初弁論

中隆志

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 川越市長に元裁判官の森田初恵氏が当選した。
 どういう背景や争点があるのか分からないが、私の初弁論は浦和地裁川越支部であったので気になっただけである(現在はさいたま地裁と名称変更)。

 弁護士として働き出して2日目に、隣で兄弁が「間に合わへん。どうしよう。どうしよう。」繰り返し言っているので、仕方なく何が間に合わないのか聞いたところ、「今週金曜日に13時10分に浦和地裁川越支部で弁論があるけど、14時に大阪高裁で刑事の公判がある。」というのである。
 「どこでもドアでもないと間に合いませんね。それ、私に行って欲しいということでしょ」と言うと、まさにその通りであった。

 事務所に入所した時点で、ボスに九州2ヶ所を1日で回るという出張を既に入れられていたが、浦和地裁川越支部も私をアテにしていたらしい。
 少し前まで居た和光を(司法研修所がある。)過ぎて浦和地裁川越支部に赴いた。

 現場でこちらの答弁書に対して書面が出ていて、受取の印鑑を押そうとしたが、印鑑の蓋が取れない。
 ボスからは、「君のハンコは象牙の高いハンコやで」と言われて渡されたのであるが、蓋が取れない仕様であった。
 蓋を必死に取ろうとしていると、廷吏さんから「サインでいいですよ」と言われサインをして、裁判官と原告代理人をお待たせして申し訳ないと原告席を見ると、ご高齢の先生でまだ席についておられなかった。

 事務所に戻り、ボスに「この印鑑、蓋が取れないですよ」というと、「高かったのに、そんな訳はない」とボスは蓋を取ろうとしたが、結局蓋は取れなかった。そのため、使えないハンコということになり、私の職印は柘植材の安物となった。
 蓋が取れないので、引出に未だにしまってある。

 翌週にはボスに調停期日で初めてその場で会う依頼者とともに、「不成立にしたからいいから」と置いていかれたのはまた別の話である。

 現場で自分で考えないと中々成長しないというのがボスの考えだったのかもしれないが、うちの事務所ではもう少し優しく勤務弁護士には指導している。

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