雑然とした倉庫から、現場のやる気と利益がこぼれる──食品製造業・在庫管理の再生支援事例(家族経営の経理コーチング⑰)
ここ数年で、中小企業でも「M&A」「事業承継」といった言葉を耳にする機会が増えました。実際、国内の某M&Aプラットフォームには数万件規模の“売りたい会社”と、それを上回る数十万件の“買いたい会社”が登録されています。数字だけ見ると「すぐにマッチしそうだ」と思われがちですが、現場にいると必ずしもそうはなりません。今回は、この“数字の差”が示している中小企業の課題を、再生・経営改善の視点で整理してみます。
数字だけ見ると「売り手不足・買い手余り」
プラットフォーム上では、売り手が数万件、買い手がその10倍近くいる──そんな構図がよく見られます。本来なら「売りたい会社が出てきたら、すぐ買い手が見つかる」はずです。しかし現実には、掲載されたまま動かない案件が一定数あります。なぜか。ここに中小企業特有の事情が隠れています。
“売れない”のではなく“整っていない”
私が再生や事業引継ぎの現場で感じるのは、「その会社が悪いから売れない」のではなく、「買い手が判断できるところまで情報が整っていない」ケースが多いということです。月次試算表が最新化されていない、在庫の実在と帳簿が合っていない、資金繰りの先行きが見えない…。これでは、いくらプラットフォームに載せても、買い手側が一歩踏み出せません。つまり“掲載前の磨き上げ”が抜け落ちているのです。
小さな会社こそ「対話で数字をつくる」
家族経営や10名規模の会社では、社長の頭の中にしか答えがないことがよくあります。「あのお客さんは来期も続く」「この原価は来月下げられる」といった前向きな話です。ところが、外部に見せるときにはそれを数字に翻訳しなければなりません。ここで有効なのが、私が行っているビジネスストレングスコーチング(BSC)のような“数字をつくるための対話”です。社長と一緒に試算表や在庫、資金繰りを月次で見直し、「この会社はこう立て直せる・伸ばせる」を可視化していきます。すると、同じ会社でも“買ってもらえる会社”に近づきます。
M&Aは「すぐ売る」だけが目的ではない
プラットフォームを眺めていると、どうしても「載せる=売る」「買う=すぐ統合」と考えがちです。しかし小さな会社の場合、①いったん経営を立て直す→②選択肢としてM&Aや引継ぎを検討する、という二段階のほうがうまくいきます。再生・事業改善を先に入れておけば、価格の妥当性も説明しやすく、買い手も安心できます。つまり、M&Aの仕組みは“出口”として持っておきつつ、その手前の“整える部分”を自社でできるようにしておく――これが今の中小企業にいちばん現実的な使い方です。
まとめ
中小企業のM&Aは、仕組みがあるかどうかよりも「会社の中身が説明できるかどうか」で結果が変わります。プラットフォームに載っている数字を“社会の鏡”として眺めつつ、自社の試算表・在庫・資金繰りを月次で見えるようにしていくことが、結局は一番の価値向上策です。
平岡商店では、M&Aを目的にした一時的な資料づくりではなく、「毎月数字を見て経営を強くする」ためのコーチング型支援(ビジネスストレングスコーチング)をご提供しています。「掲載しても動かないと言われた」「事業承継センターには話したが踏み込めていない」という方は、一度“整えるほう”から考えてみてはいかがでしょうか?



