福祉施設への入所について考える
相談会などで、お問い合わせの多い質問の中に、「孫にも財産を遺せますか」というものがあります。
ご存知の通り、お子様がご存命の場合、お孫さんは相続人ではありません。
この為、お孫さんに財産を引き継いでいただく事に関しまして、少しお伝えしようと思います。
養子縁組や遺言を用いる場合
①養子縁組
お孫さんとの養子縁組は、実子の方がご存命であっても、行うことが出来ます。
養子縁組とは、養親となる方と養子になる方との合意・届出によって成立し、民法809条で「養子は、縁組の日から養親の摘出子の身分を取得する」と規定され、”法律上の親子関係を発生させる”ということですので、お孫さんも実子と同じ相続権を取得する、ということになります。
この場合、養子となられたお孫さんは、実の親との親子関係が終了する訳ではありませんので、この方は、実子として親の相続人であり、養子として養親(元々の祖父母)の相続人にもなるということになります。
当然のことながら、実子と養子によって相続割合や遺留分に違いはなく、全く同じ割合となります。
また、養子となる方が15歳未満の場合、「その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる」という民法797条の規定もあります。
一般的な場合の法定代理人は、親ということになりますので、ご自身の子供やその配偶者の承諾が必要という事になります。
この点で注意が必要なのは、お孫さんが未成年のうちに、養親の方が亡くなった場合です。
養子縁組をしたお孫さんは法定相続人ですが、「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」という民法5条の規定により、ご自身が遺産分割協議に参加することは出来ません。
では、養子縁組の承諾と同じ様に、親がその法定代理人として協議をすればいいのでしょうか?
答えは、否です。
親は遺産分割協議において、子供の法定代理人にはなれません。
民法826条の規定で「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない」という規定があります。
これは、相続のように一方の相続人の相続割合が多くなれば、もう一方の相続人は相続割合が少なくなる、というように、一方の利益がもう一方の不利益につながるような場合をさし、これを「利益相反行為」といいまして、遺産分割協議もこれに該当します。
つまり、親と未成年者である子供が同じ相続人の立場にいる時、親の意のままに相続が行われてしまわないように、第三者の方をつけなさい、という事なのです。
また、養子縁組をされた場合、相続税の基礎控除に影響する「法定相続人」にも当然入りますが、何人養子縁組をされた場合でも、実子のおられる方で一人、実子のおられない方でも二人までしか数えることが出来ない、と規定されております。
②遺言書
遺言書でお孫さんに財産を引き継いでもらう場合は、お孫さんは相続人ではありませんから、相続をしてもらうのではなく、「遺贈」するということになりますので、遺言書には「○○に遺贈する」という記述をします。
遺言書をつくりますと、ご自身の思うように財産を引き継いでいただく方法を決められますが、本来の相続人である方の「遺留分」に関しては、遺言書でもなくすことは出来ませんので、注意が必要です。
また、養子縁組とは違い、法定相続人になる訳ではありませんので、相続税の基礎控除の計算に考慮することは出来ませんし、もし相続税が課税される場合には、お孫さんの納税額は2割加算の対象となります。
その他の方法について
③信託契約
いわゆる「家族信託」と呼ばれるものですが、この家族信託に信託された財産は、ご本人の名義ではなくなりますので、ご自身に万一があった場合でも、その相続財産には含まれないことになります。
その為、ご自身の本来の相続人(例えば配偶者と子供)に遺す財産と、お孫さんに家族信託で遺す財産に分ける、ということも可能です。
こちらは、遺留分の問題や、信託を設定する際に費用が掛かるという点はありますが、信託財産の種類や財産を引き継いでもらう時期なども、あらかじめ設定出来るなど、養子縁組や遺言とは違う引き継ぎ方を検討する事が出来ます。
なお、この家族信託に関しましては、財産の名義が移るタイミングと、誰の名義になるかによって、相続税または贈与税が課税されますので、その点には注意が必要です。
④贈与税の非課税措置
通常(暦年贈与)の贈与の場合、年間110万円まで贈与税は非課税となっておりますが、教育資金または結婚・子育て資金の贈与につきましては、1,500万円(教育資金)または1,000万円(結婚・子育て資金)まで、贈与税が非課税になる措置があります。
これは、金融機関に専用口座を設定し、その口座に一括で贈与する金銭を預け入れ、金融機関を通じて税務署に申告をすることで、非課税措置を受けられるものです。
使途が限定されるものではありますが、お孫さんに金銭を贈与したいとお考えの方は、それを有効に使っていただきたい、と思っておられる方が多いと思いますので、そのような方には一つの方法かもしれません。
詳細につきましては、下記より国税庁のパンフレットをご参照いただけます。
教育資金の一括贈与
結婚・子育て資金に関する一括贈与
⑤保険
生命保険は、受取人を契約者ご自身にされない限り、その保険金は相続財産ではなく、受取人の方の固有財産になるとされております。
この為、お孫さんを受取人にして生命保険を掛けられて、その掛け金をお支払いになることで、将来ご自身に万一の事があった時、お孫さんに保険金を受け取っていただくという方法です。
また、相続財産には含まれなくても、その方が亡くなった事を原因として保険金が支払われる以上、みなし相続財産として、相続税が課税される可能性はあります。
この点につきまして、生命保険・退職金による相続税の控除が、「500万円×法定相続人の数」という規定になっており、掛け金のお支払いによってご自身のお手持ちの金銭も減らせますので、”相続税対策”ということで、各保険会社よりも、いろいろな商品が出ております。