介護事業に対する実地指導と対策
概要
訪問看護事業を軌道に乗せるためには人員の確保が重要になります。訪問看護においては、特に人員不足が深刻な問題となっています。
また採用したとしても離職率が高いことも懸念点で、給与の安さよりも人間関係にストレスを感じる人が多いという結果もあります。
訪問看護サービスの現況
全国訪問看護事業協会の調査では、平成30年訪問看護ステーション数は10,176事業所となっています。そのうち稼働数は9,735事業所、休止が441事業所。平成22年の調査では、事業所数は5,731事業所ですから、訪問看護ステーション数は8年で大幅に増えたと言えます。
しかし、介護事業全体が人員不足という問題に直面しているように、訪問看護事業についても人員の確保が大きな課題になっています。
厚生労働省の資料を見ても毎年、多くの訪問看護ステーションが休止や廃止に至ることに注視し、その大きな理由として人員不足をあげています。
資料には「看護職員数の不足」はもとより、「管理者の確保・定着化も課題の一つと言える」、あるいは「独立系ステーションはいつ休止・閉鎖するか分からないという認識があり、看護師や看護学生が就職先として選択する妨げになっている」など現場の声が示されています。
人員の確保は、訪問看護の開業、そして運営のカギとなる課題です。
人員確保のために
人員の確保について、まず「求人」について考えてみましょう。求人に際して、他より条件のよい基本給、勤務体制などは有利な情報になります。しかし、それだけではなく、どのような職場なのかを伝える工夫が大切です。
介護事業では離職率の高さも問題になっています。そして、その理由は一般に言われる「負担の大きさにくらべ給料が安い」ということよりも、職場の人間関係によることのほうが多いのです。人間関係の軋轢(あつれき)がない職場であること、つまり、コミュニケーションが円滑に図れる職場であることを積極的にアピールしましょう。
その方法としては、Web上にホームページを開設し、どのような職場環境であるかを発信するのが効果的です。管理者、あるいはスタッフのブログも非常に効果があります。日々の業務と並行してブログを書くのは大変ですが、人員確保に有効な方法です。
また厚生労働省の資料には、看護職員の「定着」という点について、新規採用後の同行訪問が効果的という提言があります。1~2カ月間、あるいは、「不安感がなくなるまで」は同行訪問を行い、訪問看護の現場を体験し理解してもらうということです。
これは職場のコミュニケーションの円滑化にもつながりますし、最終的な人員確保につながるという現場の声を集約したものです。
潜在看護師の方を
いま紹介した同行訪問ですが、これは看護師の資格を持ってはいるものの子育てや家族の介護などの理由で離職し、その後、臨床の現場に復帰していない、いわゆる「潜在看護師」の募集には効果的なアピールになります。
潜在看護師と言われる方が臨床現場に復帰しない理由として、ブランクがあるので医療の進歩に追いつけそうにない、手技の感覚が鈍っていると感じている、といったことがあげられます。
また、病院であれば緊急事態が発生した場合、すぐに同僚の看護師に相談したり、医師の指示を仰ぐことができますが、訪問看護の場合、現場の看護師が判断しなければなりません。
この点が、訪問看護に興味を持ってはいるものの潜在看護師が募集に応じることができない大きな理由になっています。
そうした不安を払拭するためには、国や自治体などの潜在看護師の復職支援と共に、訪問看護ステーションとしても同行訪問、あるいは、ほかのサポート体制を整えていることを伝える必要があります。
また、ホームページ上で、復職した潜在看護師の事例を紹介する、また、離職期間の子育てや介護などの経験が活きる仕事であることを伝えるなどして、潜在看護師が感じているハードルを下げることも採用活動において有効に働くでしょう。
訪問看護の役割を伝える
訪問看護は「訪問介護」とよく混同されます。その理由としては、訪問介護のほうが訪問看護より認知度が高い、よりポピュラーであるということになるでしょう。業務も入浴や排泄の介助、清拭など一部類似している部分があります。
しかし、訪問看護師は、かかりつけ医の指示のもと、利用者宅を訪問し点滴、注射、胃ろう、吸引、また、健康状態の把握や助言なども行います。つまり、訪問看護は医療と介護両面のサービスを提供するポジションにあり、これは在宅医療の必要性が高まっている現在、非常に重要な役割を担うということです。こうした役割の重要性、そして、そこにあるやりがいについて十分に伝えるということも人員確保において大切です。
この点について、日本看護協会の報告書は「訪問看護に対する認知の不足」と指摘し、訪問看護の人員不足の大きな要因としています。
認知不足の解消のためには、日本看護協会はもとより国や自治体などの組織的な働きかけが必要ですが、個々の訪問看護ステーション独自の努力も求められます。