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新判例紹介

竹下勇夫

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テーマ:新判例紹介①

遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されている自筆証書による遺言について、当該遺言書が無効となるものではないとされた事例 ―最高裁令和3年1月18日判決―

 自筆証書による遺言は、その要件が厳格であるために方式不備で無効とされるリスクがあるにもかかわらず、遺言の作成を秘匿しておくことができる、費用が掛からない、等の理由で比較的多く用いられているといわれています。
 民法968条1項によれば、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」とされています。
 この場合において、自室証書遺言が実際に作成された日と、当該遺言書に記載された日付が異なる場合の当該自筆証書遺言書の効力は有効なのでしょうか、それとも無効なのでしょうか。

 この点について、最高裁昭和52年11月21日判決は、「自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付の誤りは遺言を無効ならしめるものではない。」としています。この判決は、「その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合」には有効としていますから、そうでない場合、例えば、本人が何らかの理由で実際の作成日でないことを承知で、真実の作成日でない日を記載した場合にも有効といえるのかどうかは判然としません。

 本件は、Aが、平成27年4月13日、入院先の病院において、本件遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院後の同年5月10日、弁護士の立ち合いの下、押印した自筆証書遺言の効力が争われたものです。

 本件判決の原審は、上記昭和52年最高裁判決を引用する形で、「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、本件遺言書には押印がされた平成27年5月10日の日付を記載すべきであった。自筆証書である遺言書に記載された日付が真実遺言が成立した日の日付と相違しても、その記載された日付が誤記であること及び真実遺言が成立した日が上記遺言書の記載その他から容易に判明する場合には、上記の日付の誤りは遺言を無効とするものではないと解されるが、Aが本件遺言書に『平成27年5月10日』と記載する積もりで誤って『平成27年4月13日』と記載したとは認められず、また、真実遺言が成立した日が本件遺言書の記載その他から容易に判明するともいえない。よって、本件遺言は、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから無効である。」と判断しました。

 これに対し、最高裁は、「自筆証書によって遺言をするには、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならないと解されるところ(最高裁昭和52年4月19日第三小法廷判決)、前記事実関係の下においては、本件遺言が成立した日は、押印がされて本件遺言が完成した平成27年5月10日というべきであり、本件遺言書には、同日の日付を記載しなければならなかったにもかかわらず、これと相違する日付が記載されていることになる。
 しかしながら、民法968条1項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがある。
 
 したがって、Aが、入院中の平成27年4月13日に本件遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後の同年5月10日に押印したなどの本件の事実関係の下では、本件遺言書に真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているからといって直ちに本件遺言が無効となるものではないというべきである。」としました。
 自筆証書の遺言書では、遺言作成能力のある者によって作成されたのか、遺言書が複数存在する場合にどの遺言書が最後に作成されたものなのか、等を判断するためにも、遺言書の作成日付は重要です。このため、真実遺言が成立した日の日付を作成すべきですが、本件は昭和52年判決の枠組みを超えて、自筆証書遺言の厳格性を緩和する形で例外的に無効とはされない場合があることを認めた事例判断と考えられます。

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竹下勇夫(弁護士)

弁護士法人ACLOGOS

検察官として10年、弁護士として30年超のキャリアを有し、高い専門性が求められる企業法務を得意とする。沖縄弁護士会会長等の公職を歴任する傍ら、琉球大学大学院法務研究科(現在は学部)講師の顔を持つ。

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