全米女子オープンを制した笹生選手に学ぶ夢実現法

小森剛

小森剛

テーマ:ゴルフで生活力アップ

東京オリンピック2020が開催予定?の今年、松山英樹選手がマスターズで優勝し、世界の注目を集めました。そして、またもや世界の注目を集める快挙を日本人がやってのけました。
女子ゴルフの最高峰メジャー大会、全米女子オープンで、史上初となる日本人同士のプレーオフを制し、笹生優花選手が優勝したのです。しかも、19歳11ヶ月17日という大会最年少優勝記録タイでの優勝でした。
この笹生選手の快挙の要因は何だったのでしょうか?ゴルフ指導者の立場からそれを探ってみると、「夢」や「目標」を叶えるためのポイントが見えてきました。

弱みの克服より強みを伸ばして夢を叶える

笹生優花選手は、日本人の父とフィリピン人の母との間で生まれ、日本とフィリピン両方の国籍を持っています。生まれはフィリピン、4歳で日本に移り住んだそうです。父親のゴルフ練習についていったのがゴルフとの出会いだったとか。全米女子オープンをテレビで見てゴルフに憧れ、8歳の時に「プロになって世界一になる!」と決意したそうです。
今の時代、ゴルフはテクニックよりも飛距離が大事と理解し、父親の指導のもと、体幹や下半身強化に取り組みました。その結果、今シーズン、日本ツアーでの平均飛距離が262ヤードと、国内女子ツアーでトップに立っています。

ここまでの経歴を見ると、夢を叶えるポイントが2つ見えてきます。一つは早い時期から「世界一になる」と明確な目標を掲げていること。もう一つが、己の「強み」を徹底的に磨いている点です。

笹生選手が憧れる先輩、宮里藍選手は、かつて米ツアーに挑戦した時、海外選手との飛距離の差に愕然としたそうです。当初は飛距離を伸ばそうと頑張ったが結果が出ず、ある時、発想を替えました。ドライバーの飛距離が劣るということは、セカンドショットが先に打てるということ。そこでセカンドを先に打ち、先にピンに絡めることで相手にプレッシャーを与える戦法に方向転換し、アイアンの精度アップに磨きをかけたのです。その後の活躍は周知のとおり。世界ランク1位にまで昇りつめました。
ドライバーの飛距離不足という弱みを克服しようとするより、アイアンの正確さという強みを伸ばす戦略で成功したのです。
笹生選手がそのことを知っていたかどうかは分かりませんが、彼女は「自分の強みは飛距離」とし、その強みを徹底的に伸ばす努力をしてきたことが、夢を叶える大きな要因の一つであることは間違いないでしょう。

多角的に己を高めて夢を叶える

全米女子の最終日、笹生選手はプレッシャーからか、序盤の2番と3番ホールで連続ダブルボギーを叩き、スタート時点で1打差だった首位、レキシー・トンプソン選手との差が、この時5打差にまで開いてしまいました。流石に彼女は「動揺した」と語っています。
このトラブルから立て直すことができたのは、キャディ、ライオネルさんの言葉の力だったと彼女は会見で述べています。『まだホールがたくさんあるから、自分を信じてプレーしよう!』と。

笹生選手は、フィリピンの公用語、タガログ語や英語が堪能なのに加え、韓国語やタイ語も困らない程度に話せるそうです。優勝記者会見では、日本語と英語、そしてタガログ語の3か国語で喜びを語っていました。

私は彼女が夢を叶えたポイントの3つ目に、この語学力を挙げたいと思います。何故なら、ゴルフは個人競技ではありますが、個人一人の力だけで勝つのは難しいからです。松山英樹選手もコーチやフィジカルトレーナー等でチームを編成してから結果がでるようになり、マスターズ制覇に繋がりました。

ゴルフをはじめ、スポーツに国境はありません。世界の舞台で活躍するには、自分を支えてくれる人達や関係者との円滑なコミュニケーションは不可欠です。その際、彼女の高い語学力はとても役に立ったと思います。連続ダブルボギーの後、キャディとの言葉のやり取りがなかったら、笹生選手の優勝はなかったかも知れません。

夢を叶えるには、その対象となる物事に直接関係のある項目や分野だけに注力するのではなく、多角的に己を向上させる姿勢が必要になると思います。「ゴルフ馬鹿」では駄目なわけです。
ゴルフで世界一になるという夢を叶えるため、必要なスキルの一つが語学だと理解したのでしょう。彼女は、USGA(米国ゴルフ協会)が主催する大会に13歳から出場していますが、11歳の頃から毎日3時間の英語の勉強を日課にしていたと聞きます。
彼女は、フィリピンで生まれ、4歳で日本に来たとき、「言葉の壁」で友達ができなかったそうです。そのときの苦い思い出が原動力になっているのかも知れません。

憧れの人を持つことで夢を叶える

笹生選手は、「プロになりたい」と言い出した8歳当時、石川遼選手や宮里藍選手の活躍をテレビで見て憧れたそうです。夢実現の4つ目のポイントは「憧れの人を持つ」です。憧れの人を持つとよい理由は、人間の脳には「ミラーニューロン」という脳内神経細胞が備わっているからです。

ミラーニューロンは、前頭葉の運動前野にある運動性の神経細胞です。ミラーニューロンは、一言でいうと「モノマネ神経細胞」です。他人の行動を見ると、あたかも自分がその行動をしているかのように活動する神経細胞です。
モノマネとはいえ、モノマネ芸人のように、ある人を意識的に真似ようとするのではなく、他人の行動をただ見ているだけで、無意識レベルで相手の動作や仕草、行動パターンを吸収するのがミラーニューロンの働きです。

肉食動物の子供が、親が狩りをしている様子を見て狩りの仕方を習得したり、草食動物が危険から身を守る術を、親の行動を見て学んだりするのもミラーニューロンの働きだといわれています。ドラマや映画で悲しいシーンを見ると感情移入し、貰い泣きしてしまうのも、ニコニコ笑顔の人と一緒にいると自分も楽しい気分になるのも、皆このミラーニューロンの働きです。

このように、単に見ているだけでもミラーニューロンは働きますが、“憧れ”という強い思いを抱いて見ることで、その働きは強くなり、夢実現の可能性が格段に向上するのです。しかも、このミラーニューロンの働きは、会得するために特別な訓練が必要な能力ではなく、誰の脳にも標準装備されている基礎能力です。故に、憧れの人を持つことで夢を実現する可能性は、誰でも高めることができるわけです。

学生の頃、部活で憧れの先輩がいたから頑張れたとか、仕事で困難にぶち当たったとき、憧れの師匠や上司がいたから乗り越えられた、といった経験は誰にでもあると思います。
笹生選手は、ローリー・マキロイ選手にも憧れ、彼のスイングを徹底的に真似したと述べています。実際にスイングを見ると確かにそっくりです。正にミラーニューロンの働きではないでしょうか。

ジャック・ニクラスさんに憧れ、彼を手本としたタイガー・ウッズ選手。そしてタイガーに憧れた松山英樹選手がマスターズで優勝し、それを見た多くの子供たちが彼に憧れ、それを目指して成長していく。
偉大な先輩ゴルファーに憧れ、夢を叶えた笹生選手のように、憧れの連鎖がゴルフ界を、いや世の中のあらゆる物事を発展させていくのでしょう。笹生選手、本当におめでとうございます。そして、多くの感動をありがとう!


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小森剛
専門家

小森剛(スポーツインストラクター)

有限会社ゴルフハウス湘南

一般ゴルファーへのレッスンのみならず、ゴルフ指導者への指導やゴルフスクール経営支援、セミナーでの講演やゴルフ雑誌への連載執筆など幅広く活躍。またゴルフ以外のスポーツ選手のコンディショニング指導も行う。

小森剛プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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