70歳で五十肩?ゴルフで起こった肩の痛みで腕が上がらない、いったい何が原因でしょうか

中田和宏

中田和宏

テーマ:健康とはり



高齢者とは?


 WHOの定義では65歳以上の人のことを高齢者としています。65~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と呼びます。


 日本での高齢者の割合は20%にもなり、世界でも最も高い水準です。高齢者の割合は今後も増加し、総務省統計局 によると2015年には25%を超えると見込まれています。
 75歳以上が後期高齢者ですが、75~79歳までを後期高齢者として80歳以上を「末期高齢者」とするというお話をどこかで聞いたことがあります。Webを検索すると末期高齢者のがん治療はしても無駄?なる記事がありました。
 それにしても「末期高齢者」とは。コトバの響きがすごいです。

高齢者と運動




 Webで「高齢者 運動」と検索するとたくさんの検索結果が表示されます。年齢のいかんにかかわらす運動は必要です。と言ってる割につぼなかぢは運動してません。ウインタースポーツ真っ盛りですが「こたつでミカン」派です。


 高齢になると体の機能は衰えます。自然な流れです。たまにご高齢でもいろんなスポーツ競技で活躍する方がいらっしゃいます。100歳のエアロビインストラクターの女性、90歳の男子陸上選手など。当院にいらっしゃるお客様たちが「うらやましい」と口をそろえたようにおっしゃいます。ですが、そんなすごい高齢者はごく一部。大谷選手が唯一無二であるのと同じです。みんなが大谷選手にはなれません。天性と努力が合わさり神様に選ばれた人が活躍していると思ってください。「うらやましがるなら努力しましょうよ」とお伝えしています。
 さて、高齢者に適切な運動はウオーキングです。

  • 特別な器具はいらない
  • 難しくない
  • 長く続けられる
  • 体に負担が少ない
  • 有酸素運動である




 ウオーキングは一日20分程度、週3回が推奨されています。また、筋トレやストレッチを併用するとなおよいとのこと。目的は健康管理と生活習慣病の予防です。


 サルコペニアをご存じでしょうか。高齢者の筋力低下のことなんですがフレイルを起こす要因の一つになっています。
 フレイルとは「虚弱」という意味で、社会的、肉体的、精神的な弱りの総称です。
 社会的な弱りとは人づきあいなどのコミュニケーションが少なくなって孤独になること。「こたつでひとりミカン」は一番よくないですね。


 精神的な弱りはうつです。筋肉や内臓と同じように脳も老化してきます。脳の神経のつながりが希薄になると同時に神経を連絡する物質が減少します。するとうつになります。
 つまり、お友達と一緒に運動をすることで筋肉が強くなりコミュニケーションがとれ、お話しすることで脳の神経が刺激され健康で長生きになるということです。


 ウオーキングは一番良いとお話してきましたが、運動なら何でもいいです。その人の好みに応じて続けやすいものをチョイスするのがよいでしょう。

せっかくの運動がアダになることも


 「今日からやるぞ!」と意気込んで頑張りすぎると思わぬことが起こります。20分週3回で始めるのがいいウオーキングを初日から1時間毎日とか頑張る方がいらっしゃいます。すると何が起こるでしょうか。アキレス腱が痛くなったり足の裏が痛くなったりします。疲労性の筋痛症を起こします(はりをすればすぐ治りますが)。単なる筋肉痛ですめばいいのですが、アキレス腱や足底筋膜炎を起こしてしまうと痛みが長引きウオーキングができなくなります。


 また、筋トレを頑張りすぎてもいけません。高齢者が重いダンベルを持ち上げて頑張ると肩の関節を痛めます。負荷と回数を決めてしてください。
 それから運動には休養が必要です。

五十肩とは




 こんな症状はありませんか?
 

  • 肩の痛みで服の脱ぎ着がしずらい
  •  夜、痛みで目が覚める
  •  車の後部座席のものをとるときに肩が痛い
  •  シートベルトを引っ張れない
  •  ショルダーバッグを担ぐと肩が痛む
  •  うでがあがらなくなってきた(上手下手の意味ではありません)
  •  以前からの痛みは少なくなってきたけれどうでがあがらなくなってきた
  •  トイレでおしりが拭きづらい
  •  パンツを上げようとすると肩が痛い
  •  病院で五十肩と言われました


 それって五十肩かもしれません!
 50歳以上の肩の痛みは五十肩なんでしょうか?
 五十肩とは肩関節周囲炎の通り名で肩の痛みと運動制限を伴う病気です。四十肩というのもありますが同じ病気です。
 原因に思い当たることが少なく徐々に痛みが強くなり悪くなっていきます。しいて言えば…


  • 雪かきで肩が痛くなり春になっても治らない
  • 筋トレで重いダンベルを持ち上げた後から痛みがずっと続いている
  • 農作業で鍬で畝作った後から痛くなった




 原因はわからくて、最初は気にならない痛みだったけど少しづつ動かすと痛くなってきたというのが一番多い経過です。
 医学的に五十肩を説明すると「五十肩は、50歳代を中心とした中年以降に、肩関節周囲組織の退行性変化を基盤として明らかな原因や誘因なしに発症し、肩関節の痛みと運動障害を認める疾患群と定義されています。好発年齢は40~60歳代」です。
 最近では70歳代の発症も多くみられます。「70歳で五十肩とお医者に言われた」と喜んでいる方がいましたが、問題はもっと深刻です。
 肩関節周囲組織とは関節を包む関節包、腱、じん帯、滑液包、筋肉などです。退行性変化とは老化現象のことです。つまり肩の部品が老化現象でカペカペになって何かの拍子に炎症が起こる、金沢弁でいうとそんな感じです。何かの拍子というのは原因のことできっかけを誘因といいます。それが何かはわからないということです。

病期と症状


 痛み出してから回復していくまでに長期間を要するのが特徴です。その際病状に応じて3つの時期に分類され治療方法が変わってきます。

  • 炎症期:肩を動かす(腕を挙げる)組織に炎症が起こります。腕はまだ挙がりますが夜間痛があります。
  • 凍結期:拘縮期ともいい、痛みは炎症期より減りますが腕が挙がらなくなります。
  • 回復期:痛みと可動域制限が少なくなり少しずつ良くなります。


 五十肩の平均的罹病期間は1年とも2年ともいわれています。その期間中、肩に痛みがあります。大変つらい状態を長く続けなければなりません。消炎鎮痛剤や運動療法でしのいでいくしかありません。

類似疾患(レッドフラグ)


 肩の痛みと腕が挙がらないという症状は五十肩ばかりではありません。鍼灸治療では効果が出せない病気があります。疑わしい場合は紹介状をお渡しします。専門病院で診察をお願いしています。

  • 腱板断裂:肩関節の運動を行う筋肉が上腕骨骨頭に付着しています。その腱が切れてしまった場合に五十肩と同様の症状を起こすことがあります。若い方では外傷で、高齢者は腱がもろくなっているせいでちょっとした動作で切れてしまいます。
  • 石灰沈着腱板炎:異所性石灰沈着と言って骨に行くはずのカルシウムが腱板について炎症を起こします。更年期以後の女性に多く、強い夜間痛と腕を体にくっつけている格好が特徴的です。体から腕を話そうとするだけで肩に強い痛みが起こります。ステロイドなどの注射と石灰の吸引が必要です。軽症の場合だと鍼灸治療が奏功することもありますが、レッドフラグです。
  • キーガン型頚椎症:つぼなかぢは過去に1度見ただけの珍しい病気です。頸椎の病気のせいで肩を動かす筋肉が萎縮して腕が挙がらなくなります。
  • 肺がんなどの腫瘍:肺尖部に発生するパンコースト腫瘍は肩や腕の神経を巻き込んで痛みを出しますし、胸や上腹部のがんからの関連痛が肩に出ることがあります。
  • 狭心症・心筋梗塞:テレビでもおなじみ、左肩の痛みは心臓を疑え!です。内科疾患から肩に痛みを起こす場合はいったん痛みが治まっても再発するケースがあります。五十肩を2回以上したという場合は一度検査を受けた方がよいと思います。
  • 脳卒中の前駆症状:これも過去に一度見ました。拝見した時はそうとはわかりませんでしたが、後日家人から脳卒中で入院したとお聞きしました。脳梗塞のマヒで肩が挙がらないのでした。


 このほかにもいろんなレッドフラグがありますが、患者さんとよく話し合ってからだを良く見せていただき、おかしいと思ったら最もよい選択をするよう心がけています。

五十肩の鍼灸治療


 五十肩は3つの時期に分類されるとお話ししました。それぞれの時期に応じて鍼灸治療もやり方を変えます。
 そして大切なことは肩の病気だといって肩だけ治療していては病期が長引くだけです。全身を診て必要なところにアプローチしないと肩の症状はよくなりません。
 五十肩を起こす直接的原因が肩にあったとしてもからだが元気でバランスを保てていたなら悪化せずにすむことが多いのです。
 よく患者さんに驚かれるのが肩の痛みなのにおなかの施術で痛みが軽減する、足に施術をしたら腕が挙がるようになったなどです。からだはつながっています。肩だけで腕を挙げているわけではありません。

ケース1「五十肩ではない五十肩」


 高齢の患者さんは肩が痛くなると五十肩だと自己判断して病院に行きます。するとお医者様も「五十肩だよ」と言います。そして鎮痛消炎剤と湿布を出してくれます。肩関節周囲炎の治療としてはそれでいいと思いますが、炎症のない肩関節の痛みと運動制限を起こす病気があります。鎮痛消炎剤やシップは効果があまりありません。筋肉の緊張をとって温めて血行を良くしてあげれば良くなります。
 70歳代の男性、自営業、主訴は右肩痛です
 来院1週間前にゴルフの練習で重いクラブを100回ぶん回したところ痛みが出ました。安静時痛や夜間痛はありません。肩を動かしたときに痛みがあり日常生活で支障をきたしています。


 既往歴として30年前から糖尿病の内服治療を行っておりHbA1cは6.3で安定しているとのこと。血圧や脈拍に特記すべき点はありません。生活症状も安定して特記すべきものはありません。
 趣味はゴルフ。毎週末に必ずラウンドします。それが楽しみで生きているそうです。
 いいですね、ゴルフが生きがい。高齢者の運動としては最適です。カートに乗ってコースを回るにせよ、家でゴロゴロしているよりはよっぽどいい運動になりますし、お友達とワイワイ話し、大いに笑って楽しむことはフレイル予防になります。ずっと続けていけるよう頑張ってフォローすることにしました。
 右肩の動作を確認すると半分ぐらいまで腕を上げると肩が痛くてそれ以上上がりません。肩関節周辺に著明な圧痛はなく棘下筋、広背筋の腋窩部などに筋緊張を認めました。皮膚温も左右差なく正常ですし炎症はないと考えました。つまりこれらの筋肉に発生した筋・筋膜疼痛症候群です。五十肩ではありません。
 そこで棘下筋、広背筋の腋窩部、大胸筋、大円筋などの筋緊張が原因で起こる動作痛と考え、筋緊張緩和の目的でコリのあるところに鍼をしました。
 緊張が強い場合は置鍼術を行います。鍼を1~2mm刺入し10~15分間刺したままにします。そうするとコリが取れて筋肉はやわらかくなります。
 治療後の肩関節可動域は約30度ほど改善し痛みが少なくなりました。
 その後、4回、計5回の治療を行い動作痛がなくなり肩関節可動域はほぼ正常となり、ゴルフや日常生活に支障がなくなったので治療終了としました。
 もしかしたらこの状態で治療せずに放っておくと本当の五十肩になっていくのかもしれません。

ケース2「本当の五十肩」


 45歳、男性、職業は自営業、主訴は右肩痛です。
 3か月ぐらい前から痛み出しました。これと言って思い当たる原因はないとのことです。しいて言えばずっと忙しくお布団で寝ることよりも座椅子やヨギボー(※ー1)の上で寝ることが続いていたそうです。就寝というより仮眠という感じでした。


 右肩の痛みは徐々に強くなり、ついには就寝中まで痛みが出るようになりました。近くの病院で診てもらったところ、五十肩だといわれ、消炎鎮痛剤のシップを出されました。しばらく通っていましたがどんどん痛くなるので当院を受診しました。
 現時点での状態は安静時痛と夜間痛があり、可動域は正常の半分程度でした。無理をすればもう少し上がりそうですが、痛みが強くなるのでそれ以上は無理とのことでした。
 肩関節を触ってみると健側の左に対して少し熱感があります。
 痛みが強いこと、炎症を疑う熱があること、思い当たる原因がないことを考えると、五十肩の炎症期です。
 病歴をお聞きしたら痛くなる前、仕事の疲れが相当ひどかったとのこと。おなかや腰、足のツボを調べてみると大変強い圧痛がありました。右大巨(だいこ)、左右の志室(ししつ)、右陽陵泉(ようりょうせん)などです。試しに右大巨を指圧した状態で腕を挙げてもらうと、160度ぐらいまで上がりました(正常は180度)。痛みのため約90度ぐらいしか上がらなかったのがずいぶん上がるようになります。ほかのツボと肩関節との関係もありました。


 つまりこの方の肩の痛みは肩だけでなく全身に問題があることがわかりました。
 施術方針を決めて患者さんに説明しました。

  • 肩関節の炎症を軽減すること
  • 痛みのために生じたコリを軽減すること
  • 全身に広がっているこりを軽減し疲れをとること


 そして炎症が軽減したら今度は拘縮期に移行するはずですので肩を温め動きやすくなるよう筋緊張をとるよう進めることにしました。これはまだ先の話ですが、今後の計画としてお話ししました。
 症状が強いので週2回で1カ月通ってもらいました。肩を動かしたときの痛みがNRSという尺度で10から6に減りました。これは結果として炎症が軽減したことだと思われます。炎症期から拘縮期に移ったと考えられます。
 施術内容は特に変えずに少し動かしてもらうようにしました。1週間に1回の施術を行いました。およそ1か月後(初診から2か月後)には可動域が拡大しました。屈曲(腕を前から上へ挙げる動作)で165度(最大値は180度)、外転(腕を横から上へ挙げる動作)で120度(最大値は180度)まで痛みなく上げることが出来るようになりました。ひねりの動作ではまだ痛みが出ます。
 この時点で全身に点在していた圧痛はなくなっていました。回復期に入ったのでどんどん運動をしてもらいました。
 その後、週1回から10日に1回程度の施術を行い、肩の可動域は完ぺきではありませんが日常生活に支障がなくなったので施術を終了しました。以後の施術はからだのメンテナンスとして月1回来院してもらい肩こりや全身の疲れに対して施術を行っています。今では五十肩はすっかり気にならなくなったそうです。
 このケースは約3カ月で軽減した軽症の部類ですが、ひどいと2年も痛みが続くことがあります。また治療が遅くなったり病気の時期と会わない治療を行うと痛みが強くなるばかりでなく治るまでの期間が長引くことがあります。

まとめ


  • 高齢者の運動はウオーキング、時々ストレッチと筋トレ
  • 運動はやりすぎに注意、やりすぎると体をこわすことがある、特に肩関節
  • 高齢者で肩の痛みと運動制限を症状とするのを五十肩という
  • 五十肩の原因は不明が多い
  • 五十肩を起こすもとは老化現象
  • 五十肩と一言で言ってもいろいろなバリエーションがあり、本当の五十肩でないものも混ざっている
  • 危険な五十肩もある(病院でちゃんと見てもらって治療を選択すること)
  • はり治療は効果的だが肩だけ施術していてもよくならないことが多い
  • 病期の時期に応じて治療法を変えることが重要
  • 一回や数回で治る方の痛みは五十肩でなくて筋・筋膜疼痛症候群


 痛みが取れて日常生活を取り戻すまでに長期間かかる五十肩。そのかかる期間をできるだけ短くして痛みを軽くするのにはり治療をお勧めします。
※ー1:ヨギボーとはビーンズバッグチェアのこと。小さなプラスチックの顆粒が詰まった袋でできた椅子。どんな形にも変形するので椅子にすると気持ちよく体を支えてくれる。

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中田和宏
専門家

中田和宏(鍼灸師)

トキの森鍼灸院

初診時のカウンセリングでどんな状態か明確にし、できることを説明します。施術計画を立てて最適な施術を提供します鍼灸治療にたずさわって約40年のベテラン鍼灸師が優しく対応しますお困りならまずご相談を!

中田和宏プロは北陸放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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