もゲストが来なくなったりすることもあり、自ら宿泊事業を行っているオーナーは、その影響を直接受けることになります。

民泊事業者へ建物を賃貸している場合には、契約が継続し賃料が支払われている限り、宿泊予約が入ったか、キャンセルになったかによってオーナーの毎月の賃料収入が直接変動するわけではありません。自分で宿泊事業を行ってより高い収益を狙うのか、民泊事業者へ貸すことで宿泊需要の変動を直接受けにくい形にするのか。同じ建物を民泊として利用する場合でも、誰が宿泊事業を行うかによって、オーナーが得られる収益と負うリスクはかなり違ってきます。

民泊をやるか、一般賃貸にするかという二択ではなく、自分で民泊を運営する方法もあれば、民泊事業者へ貸す方法もある。同じ一つの不動産でも、誰が事業を行い、誰がリスクを負担するのかによって、オーナーに残る収益も建物との関わり方も変わってくるのだと思います。

【民泊にするなら、建物をつくる段階から考える】
今回の経験からもう一つ考えるようになったのが、民泊を始めるのであれば、営業を開始してから運営方法を考えるだけではなく、不動産を取得したり建物をつくったりする段階から考えた方がいいということです。

例えば土地を購入して戸建てを新築するのであれば、自由設計ですから、間取りだけではなく、壁紙や床材なども清掃や管理、傷みにくさまで考えて選ぶことができます。一方で中古住宅を購入する場合や賃貸物件を借りて民泊を始める場合には、すでにある建物を活用することになります。その場合には、家電をどの国の人でも操作しやすく、できるだけ壊れにくいものにしたり、食器やカトラリーなどは必要以上に高価なものにせず、摩耗や破損があれば交換していくことを前提に選んだりと、別の工夫が必要になります。

定員についても同じです。大きな一戸建てで12名泊まれるからといって、12名を最大定員にすることが必ずしも一番良いとは考えていません。私が実際の宿泊データを見ていると、5名から7名程度の利用が多く、9名以上になるケースは約3.5%です。それなら、最大人数を増やすためにベッドを置けるだけ置く必要はありません。例えばベッドルームにダブルベッドを2台置けるとしても、あえてクイーンサイズのベッドを1台にして、ゆとりのある寝室にするという考え方もあります。空いたスペースをキッズルームやサウナなどに使い、宿泊人数ではなく滞在の快適性や物件の特徴をつくることもできます。

沖縄では新しく宿泊事業へ参入するオーナーも増えており、中には潤沢な資金を持ったオーナーやプロの投資家もいます。そうした人たちが、よりゲストを満足させる施設をつくって市場に入ってくるのであれば、単純に何人泊められるかを増やすだけではなく、その不動産を誰に、どのように使ってもらうのかまで考えなければ、これからの競争には対応できないと思っています。

【まだ答えが出ていないこと】
ただ、ここまで考えても、私自身まだ答えが出ていないことがあります。それは、どうすればゲストに建物をもっと大切に使ってもらえるのかということです。

リスティングに注意事項を表示する、ハウスガイドに書く、現地にも表示するなど、できることはいくつか考えています。ただ、それを書いたからといって、それまでとは全く違うゲストが集まってきたり、すべてのゲストが急に建物を大切に使ってくれたりするとは思っていません。注意書きを増やせば解決するというほど単純な問題ではないと思いますので、どのようなゲストに来てもらうのかも含めて、もう少し根本的な対策を考えたいと思っています。

私自身、民泊を運営する前から建物が傷む可能性があることは分かっていたつもりでした。それでも、実際に毎週のように自分が準備してきた建物に新しい傷を見つけ、わずか4か月の間に壁に2回も穴が開くところまでは想像していませんでした。実際にやってみたからこそ、自分が考えていた収支やリスクの中に足りなかったものがあったことも分かりました。

【まとめ】
民泊は、不動産を使って収益を生み出す一つの方法です。ただ、売上が一般賃貸より高いという数字だけを見ていればいいわけでもなく、反対に建物が傷むから民泊をやめた方がいいという話でもないと、今は考えています。

一般賃貸として長期間貸すのか、オーナー自身が民泊を運営するのか、民泊事業者へ賃貸するのか。同じ不動産でも使い方によって得られる収益は変わりますし、建物の傷み方、修繕費、宿泊需要の変動、オーナーが負うリスクも変わります。自分で宿泊事業を行えばより高い収益を得られる可能性がある一方、台風や感染症などによって予約そのものがなくなるリスクもありますし、民泊事業者へ貸すのであれば、収益の上限は変わっても毎月の賃料という形で宿泊需要の変動を直接受けにくくすることもできます。そこまで含めて比較して初めて、そのオーナーにとってどの方法がいいのかが見えてくるのだと思います。

今回、開業して間もないVillaの壁に穴が開き、毎週のように建物の傷を見ることで、私自身も民泊の収益について少し見方が変わりました。これからも運営を続けながら、建物をできるだけ大切に使ってもらう方法を考え、必要であれば収支シミュレーションや建物のつくり方、設備の選び方も変えていくつもりです。まだ答えが出ていないこともありますが、問題が起きるたびに一般賃貸へ戻すのではなく、その問題を一つずつ整理しながら、オーナーの収益と資産価値の両方をできるだけ高めていくことが、私の仕事だと考えています。

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多田進吾
専門家

多田進吾(不動産仲介)

沖縄リアルエステート株式会社

東京で富裕層向け不動産仲介に従事し交渉力や提案力を磨く。沖縄移住後は宿泊施設を開業し運営ノウハウも取得。迅速かつ丁寧な対応を強みに、空き家活用から収益化の提案までオーナー様に寄り添った不動産取引を支援

多田進吾プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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