中高一貫校のグローバル教育の危険性――「世界」を学ぶ前に「日本」を知ることが大切な理由

篠田啓彦

篠田啓彦

テーマ:その他

最近、中高一貫校を中心に「グローバル教育」を掲げる学校が増えています。

英語教育、海外研修、留学、外国人講師による授業、英語でのプレゼンテーション,ディスカッション、探究学習、国際バカロレア(IB)など、その内容はさまざまです。

※国際バカロレア機構(IBO)が提供する、国際的な視野を持った探究心・思いやりのある人材の育成を目的とした世界共通の教育プログラムおよび大学入学資格。

もちろん、これらの教育には大きな意義があります。

これからの時代、海外の人々と交流し、異なる文化や価値観を理解しながら生きていく力は、ますます重要になるでしょう。

しかし、ここで一度考えてみたいことがあります。

「グローバル教育なら、何でもよいのでしょうか?」

私は、そうではないと考えています。

特に中高一貫校の場合、中学・高校の6年間という長い期間を使って教育が行われます。

だからこそ、

「どのようなグローバル教育を受けるのか」

は、子どもの将来に大きな影響を与える可能性があります。

この記事では、中高一貫校で行われるグローバル教育について、そのメリットを否定するのではなく、

「グローバル教育が偏った場合に生じる可能性のある問題」

について考えてみたいと思います。


1.そもそも「グローバル教育」とは何でしょうか?


グローバル教育という言葉には、実は非常に幅があります。

例えば、

・英語教育
・海外留学
・海外研修
・外国人との交流
・異文化理解
・国際問題についての探究
・SDGs学習
・英語によるプレゼンテーション
・ディベート
・国際バカロレア(IB)

などがあります。

文部科学省も、国際バカロレアについて「批判的思考の探究」や「双方向・協働型授業」などを通して、グローバル化に対応した素養・能力を育成する教育プログラムとして位置づけています。

つまり、本来のグローバル教育は、「英語を話せるようにする教育」だけではありません。

世界の人々と協働し、異なる価値観を理解し、自分の考えを持って社会に参加するための教育です。

ここを忘れてはいけません。


2.危険性①「英語ができる=グローバル人材」になってしまう




グローバル教育で最も注意したいのが、

英語ができる

世界で活躍できる

グローバル人材である

という単純な考え方です。

しかし、世界の人と話すためには、英語だけでは不十分です。

例えば外国人から、

「日本ではなぜお正月に初詣をするのですか?」
「日本の学校教育にはどんな特徴がありますか?」
「日本人はなぜ『和』を大切にするのでしょうか?」
「日本の歴史についてどう考えていますか?」

と質問されたらどうでしょうか。

英語を話せても、答える内容を持っていなければ、十分な対話はできません。

つまり、

「外国語能力」と「国際的な教養」は別のもの

なのです。

実際、文部科学省が国際バカロレアをめぐって整理した課題の中にも、「英語学習以外の側面から見たIB教育の意義」を明確にする必要性が挙げられています。

これは非常に重要な指摘です。


3.危険性②「世界を知る」一方で「日本を知らない」子どもになる


グローバル教育で、私が特に注意したいと考えているのがこの問題です。

例えば、

・SDGsについて英語でプレゼンする
・海外の高校生とオンライン交流する
・海外研修に行く
・外国の文化について調べる

という経験をたくさんしています。

ところが、

「日本の歴史を説明してください」
「古事記とは何ですか?」
「日本の古典文学にはどのような作品がありますか?」
「日本文化の特徴は何だと思いますか?」

と質問すると、ほとんど答えられない。

これでは、本当の意味での「国際人」と言えるでしょうか。

海外の人と交流するためには、

「自分は何者なのか」という土台が必要

です。

そして、その土台をつくるものの一つが、

・日本の歴史
・日本文学
・古典
・日本神話
・日本文化
・日本の伝統
・日本人が大切にしてきた価値観

などを学ぶことです。


4.実は文部科学省も「日本の教育の強み」を課題として挙げています


これは非常に興味深い点です。

「グローバル教育だから、日本の教育は捨ててよい」

という考え方を、文部科学省がしているわけではありません。

国際バカロレアを中心としたグローバル人材育成についての有識者会議では、

「日本の教育の強みの自覚と継承」

が課題として挙げられています。

さらに、

「IB生に対する、日本社会の形成者としての意識の育成」

についても指摘されています。

つまり、

「世界を見ること」と「日本を学ぶこと」は対立しない

のです。

むしろ、

日本を知った上で世界を見ることが重要

なのです。


5.危険性③「海外の教育=進んでいる」という思い込み


もう一つ注意したいのが、

海外の教育=進んでいる
日本の教育=遅れている

という単純な考え方です。

例えば、

「海外ではディスカッションをしている」
「海外ではプレゼンテーションを重視している」
「海外では探究学習が盛んだ」

という話を聞くと、日本の教育より優れているように感じるかもしれません。

しかし、日本の教育にも長所があります。

文部科学省の有識者会議でも、日本の教育について、国際学力調査で高い成績を上げてきたことや、特別活動などの全人教育が海外からも注目されていることが指摘されています。

大切なのは、

海外の教育をそのまま日本に持ってくることではありません。

日本の教育の良さを残しながら、海外の優れた部分を取り入れること

です。


6.危険性④「探究・プレゼン」は、知識があってこそ生きる


現在の教育では、

・探究学習
・プレゼンテーション
・ディスカッション
・グループワーク
・課題解決学習

などが重視されています。

これは決して悪いことではありません。

文部科学省も、高校の「総合的な探究の時間」などについて、各教科で学んだことを統合して課題解決につなげることを重視しています。

しかし、ここにも注意点があります。

例えば、

「日本の少子化について自分の意見を発表しましょう」

と言われたとします。

ところが、

・日本の人口推移
・少子化の原因
・社会保障制度
・労働人口
・結婚・出産をめぐる社会状況
・他国との比較

などの知識がなければ、深い議論はできません。

結局、

知識がなければ、探究も浅くなります。

したがって、

知識を学ぶ

読む

考える

比較する

議論する

表現する

という順序が大切です。


7.危険性⑤「日本人としての自己理解」が弱くなる可能性


グローバル社会では、「自分の意見を持つこと」が重要です。

しかし、

自分の意見を持つためには、「自分は何を大切にしているのか」を知る必要

があります。

そのためには、自分が育った社会や文化について知ることが欠かせません。

これは単なる「日本礼賛」ではありません。

むしろ、

「日本の良いところは何か」

だけではなく、

「日本にはどんな問題があるのか」
「他国と比較すると何が違うのか」
「日本の文化のどこを残し、どこを変えるべきなのか」

まで考えることが、本当の国際理解につながります。


8.「自分の国を知らずに世界を語る」という矛盾


例えば、海外の高校生と交流するとします。

相手の生徒が、

「あなたの国の文化について教えてください」

と質問してきた。

ところが、

「日本文化については、あまり知りません」

では、せっかくの国際交流が十分に生かせません。

逆に、

「日本にはこういう歴史があります」
「日本にはこういう文学があります」
「日本人は昔からこういう価値観を大切にしてきました」
「でも、現在の日本にはこういう問題があります」

と話すことができれば、そこから本当の対話が始まります。

つまり、

国際交流のためにも、日本を学ぶ必要がある

のです。


9.中高一貫校だからこそ「6年間の教育内容」を考えてほしい


中高一貫教育には大きなメリットがあります。

文部科学省も、中高一貫教育について、6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育指導を行い、生徒の個性や創造性を伸ばすことを趣旨の一つとして挙げています。

だからこそ、保護者の方には、

「その学校がグローバル教育をしているか?」

だけではなく、

「6年間で、どのような人間を育てようとしているのか?」

を見ていただきたいと思います。

例えば、

・日本語・国語力は十分に育てているか
・古典や日本文学を大切にしているか
・日本史をしっかり学ぶのか
・世界史との比較ができるようになっているか
・英語だけでなく日本語で深く考える力を育てているか
・知識と探究のバランスが取れているか
・大学入試との接続はどうなっているか
・「自分の国について説明する力」を育てているか

という視点です。


10.では、どのようなグローバル教育が理想なのでしょうか?




私は、

「日本を知って、世界を見る」

という順序が重要だと考えています。

例えば、

STEP1 日本語をしっかり学ぶ

文章を読み、考え、自分の考えを日本語で表現する。



STEP2 日本の歴史・文化・古典を学ぶ

古事記、日本書紀、古典文学、日本史、伝統文化などを学ぶ。



STEP3 世界について学ぶ

世界の歴史、文化、宗教、政治、経済などを学ぶ。



STEP4 日本と世界を比較する

「日本と海外では何が違うのか?」

「なぜ違うのか?」

を考える。



STEP5 英語などの外国語を使って交流する

そこで初めて、外国語が強力なコミュニケーション手段になります。



STEP6 世界の中で日本について考える

「日本はこれからどうあるべきなのか?」

というところまで考える。

これこそが、私は本当の意味でのグローバル教育だと思います。


11.「グローバル教育」と「日本教育」は対立しない


ここまで読んで、

「では、グローバル教育に反対なのか?」

と思われるかもしれません。

そうではありません。

むしろ逆です。

私は、

「本当のグローバル教育をするために、日本を学ぶ必要がある」

と考えています。

英語を学ぶことも大切です。
海外に行くことも大切です。
外国人と交流することも大切です。
世界の問題を考えることも大切です。

しかし、それと同時に、

日本語を大切にする。
日本の歴史を学ぶ。
日本の古典を読む。
日本文化を知る。
日本人が何を大切にしてきたのかを考える。

こうした教育も必要なのではないでしょうか。


12.啓理学舎が「古典・日本文化・古事記」に注目する理由


啓理学舎では、国語教育を単なる「入試問題を解くための技術」とは考えていません。

もちろん、

・読解力
・語彙力
・要約力
・記述力
・論理的思考力

は重要です。

しかし、それだけではありません。

子どもたちが、

「もっと知りたい」
「これはどういう意味なのだろう?」
「昔の日本人は何を考えていたのだろう?」
「日本と外国では、どこが違うのだろう?」

と考えることも大切だと考えています。

そのために、

古典の素読や読み聞かせ、会読などを教育の中に取り入れることには意味があります。

例えば『古事記』を読むことは、単に古い物語を読むことではありません。

日本人が古くから、

「人間とは何か」
「家族とは何か」
「社会とは何か」
「自然とは何か」
「神とは何か」

などについて、どのように物語として表現してきたのかを考えるきっかけにもなります。

そして、日本について知るからこそ、世界の文化について学んだときに、

「日本とは違う」

だけではなく、

「なぜ違うのだろう?」

と考えられるようになります。


まとめ――世界に出るために、まず自分の足元を見る


グローバル社会だからこそ、英語を学ぶ。

海外の人と交流する。

世界の問題について考える。

これらは非常に重要です。

しかし、

「世界を学ぶこと」と「日本を学ばないこと」は同じではありません。

むしろ、

日本を知る。

世界を知る。

日本と世界を比較する。

自分の考えを持つ。

世界の人と対話する。

という流れが重要なのではないでしょうか。

「グローバル教育」という言葉だけに惑わされるのではなく、

「この学校は、6年間でどのような人間を育てようとしているのか?」

という視点で学校選びをしてみてください。

世界で生きるために必要なのは、

「日本を捨てて世界を見ること」ではありません。

「自分の文化的な土台を持った上で、世界を見ること」

なのではないでしょうか。

それこそが、これからの時代に求められる本当の意味での「グローバル人材」なのだと、啓理学舎は考えています。

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篠田啓彦
専門家

篠田啓彦(塾講師)

国語専門オンライン学習塾 啓理学舎

保護者の方に家族関係改善等を助言させていただくとともに、国語が苦手なお子さまでも特別な学習方法で真の「基礎学力」「国語力」が身につき、さらに各教科の成績向上、中学・高校合格へ導いている。

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