入れ歯で満足に噛めない方必読! 自由診療歴20年の歯科医が教える【噛める入れ歯の条件】とは?
先日、訃報が届きました。
大分市にお住まいの辻塚雅行氏、私のオフィスで初めて総義歯を製作させていただいた方です。その報せを耳にした瞬間、何ともいえぬ脱力感に襲われました。辻塚氏は、お酒と芸術をこよなく愛し、絵の方は個展を開催するほどの実力の持ち主でした。
思い起こせば7年前、オフィスを開業してすぐに、奥様とお二人でお越しになり、義歯の製作を依頼されました。それまでは、少々お口の中の状態が悪くても歯医者にかかることもなく、だんだんと歯が抜け落ちていかれたようで、当時は御自分の歯がほんの数本残ってらっしゃる程度でした。故に、食事もままならぬ状態で、自然と酒量が増え、人とお会いになるのも億劫になっていらっしゃいました。
約半年後、義歯が完成し、辻塚氏のお顔は自信に充ち溢れ、食事が満足にとれるようになり、お酒の量は減りました。
「自分の臓器になりましたよ、まるで血がかよっているようだ、時々、昔の癖で爪楊枝をつかってしまう(笑)」と仰っていただいたのがとても印象にのこっています。
それからの7年間、来院されたのは2回だけ。半年に一回のメンテナンスを度々お勧めするものの、「歯は調子が良いから大丈夫。今度、顔を出しますから~」と明るい電話口の声に、困ったような、喜んでいいような、複雑な心境でした。
この度、家内と二人で御焼香に伺い、奥様にお話を伺ったところ、「歯を作っていただいてからの7年間は、主人は本当に幸せそうでした。毎日の食事を楽しみ、お酒を飲んで、友人達を家に連れ込んでは話に花を咲かせていました。本当に有難うございました。」とのお言葉をいただき、ぽっかりと穴のあいたような感覚が癒される感じがいたしました。
部屋の中は、お二人が仲睦まじく暮らしてらっしゃった空気が満ちており、それまでの楽しかった想い出を明るくお話してくださった奥様のご配慮もあって、穏やかな気分で、お宅を後にした次第です。
自分達のしている仕事の意味と価値をあらためて教えていただいたような気がしています。この場をお借りして、辻塚氏のご冥福を心よりお祈りいたします。 合掌。