薬局薬剤師の仕事も、「病気は予防へ」
まちかど糖尿病指導薬剤師の笠原友子です。
地域の担当する学校の学校薬剤師もしております。
学校薬剤師の仕事の一つとして「薬物乱用防止教室」のコマを持っており、
毎年夏休みに入る前になると、講師に呼ばれます。
突然ですが、天邪鬼(あまのじゃく)って聞いたことがありますか?
わざと人に逆らう行動をしたり、つむじが曲がったひねくれ者をさします。
民話の中では、物まねがうまく人の心の内を探ったりします。
子供のころの心って、誰しもこの天邪鬼に似たものを持つことがあります。
ダメって言われた事こそ、やってみたい。
大人になってもそんな人っていますね。
7月に入ると、能登の各地では一斉に夏祭りが始まります。
それで、夏祭りの始まる7月上旬になると毎年
薬物乱用防止教室に講師のお声がかかるわけです。
もともとは、警察、保健所、学校薬剤師が、輪番で開催していたと聞きました。
ところが、ここ10年毎年お呼びがかかります。
「笠原先生の話は、真昼間にするわりに怪談よりも怖い」というのです。
「飲まない良く効く薬」と呼ばれているらしく、
毎年春に、新任の先生方が挨拶に来られるたびに、
「楽しみにしています♪」とごあいさつしてくださいますし、
必ず一度は聞いておくように上司にも言われているらしいです。
笠原の薬物乱用防止教室はどんな話?
笠原の薬物乱用防止教室はどんな話なのか、
薬剤師仲間や教育関係者が、興味を持ってくださいます。
当初は、セオリー通り麻薬や覚せい剤を使ってはダメって話をしていました。
でもね、話しているこちらが
「本当に子供たちの心の伝わっているのか?将来本当に薬物に手を出さずにいてくれるのか?」
と、これでは満足できなかったのです。
身近にないものを言われても、余計に気になりませんか?
「それって、使ったら、本当はどうなるんだろう?」と興味を掻き立ててしまいかねません。
天邪鬼って、誰の心の中にもいると思います。
2009年から毎年、全校生徒への生活習慣のアンケート調査を行っています。
2010年度からは毎年、アンケート結果からテーマを決めて、
「薬物乱用防止教室」と「健康教室」を兼ねて話してきました。
いくつか人気のテーマがあって
担当学校以外にも、
広域の教育事務所管轄の学校関係者の会に呼んでいただいたり
PTA関係や、小学校の児童向けにお話しさせていただいたりしています。
ここ数年、担当中学校の薬物乱用防止教室のテーマは、『身近な依存性』
飽きないかと思いますが、学校側の強い要望で毎年このよう内容でお話ししています。
能登は夜祭が多いのですが、
夜祭で生徒たちが事故にあわないように
生徒たちの心に自分の体のこととして置いてくるように
心を込めて、次のようなお話しをしています。
身近な依存症
・酒と清涼飲料水の見分け方
皆さんご存知でしたか?
プルタブの部分に、つぶつぶがついているんですよ。
暗い中では区別がつかなくても、点字で「おさけ」と刻印してあります。
・口に入れるものを座標軸に見立てて、
「病は口から」
食事も薬も毒も、同じように口から入ってきます。
食べ過ぎは何であっても毒に近づきます。
口に入れるものには、用心しましょう。
口から入ったものが、必ず行きつく臓器の
・肝臓の働きには、
解毒と代謝があります。
・なぜ、市販の薬の量の年令分けが、体の大きさが異なる小学生と中学生で同じかと言うと?
中学生の時期は、一生のうちで一番代謝が高いせいです。
その分、肝臓の働きは解毒の力が体の大きさの割に弱いです。
・酒の持つ作用~酒を飲んだ大人の言うことを信用してはいけない理由
酒の作用には、脱抑制と依存性があるからです。
小学校で講師をして子供たちに聞くと、酒を飲んだことのある小学生の
8-9割は親や酔った大人がが飲ませています。
最近何かと飲酒が原因での事故が発生しているのは
皆さんニュースで聞くでしょう?
酒の作用には脱抑制があることを知って、酔った大人には近づかないでね。
・なぜ、酒は酔うのか、血液脳関門の話と胎盤の話をします。
酒は、血液脳関門を通過して、脳まで到達するから酔うのです。
同じことが、赤ちゃんを宿したお母さんの胎盤にも言えます。
妊娠中に飲酒すれば、赤ちゃんの脳にも、お酒は入ってしまいますね。
・アルコールの分解速度には性差があること
男性よりも女性の方が、分解速度が遅く
そのせいで事故の被害者にもなりやすいです。気をつけましょうね。
・たばこの作用、吸い続けた結果起きること
・記憶をつかさどる脳の領域は、酸欠に弱いです。
たばこの煙の中の一酸化炭素は、酸素に代わってヘモグロビンに結合します。
脳は酸欠になりませんか?
・貧血のままにすると、酸欠が続くことになること
その酸素を運ぶヘモグロビン自体が少なくなっているのが貧血です。
貧血をそのままにしないでおきましょうね。
・なぜ、未成年では酒やたばこを口にしてはいけないのか、その体の理由は?
代謝が活発な時期は、解毒が遅れがちだからです。
その分、急性アルコール障害や臓器障害にもなりやすく
年少に飲み始めるほど将来の体のリスクも依存症も付きやすいのです。
・罰則規定もあります。
日本では1922年に制定「未成年者飲酒禁止法」が制定されています。
・自分と周囲の大人を犯罪者にしないために
中学生である自分たちも気をつけましょう。
未成年者に酒やたばこを勧めたり、のませることは犯罪です。
・ネット依存症もあるよ
脳の一部に、薬物依存症やギャンブル依存症に似た変化が起きると言われています。
症状は、感情のコントロールができない。イライラする。思考能力が低下
攻撃的になる。無感情・無感動になる。などです。
反応が気になって、やめられない。眠れなくなることもあります。
未成年者ほど、影響が大きいと言われます。
・毎年スライドの最後にお出ましいただくのが、シスター渡辺和子さん。
私自身中学生のころ、シスター渡辺の話を最前列で聞き、
半世紀近くたった今でも心の底に残っています。
心に残ったその言葉は、そのまま本のタイトルにもなっています。
美しい人に
人の顔の見た目には、逆らえない部分がありますが、
せめて自分自身でできることをと、
私自身が耳にした言葉を、そのまま毎年子供たちに伝えています。
「美しい人になりなさい。
あなたたちが一生使う顔は『今』作られます。
25歳には、一生使う顔に出来上がってしまいます。
今しっかりと学び、美しい心を持ちましょう。」
夜の夏祭りで、自分の身は自分で守るように伝えます。
毎年、全校生徒のほとんどが、紙いっぱいに感想を書き綴ってくれます。
「この子たちが一生お酒を飲めなくなったら、わたしのせい」です。
子供たちの感想を少しご紹介します。
8月は毎週続いた地区の祭りですが、祭り中に子供たちはどうしていたかと言うと・・・
子供たちで集まって、ジュースを飲んでいたそうです。
「ツブツブ付いたのはお酒だって、先生言ってたし
暗くても、間違えんわ!周りの大人を犯罪者に出来んしね!」
これが私の薬物乱用防止教室です。
常日頃の、薬局店頭での糖尿病対策の延長上に、子供たちへの対策はあります。
祭りが終わって、能登にも秋が来ます。