介護事業を運営する中で重要な介護会計とは
介護保険制度は、社会状況の変化に応じて制度づくりがなされています。予想以上の速さで進む少子高齢化社会に対応すべく、3年ごとに改訂が行われています。どのような背景から生まれ、どう改訂されてきたのかを知ることは、制度を理解し、次代の制度のあり方を考えるために役立ちます。
介護保険はなぜ生まれたか
介護保険制度はなぜ生まれたか
介護保険制度の歴史や背景を知ることで、制度の成り立ちや目的が見えてきます。
日本における老人福祉制度は1960年代に始まっています。当時の高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)は5.7%でした。その後、70年代になると老人の医療費は無料となり、誰もが安心して医療サービスを受けられるようになりました。
しかし、この医療の無料化によって、老人医療を取り巻く状況は、徐々に好ましくない方向へと変化を見せます。
医学的には入院の必要がないにも関わらず、世話をする家族がいないといった家庭の事情で長期間入院する「社会的入院」や、いわゆる「寝たきり老人」の増加が問題化して、日本の医療費は高騰します。
80年代に入ると高齢化率は9.1%に上昇し、病院のベッドが足りないという状況を招きます。さらに、90年代になると高齢化率は12%にまで達し、政府は高齢化社会に適した政策への転換を迫られるようになったのです。
その結果、1997年に介護保険法が制定され、2000年4月に介護保険制度が施行されます。
<介護保険制度の基本理念>
日本の社会は少子高齢化や核家族化が進んで、介護を必要とする人を家族だけで支えるのは難しい状況です。介護保険制度では、介護を必要とする人が適切なサービスを受けられるように、地域社会全体で被介護者と介護する家族などを支え合うことを目的としています。単に身の回りの世話をする介護サービスを提供するだけでなく、家族の負担を軽減するための支援や介護を受ける人が自立できるようサポートする自立支援を通して、介護される人・する人の双方が安心して暮らせる社会の実現をめざしています。
3年ごとに見直される介護保険制度
介護保険制度は、2000年に施行されたまだ新しい制度です。問題点がないか常にチェックし、3年ごとに見直しをすることで、より実状に即した制度とすることを目指しています。
もっとも現在の日本では少子高齢化が予想以上のスピードで進んでおり、3年ごとに制度を見直すことで、急激に変化する社会状況になんとかついていっている、という状況です。
施行以来、介護保険制度はこれまでに5回の見直しがあり、直近では2018年に大きな改訂が行われています。
<改訂の歴史>
2006年
予防重視型のシステムへの転換、施設利用者の保険給付の見直しが行われました。また、地域密着型サービスが新たに創設されました。
2009年
介護サービス事業者の不正が発生し、不正の再発を防止して、介護事業運営の適正化を図るための改訂が行われました。
2012年
介護と医療の連携強化、看護小規模多機能型居宅介護・複合型サービスの創設などが行われました。
2015年
予防給付を自治体の地域支援事業に移行。特別養護老人ホームの入居条件を要介護3以上にするなどの改訂が行われました。
<2018年の改訂のポイント>
2018年の改定では、次の4つの考え方に基づき、制度変更や介護報酬の改定、施設の創設などが行われました。
1.地域包括ケアシステムの推進
高齢者を家庭に閉じ込めてしまうのではなく、最期まで住み慣れた地域で暮らせるよう、社会の一員として社会全体で高齢者を見守るケア体制を確立させることを目指す。
2.自立支援、重度化防止の取り組みの強化
介護状態を進行させないための介護予防を強化する。自立支援・重度化防止につながるサービスは介護報酬の増額や加算サービスの対象とする。
3.介護人材の確保を目指し、生産性を向上させる
訪問介護で生活援助サービスを提供する人の資格を緩和。介護ロボットの導入やリハビリテーション会議でテレビ電話の使用などをすすめる。
4.介護サービスの適正化、介護保険制度の安定性・持続可能性の確保
介護事業者による不正防止を改善課題とする。また、現役並みに所得のある高齢者についてはこれまで1〜2割だった自己負担割合を3 割負担とする。
高齢者人口推移と今後の予測
日本の総人口は2017年10月1日現在で1億2,671万人、65歳以上人口は、3,515万人。総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は27.7%に達しています。これは世界でも最も高い水準です。
今後も高い水準で推移することが予想され、2025年には戦後のベビーブームに生まれた「団塊の世代」が75歳以上になります。2018年の介護保険制度の改訂には、この「2025年問題」に対して備えるという意図があると見られます。
65歳以上の人口は2025年以降も増加し、2042年にピークを迎えた後、減少に転じます。ただし高齢化率はその後も上昇傾向で、2065年にはおよそ2.6人に1人が65歳以上、およそ3.9人に1人が75歳以上という超高齢化社会が訪れると考えられています。
少子高齢化の進行とともに、要支援認定・要介護認定者が増加していくと考えられます。厚生労働省の調査によると、2025年の介護給付額は総額21兆円程度になり、現在全国平均で5,800円程度の介護保険料は8,200円程度にまで上昇するという見込みです。
こうした状況に対応するために、厚生労働省が重視しているのが、2018年の改訂でもトピックスとなっている「地域包括ケアシステムの構築」です。
公的なサービス提供だけでなく、自助や共助を組み合わせて地域全体で高齢者を支えていくという仕組みです。各自治体では厚生労働省のこうした方針に基づいて、地域包括ケアを実現するための支援やサービスの提供体制の確立・整備に力を注いでいくことは間違いありません。