脳の発達には「楽しい、心地よい身体運動」が欠かせない
今回は、脳のメッセンジャー役の物質たちです。この物質たちも「楽しい、心地よい運動」が重要に関わってきます。
脳は、さまざまなタイプの無数の細胞からできています。それらが数百種の化学物質を介して、互いにコミュニケーションを取りながら、私たちの思考や行動を一つひとつ決めています。一つのニューロンは、他の10万個ほどのニューロンから情報を受け取り、それを総合して自身の信号を送り出しています。
ニューロンの枝と枝の結合部位はシナプスと呼ばれ、最も重要な場所です。結合部位といっても、シナプスは接触しているわけではありません。実際には、電気信号がニューロンの軸索を通って分岐した枝の先のシナプスまで行くと、神経伝達物質がそれを化学信号に変えて、次のニューロンに伝えます。
信号を受け取る側のニューロンの枝は樹状突起と呼ばれ、そこで神経伝達物質は受容体に受けとめられ、それによって細胞膜のイオンチャンネルが開かれ、信号は電気信号の形に戻ります。受け取る側のニューロンで電荷が一定の閾値を超えると、そのニューロンは自らの軸索に沿って信号を送り、次のニューロンとの間でこのプロセスを繰り返します。
脳内の信号送信の約80パーセントを担うのは、二種類の神経伝達物質のグルタミン酸とガンマアミノ酸(GABA)で、これらは互いにバランスをとりあっています。グルタミン酸はニューロンの活動を活発にして信号の連鎖的反応を始動させます。一方、GABAはその活動を抑える働きをします。グルタミン酸が、それまで結合したことがないニューロンの間に信号を送ると、結合が促されます。信号の往来が頻繁になればなるほど、ニューロン同士の連絡し合う力は強くなり、結合が増えます。共に発火するニューロンは、共につながります。グルタミン酸は、学習するうえで重要な要素です。
一方、脳の信号操作とすべての活動を調整している一群の神経伝達物質があります。それが、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンです。これらを作り出すニューロンは、脳におよそ1000億個あるニューロンの1パーセントにすぎないが、影響は大きいのです。ニューロンに命じてもっとグルタミン酸を作らせたり、ニューロンがより効果的に情報伝達できるようにしたり、受容体の感度を変えたりします。また、余計な信号がシナプスに伝わらないようにして脳内の「雑音」を小さくしたり、逆に他の信号を増幅したりもします。グルタミン酸やGABAのように信号を送ることもできますが、その第一の役割は、情報の流れを調節して、神経化学物質全体のバランスを調整することにあります。
この神経伝達物質の量を増やすためには、自発的な運動が効果的です。つまり、自分にとって「楽しい、心地よい運動」です。この運動の効果は、大抵運動を終えたときに感じられ、その状態は、1時間から数時間にわたり続くとみられています。定期的にこの運動をすれば、分泌される量も徐々に増えていきます。そして、効果も運動後の数時間にとどまらず、丸1日続くようになります。
次回に続きます。