介護事業を始めるときに必要な指定基準ってなに?
介護会計に則った経理処理は複雑で、正しく経理を行うためにはかなりの手間がかかります。専門的で煩雑な業務のために税理士への依頼を検討する事業者も多くいます。
しかし、税理士は税のプロであり、介護会計の専門家というわけではありません。依頼する際は、介護会計に精通した税理士かどうかを確認しましょう。
<小規模でも部門別に経理処理を行う>
これまでのコラムでも解説したように、介護事業の経理は「介護会計」と呼ばれる特殊な会計基準で処理するように定められています。
実地指導の際に提出する「自己点検シート」でも、介護会計に基づいて経理処理を行っているかどうか厳しくチェックされます。規定の方式で行っていないと、指導の対象になったり、場合によっては指定事業者の取り消しなど、行政処分を受けたりするおそれもあります。
介護会計に基づいて経理処理を行うためには、事業所別、部門別の会計処理を行う必要があります。複数の事業所を抱える事業者はもちろん、単一の事業所で業務を行っている規模の小さな事業者も、例えば居宅介護支援と障害者総合支援といったサービスごとに部門を設定してそれぞれで経理処理を行います。
複数の事業所、部門に関わる収支については、「共通費」などの科目でいったん経理処理を行った後に、合理的な基準と比率で各事業所、部門に按分(振り分け)します。面倒で手間のかかる作業です。会計の専門的な知識のない経営者やスタッフが、通常の業務と経理業務を兼務するのはかなりハードルが高いといわざるを得ません。
<回収状況もきちんと記録>
通所介護や訪問介護を提供する事業者の場合、売上はサービスを提供した日を基準に計上します。売上については、国保連請求分と利用者請求分ごとに仕訳をするとともに、回収状況についても記録する必要があります。
介護報酬の入金は発生月より2カ月遅れとなります。しかも、請求内容に何らかの不備が合った場合には、「返戻」と呼ばれる請求書・明細書の差し戻しが発生します。
差し戻された分については、再請求を行わなければなりません。こうなると、実際のサービス発生月と入金にはかなりのタイムラグが生じます。また「返戻」ではなく「査定」が行われると、請求額より少ない額が入金されます。
一方、利用者に請求した分については、現在では口座振替による支払いが一般的ですが、現金での支払いを希望する利用者もいます。
そのため、利用者請求分についても回収時期にずれが生じて、回収状況を正確につかんでおくのは決して簡単なことではありません。しかもすべての収支は、介護会計に則って事業所、部門ごとに処理しなければなりません。日々の、あるいは毎月の経理処理がかなり煩雑なものになることは、容易にイメージできるのではないでしょうか。
<介護に詳しい税理士・会計事務所を選ぶ<>
介護会計は複雑で手間がかかります。「よくわからないし面倒だから、税理士さんに任せよう」と考える事業者も多いと思います。その考え自体は間違っていません。むしろ、煩雑な経理処理に追われて、通常の業務に支障が出るようでは元も子もありません。
ただ、知っておいていただきたいのは、税理士は税のスペシャリストではありますが、介護会計の専門家ではないということです。
介護保険は厚生労働省の管轄で、国税庁の管轄する税金の分野とは直接の関係はありません。それゆえ、税理士といえども介護会計全般についてしっかりと理解できているとは限らないのです。
例えば、介護保険料の入金は請求月から2カ月後になります。そのため、決算で計上すべき介護保険料の未収入金は2カ月分となります。しかし。1カ月分しか未収入金が計上されていない例が多く見受けられます。
また、居宅サービスに関わる消費税は、要介護者の介護保険の利用限度額を超えている場合に課税されると解釈しているケースも多くみられます。
しかし、消費税の課税については、介護保険の利用限度額で判定するわけではありません。消費税の指針については、厚生労働省の「介護保険法の施行に伴う消費税の取扱について」で示されています。
さらに、こんな間違いもよく見られます。
請求に対して、銀行口座への振り込みを行うか、口座引き落としがあると、通常はその記録が領収書の機能をはたします。
しかし、介護会計では介護サービス利用者の支払い方法に関わらず、領収書を発行する義務があります。しかも、その領収書には明細をつける必要があります。明細がないと、利用者が医療費控除の計算をする際に支障が生じるからです。
この明細つきの領収書の発行義務については、厚生労働省の「介護保険制度下での介護サービスの対価に係る医療費控除の取扱いに係る留意点について」に示されています。