脳からみた、子どもの心身の発達
前回、発達障害とは「何らかの精神発達のおくれをもち、それが生きにくさをもたらしている」と定義され、これが、脳の機能障害によるものとされ、簡単に説明しました。
人間の行動は脳がもたらします。子どもについても、心身の発達を促進させるためには、脳を育てることになります。脳の神経回路は環境刺激により変化します。子育て、保育、教育、そして私の研究である「心地よい、楽しい運動」が、子どもの脳を育てることになります。これについては、後日説明します。
脳が育つ条件としての一つ目は、神経伝達物質の分泌量を適量確保することにあります。神経伝達物質は、基本的には、神経細胞(ニューロン)が細胞体の核にある遺伝子の命令によって生産されるものですが、精神的環境や食生活によっても大きく左右されるのです。それゆえ、赤ちゃんの頃から、例えば精神的環境からいえば、スキンシップによりセロトニン量を増やすこと、楽しい雰囲気によりドーパミン量を増やすことなのです。このことはシナプス(細胞体や神経終末の樹状突起が、他の神経細胞(ニューロン)や組織に接する部分のわずかな隙間)にこうした神経伝達物質が伝えられるネットワークを作ります。
脳が育つ条件の二つ目は、神経細胞(ニューロン)と神経細胞(ニューロン)の接点であるシナプスを増やすことです。神経細胞(ニューロン)は、脳全体で約1,000億個、大脳新皮質だけで140億個あるといわれています。乳幼児から20歳頃までは、この数はあまり変わらず、20歳頃過ぎると一日10万個程度は消滅するということです。
幼児に比べ大人の方がより複雑な行動ができるのは、神経細胞(ニューロン)の数の問題ではなく、神経細胞(ニューロン)間のシナプスが増えていくことにあります。このシナプスが増えていくことを、脳のネットワークを作るといいます。
生後、神経細胞(ニューロン)の数は変わりませんが、生後2~8カ月の間に、シナプスの数が急増します。例えば、新生児の大脳皮質のシナプス数は、成人の約2倍です。乳幼児の神経回路は、あらゆる感覚情報と記憶に関して可塑性が非常に高く、出生後の様々な経験から脳が目覚ましい発達を遂げます。
また、乳幼児期に急増したシナプスは、10歳くらいまでに減少し、以後は一定の数になります。この間に、よく使用されて強化されたシナプスだけが残され、それ以外は余剰のシナプスとして「刈り込み」が行われます。どのシナプスが残るかは、それぞれ個人の経験によるのです。
ここで注意してほしいのは、2つの神経細胞(ニューロン)が出会っても、必ずシナプスを作るわけではないということです。神経細胞(ニューロン)の軸索や樹状突起が伸びたときに、ターゲットになる神経細胞(ニューロン)が出す神経栄養因子ニューロトロフィン(タンパク質の一種)がなければ、誘導してもらえず、シナプスは形成されません。形成されない場合には、軸索や樹状突起を伸ばした方の神経細胞(ニューロン)は消滅します。ニューロトフィンには、神経成長因子(NGF)や線維芽細胞増殖因子(FGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)などがあります。この神経栄養因子は、後日説明する「心地よい、楽しい運動」で生成されることがわかりました。
以上、発達障害のケアには、脳を育てることが必要であることを説明しました。そして、早期にケアすること、つまり早期に「脳の神経回路を変化させる」ことが、ケアにつながるということをご理解ください。次回に続きます。