跡継ぎの“らしさ”をつくる──自分らしい経営のかたち 【継ぐ人のための経営ノート⑦】

平岡誠司

平岡誠司

テーマ:経営のモヤモヤをワクワクに(しごと編)

事業承継やM&Aによって経営を引き継いだ後継者が、次に向き合うのは「自分らしい経営とは何か」という問いです。
創業者や前経営者のやり方をそのままなぞるだけでは、現場との信頼は築けません。かといって、急にすべてを変えることもできない。だからこそ、後継者には「自分らしさ」を少しずつ育てていく姿勢が求められます。

答えは現場にある──日本型経営の醍醐味


家族経営や小規模事業者の経営において、最大の強みは「社員と共に汗をかく現場」にあります。
日本型の経営は、トップが現場に入り、社員と一緒に悩み、動き、考えることで信頼を築いてきました。そこには、合理性や効率だけでは語れない「生業としての誇り」があります。

生業は、単に利益を追求するためにあるのではありません。生活のため、地域への貢献のため、そして人とのつながりのために営まれているのです。

酒販店の最期の伴走──“続ける理由”は数字では測れない


ある酒販店の伴走支援の現場で、経営者の方が静かにこうおっしゃいました。

「商売は赤字です。家族からは“儲からないのだから、もうやめたら”と言われます。妻にも子どもにも、“手がかかるだけで意味がない”と諭されます。でも、毎日一本だけでも酒を買いに来てくださるお客様がいて、“ありがとう”と言ってくださるんです。年金を使って仕入れを続けていますが、問屋さんへの支払いは滞っていません。迷惑はかけていないつもりです。それでも、やはりやめた方がいいのでしょうか。」

その問いに対して、私たちが返した言葉は、こうでした。

「続けていただいて構いません。ご自身が納得される限り、続けることには十分な意味があります。」

経営は、数字だけでは語れません。現場の声、地域のつながり、本人の納得──それらを踏まえた“らしさ”こそが、経営の本質なのです。

後継者は“部外者”であるという自覚


事業承継者・後継者は、創業者や前経営者とは異なり、現場から見れば“部外者”です。たとえ親族であっても、現場で汗を流してきたわけではない。だからこそ、「現場を知らない社長」と言われないための真摯な姿勢が必要です。

そのためには、単なる会話ではなく、現場の動きと数字をふまえた“対話”が欠かせません。

“らしさ”は、対話から生まれる


自分らしい経営は、独自のアイデアやスタイルから生まれるのではなく、現場との対話の中で育まれていきます。
その対話は、構造的で、双方向で、数字を伴っている必要があります。

- 現場で何が起きているかを数字で確認する
- 銀行との資金繰りのやりとりを社員に共有する
- 経理の数字を使って、業務の改善点を一緒に考える

こうした対話を通じて、後継者は「この会社の経営者としての自分らしさ」を少しずつ形にしていくことができます。

コーチがいることで、“らしさ”が言語化される


平岡商店の「ビジネス・ストレングス・コーチング」では、後継者が自分らしい経営を築くために、現場と数字の両面から伴走します。

- 自分の考えを言語化するサポート
- 現場との対話の設計支援
- 経営判断の背景を整理し、納得解を導くプロセスの支援

“らしさ”は、押しつけるものではなく、育てるもの。現場とつながりながら、自分の言葉で経営を語れるようになることが、後継者にとっての第一歩です。

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平岡誠司
専門家

平岡誠司(小規模事業者向け経営支援家)

株式会社平岡商店

経営者の実践経験を活かし、経理の見える化・日繰り・在庫管理を軸に、家族経営の経営管理の仕組みづくりを実行支援します。現場の気づきを経営判断につなげ、“らしさ”をいかした経営を一緒に育てていきます。

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