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活発に、身体を動かす

吉田洋一

吉田洋一

テーマ:運動による心身の発達

 前回、発達障害のケアには、「脳の可塑性」が必要であることを説明しました。そして、それには脳を育てることが必要であることを説明しました。そして、早期に「脳の神経回路を変化させる」ことが、ケアにつながると説明しました。
 ここで保護者の皆さまから疑問が飛んできます。わが子は脳が育っていないのかという疑問です。答えは、そうではありません。脳は育っていますが、その神経回路を変化させ、シナプスを増やす方策がケアになるということを前回説明しました。
 このケアを行うための方策がタイトルにもありますように、「活発に、身体を動かすこと」です。ケアの重要なポイントは、タイトルですから簡単に短縮して「活発に」と表現しました。「活発に」とは、自ら、自主的に、自分の意思で、自己決定でなど他の人が指示、命令、指導など関与しないという意味です。
 子どもが活発に動く様子は、保護者の方はよくご存じです。そこには「笑顔」や「喜び」に溢れた「楽しい」「心地よい」子どもの身体運動があります。
 では、なぜ活発な身体運動がケアになるのでしょうか。それは、脳科学の研究により実証されたのです。アメリカの医学博士ジョンJ.レイティ氏は、「楽しく汗を流せる運動なら何でも良い。とにかく何か身体を動かすことに夢中になってほしい。」「運動は脳の機能を最善にする唯一にして最強の手段です。」「何百という研究論文に基づいており、その論文の大半は最近発表されたものだ。」「運動が脳の働きをどれほど向上させるかを多くの人が知り、それをモチベーションとして積極的に運動を生活に取り入れるようになることだ。もっとも、それを義務だと思ってほしくない。運動を無理強いするつもりはない。そんなことをしても無駄だ。ラットの実験により、強制された運動では自発的な運動ほどの効果がでないことがわかっている。運動したいと心から思えるようになることだ。」(「脳を鍛えるには運動しかない」ジョンJ.レイティ著 NHK出版 p12,308)
 また、スポーツ生理学者のクレイグ・ブルーダー氏は、学校の体育の授業において「生徒が上手くこなせて満足できるのも見つけ、無理なく楽しめる運動をさせることです。」「例えば、バスケットボールをしなさいというように、選択の余地を与えず、まるで強制的に押し付けていては、生徒はそれを続けるはずはありません。」「生徒たちは身体の働きを学ぶとともに、健康な生活習慣を身につけ、その楽しさを学んでいる。」「体育教師たちは幅広い選択肢を用意して、どの生徒もそれぞれ楽しめるものを見つけられるようにしている。」「子どもたちがテレビの前に座ることでなく、身体を動かすことに夢中になるように仕向けている。」(「脳を鍛えるには運動しかない」ジョンJ.レイティ著 NHK出版 p36)
 そして、カナダのマギル大学の心理学者ドナルド・ヘップ氏の著書「行動の機構―神経心理学理論」を発表し、ラットを使った研究で「使用がもたらす可塑性」という、学習によって刺激を受けたラットの脳のシナプスは、自らを配列し直すと説いた。ヘップの「使用がもたらす可塑性」を実証するため、バークレーの心理学者のグループは、脳にとって運動は新しい経験になるということ、つまり、感覚刺激と社会的刺激の多い環境で暮らすと、脳の構造と機能が変わることを発見した。つまり、ラットの好きな環境(環境富化)に置かれたラットたちは、学習作業をうまくこなしただけでなく、脳が重くなっていました。など、科学的な裏付けがたくさん発表されています。(「脳を鍛えるには運動しかない」ジョンJ.レイティ著 NHK出版 p58)
 保護者の皆さまは、わが子にとって「楽しい、心地よい身体運動」は何でしょうか。これまで、なかったでしょうか。
 もう一度、わが子が「活発に、身体を動かす」ことを考えてみましょう。そして、実践しましょう。次回に続きます。

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吉田洋一
専門家

吉田洋一(心身発達の心理士)

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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