「不安」を抱えた保護者の皆様へ
令和4年9月26日に「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」は、文部科学省に提言をしました。
その中で、ギフテッドという用語については、もともと英語の「Gifted」を指しまた天与の資質を意味し、何の色もついていない広義の才能を示すものです。が、米国をはじめ海外の学校教育において用いられる場合は、いわゆる英才教育プログラムを受けるに値すると認定された子どもを示すことがあり、ギフテッドというと生まれつき突出した才能のある子どもという意味で使われること多かったのです。
そこで同有識者会議は、日本でギフテッドというと突出した才能をもつ子、あるいは特異な才能と発達障害を併せ持つ2E(Twice-Exceptional、二重に特別なの意)の子に限定して用いられている場合が多いのです。しかし、突出した才能といっても幅が広く、理数系というふうに学問分野を限定できないし、IQだけで才能の程度を測れるわけでもありません。また、発達障害を伴わない才能児もたくさんいます。ギフテッドという言葉は使う人によって意味が違い、特別な指導や支援を必要とする対象者のイメージも異なるため、ギフテッドという用語は用いないことにしました。
ここで注意したいのが、「特定分野に特異な才能のある」と冠を表すれば、何か特定な分野に秀でた特定の子を取り出して、何か特別なプログラムを行うことを支援すると誤解されます。
が、そうではないのです。学校において「真に問題を抱えている子どもたちがいる」ことや「それを問題と感じている保護者の方がいる」ということなのです。
提言では、「多様性を認め合う個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の一環として」と副題を呈しました。多様性を認め合う教育はどうしたらいいのでしょうか。長らく、日本の教育は、一斉指導が前提でした。近年、発達障害をもつ子、外国人児童、多様な性をもつ子(LGBTQ)など、「通常学級の中に、一斉指導とは別の特別な教育ニーズがある子がいる」という認識は広まっています。
一人ひとりが全然違っていて、多様な子がいます。それが当たり前の現実です。そんな一人ひとりの子どもたちの育ちを、大人はどう保証し、どう育まなければならないのでしょうか。
同年同月に国連の障害者権利委員会が日本政府に対し、知的または心理社会的障害のある、より集中的な支援を必要とする子どもたちを分離した特別支援教育を中止し、質の高いインクルーシブ教育に関する行動計画を採択するように勧告をしました。
インクルーシブ教育とは、国籍や人種、言語、性差、経済状況、宗教、障がいのあるなしに関わらず、「すべての子どもが共に学び合う教育」というものです。
令和3年度答申においては、令和の日本型学校教育の姿を「全ての子どもたちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」としました。
同有識者会議は提言において、個別最適な学びとは指導の個別化と学習の個性化の観点から整理され、このうち指導の個別化とは、子ども一人ひとりの特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどとされています。また、学習の個性化とは、教師が一人ひとりに応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子ども自身が学習が最適となるように調整することとされています。
こうした学びの在り方は、特異な才能のある児童生徒の学びを考えていく上でも当てはまるものです。このため、多様な一人ひとりの児童生徒に応じた教育の在り方をいかに実現していくのかということの延長線上に、特異な才能のある児童生徒への支援策を考えていくことを基本的なスタンスとして検討を進めていくことが適切です。
また、協働的な学びとは、多様な他者との協働的な学びを一体的に行うことによって、自分とは異なる感性や考え方に触れ刺激し合いながら、学びを深めていくという視点は、特異な才能のある児童生徒にとっても重要であって、成長に不可欠である。と説きました。
「障がいのある子も、才能のある子も、通常学級でインクルージョンの方針で教育していこうというのが世界的な潮流です。その上で、理数分野であるとか、表現力や創造力といった分野で特定の才能を伸ばすなどの目的に沿ってプログラムを提供する。才能を識別、選抜する方法もIQなどどこでも一定の数値で線引きするのではなく、個別プログラムごとに要求される特定の力を評価し、どの子も個別最適な学びの中でそれぞれの能力を伸ばすことができるのです。
このような、通常学級の広義の中での才能教育の在り方を実践しているものがあります。才能教育実践教育研究の第一人者ジョセフ・レンズーリ教授(米コネチカット大学)が開発した「SEM(Schoolwide Enrichment Model、全校拡充モデル)が開発したものです。
SEMでは、子どもの才能を伸ばすカギは、「普通(平均)より優れた能力」「創造性(創造的に考え工夫する力)「課題に対する傾倒(課題をやり通す力)」の3要素だと説きます。これらを育み伸ばすために、学校ぐるみで通常学級をベースに各児童生徒の学習進度や学習方法などに合わせて個別化指導や支援を行います。
具体的には「拡充三つ組みモデル」というタイプⅠからⅢまでの学習体験を柔軟に組み合わせて実践をします。タイプⅠは授業の中で子どもたちの興味や関心を喚起するテーマを与えます。タイプⅡでグループ活動による協働的な学びでテーマに関する知識や技能を習得します。タイプⅢにおいて個人あるいはグループで習得した知識や技能を活用した探究を行い、最後にその成果を発表することで他の児童生徒が新たな興味や関心、知識や技能を拡充していくという方法です。
では、このような教育を実践している学校はあるのかということです。すでに山形県の天童市天童中部小学校では、SEMの理念や方法に通じる4つの授業スタイルを採用しているとのことです。
文科省は令和5年度からこうした「特異な才能のある子ども」への教育支援を始めました。現在、名古屋市教育委員会など全国7つの教育機関で授業内容や支援策についての研究が進められています。
「特異な才能のある子ども」への支援について述べてきましたが、まだまだ本県など支援が十分ではない学校があります。「真に問題を抱えている子どもたちがいる」ことや「それを問題と感じている保護者の方がいる」のにもかかわらず、理解さえしていない教育委員会もあるそうです。
本年度から文科省が支援に乗り出したとのことですが、末端の現場にいて支援の手を伸ばしているのは、「子どもと保護者」なのです。早急なご支援をお願いいたします。