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2016年10月17日 これは前回コラムを投稿した日付です。あれから2年半たってしまいましたが、コラムを再開します。
3、さて、ここからが本題です。
ある脳科学者から信頼できる内容の本として紹介していただいた「記憶のしくみ 上・下」(ラリー・R・スクワイア、エリック・R・カンデル共著 講談社ブルーバックス 2013年)の内容をもとにして簡単に説明します。この本の原著「MEMORY」は多くの大学、大学院で教科書として使われてきたそうです。したがって素人の私にはたいへん難解でした。
コラムを2年半も中断してしまった原因の一つがここにあります。どうせコラムを書くなら信頼できる内容にしたいという基本原則がありますので、こうなってしまったのです。
なお使用する学術用語はすべてこの本の記述に基づいています。内容もこの本の記述に基づいています。
記憶と一言でいっても様々なものがあります。
短期記憶、長期記憶
即時記憶、作業記憶
陳述記憶、非陳述記憶
プライミング記憶
非陳述的情動記憶
習慣学習に関係する記憶などなど・・・
人間の記憶というものは、たいへん複雑にできています。
しかも解明できていないことが多くあります。
では私たちが九九暗記をする時、どのタイプの記憶に頼っているのでしょうか?
九九暗記のシステムについては学術的な研究は私の知る限りありません。
したがってここに私が書くことは、素人判断であることにご留意ください。
まず(1)~(4)は記憶の持続時間を基準とする分類です。
(1)短期記憶。これは数秒から数分間だけ持続します。電話番号を調べて一瞬だけ記憶するタイプです。これは九九暗記の初期に使う記憶方法です。したがって、学校で暗記したあと家に帰り着くと忘れています。
(2)長期記憶。これは数週間から数カ月。さらに死ぬまで持続する場合もあります。
これは反復練習などにより持続時間が長くなります。一般的に言う「九九暗記」はこの記憶方法を指すと考えていいと思います。
(3)即時記憶。これは短期記憶の最初の段階で、情報を受け取った段階から数秒程度持続するだけです。九九暗記のもっとも初期の段階です。
(4)作業記憶。これは、数秒で消失する即時記憶を繰り返し復唱して記憶の時間を延長し、数分間保持できた記憶のことです。これは短期記憶の後半になります。これも九九暗記で重要になります。この記憶をもとにして、長期記憶がつくられます。
作業記憶の中には、「音韻ループ」と呼ばれる言語や音を記憶するシステムがあります。これは声を出して九九を暗唱するときに使います。
また作業記憶の中には、「視空間スケッチパッド」と呼ばれる視覚的なイメージを記憶するシステムもあります。これは九九の量的意味を記憶するときに使います。
次に(5)~(9)は記憶内容を基準とする分類です。
(5)陳述記憶。これは事実や考え、出来事に関する記憶です。これは言葉による表現や視覚イメージとして記憶します。九九暗記はこのタイプの記憶になります。
(6)非陳述記憶。これは無意識的であり、自覚することがありません。例えば自転車に乗る練習をする時、最初は右足でペダルをこぎ次に左足でペダルをこぐというように意識して足を動かします。やがてそれを繰り返していくと、この動作は記憶され、無意識的にペダルをこぐようになります。いわゆる「体で覚える」という記憶です。したがってこれは九九暗記と無関係です。
(7)プライミング記憶。覚えたり経験したりした単語やことがらなどの刺激があると、それが記憶され、それを忘れていたとしても同様の単語やことがらなどの処理スピードが改善されることです。これは無意識に起こります。そのため広告に応用され、広告を見たことがある人はお店に並んでいる多くの類似商品の中から無意識のうちにその商品を手に取るようになります。
これは九九暗記に関係しているのかどうか悩ましいところですが、私は無関係ではないと考えています。
(8)非陳述的情動記憶。これは「好き」「嫌い」の記憶で、危険を察知するための記憶が分かりやすいかもしれません。犬にかまれたことがある人は、犬を見ただけで避けようと条件反射をします。これは犬にかまれたという陳述記憶とは別の反応です。
これは九九暗記に関係ないように思えますが、九九暗記と「楽しい」という情動記憶が結び付いた人がいれば、効果的な暗記ができるような気がします。
(9)習慣学習に関係する記憶。私たちは成長するにつれて「ありがとう」をいう習慣をつけ、食事の前に手を洗う習慣を学習します。これは非陳述的な記憶です。
これも九九暗記に関係しているのかどうか悩ましいところですが、私は無関係と考えています。
これ以外にもいろいろな記憶があり、もっと細かく分類することもできるようですが、主なものは以上です。
なおこの分類は生物学による分類です。心理学による分類は少し違うようです。