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中田和宏

つらい痛みを軽減し、心身の健康を導く鍼灸のプロ

中田和宏(なかだかずひろ) / 鍼灸師

トキの森鍼灸院

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コラム

坐骨神経痛ばかりが原因ではないんです

2021年11月2日

テーマ:はりきゅうとツボ

コラムカテゴリ:医療・病院

コラムキーワード: 坐骨神経痛 対策筋膜リリースアンチエイジング



 足の痛み。と言っても原因はさまざまです。坐骨神経痛を起こす腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症があります。そして非特異的腰痛が原因で足に痛みを起こす、トリガーポイントによる関連痛があります。ほかにもいろいろあります。
 どんな原因であっても痛みが続いて生活に不自由を強いられます。病院に行って原因が分かればまだいいのですが、経過観察をしていても変化がない場合には大変心配になってきます。
 
 畑仕事ができない、お台所に立っていると足が痛くて料理ができない、痛みで車の運転中に集中できない、夜寝ていても痛みで寝付けないなど。心配で心細くなります。

痛くて散歩ができない


 73歳の男性、左足の痛みを訴えて当院を受診されました。その痛みは散歩のときだけで、ご自宅にいるときや夜お休みの時にはまったく痛くありません。いままで日常生活に支障がないためあまり気にしていなかったのですが、今朝散歩のときにいつもより痛みを強く感じたので相談されました。
 
 日課の散歩は1時間ほど。朝4時頃から5時にかけて、近くの犀川沿いを歩きます。今の季節(8月)、4時はすでに明るく爽やかで気持ちが良いとのこと。


 
 さて、患者さん。散歩をはじめて15分ほどたつと左のふくらはぎがじわじわと痛くなってきます。そのまま歩いていると痛みで歩けなくなります。立ち止まり一服するとまた歩けるようになるので、家に帰るまで数回の休憩を入れながら歩いています。
 こんな日が数日続いたため散歩をするのがおっくうになってきたとおっしゃいます。
 
 これまで腰痛で鍼灸治療をしており、腰痛は落ち着いています。腰痛に加えて足の痛みが増えました。散歩のときの症状から、腰部脊柱管狭窄症が疑われました。間歇跛行と言って、歩いている途中に痛みで前に進めなくなる症状です。しばらく休むとまた歩けるようになります。この男性の症状に一致しています。
 この、休む時の姿勢に注意が必要です。腰部脊柱管狭窄症の間歇跛行は前かがみで休みます。この方はその場で立ったまま休むとおっしゃっています。そしてこんな時喫煙歴をお聞きします。ヘビースモーカでもう何十年とタバコを吸っていることが分かりました。


 
 となると、疑わしいのは下肢閉塞性動脈硬化症です。足の動脈が詰まったり流れにくくなる病気です。そ径部(大腿動脈)、ひざの裏(膝窩動脈)、足の甲(足背動脈)、くるぶしの内側(後脛骨動脈)の動脈を左右比較して触診したところ左のひざの裏、足の甲、くるぶしの内側の脈がふれません。
 ということはひざから下の動脈のどこかがつまっている可能性があります。患者さんにその旨ご説明し、いつもかかっている内科の医師に紹介状を書いて渡しました。
 数日後、医師からの返書を持って患者さんが訪れました。検査の結果、やはり左下肢閉塞性動脈硬化症とのこと。県立中央病院でバイパス手術を行うことになりました。

足の動脈がつまるということ


 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)は足の血管が動脈硬化を起こし細くなったりつまったりして起こる病気です。血流が悪くなるので足の運動時、つまり歩行時に痛みやしびれを足に起こします。進行すれば安静にしていても痛みやしびれが出ます。もっと進行すると血流がとだえるため、足の指が壊死を起こします。
 この患者さんは歩行時の痛みだけを訴えていますから、軽症の部類に入ると思われますがバイパス手術を勧められているので保存療法では改善が見込めないのかもしれません。
 保存療法は生活習慣の改善と高血圧や動脈硬化などの基礎疾患の治療、運動療法が一般的です。タバコは動脈硬化に最悪です。
 
 運動療法はとにかく歩くこと。痛くても歩く。30分を3回に分けて歩くのが良いそうです。そうすると詰まった動脈の横の細い動脈がどんどん太くなって側副血行路ができるようになり血液の交通が確保されます。
 鍼治療でも側副血行路促進が研究で確認されています(注1)(注2)。ではなぜつぼなかぢは鍼治療で対応せずに病院へ紹介したのでしょう。
 一つには鍼治療だと効果が出るまで数ヶ月かかりその間患者さんは痛い思いをし続けなければなりません。バイパス手術だとせいぜい1週間程度で退院して痛みのない日常生活をおくれるようになります。
 二つ目は患者さんの命を預かっているのは鍼灸師ではなく主治医であるかかりつけ医です。患者さんの情報は、かかりつけ医に報告し治療については最もふさわしいものを選択しなければなりません。鍼灸は今までこのような医療との連携をあまりしてこなかったように思います。

主治医と連携すること


 大切なことは、患者さんが不利益をこうむらないこと。医療と連携し、知識と技術を総動員して最もふさわしい選択を提供します。かんたんに言えば「疑わしければ主治医に相談」する。
 足が痛くて鍼灸院を訪れる患者さんは多いです。鍼灸で改善できるもの、病院で治療が必要なもの、両方必要なもの。一番いい方法を選ぶのが大事です。
 
 この患者さんは無事手術を終え、現在も毎朝の散歩をし、腰痛をひどくしないことと健康維持のため鍼治療に来ています。患者さんから感謝されたのはもちろんですが、かかりつけ医から褒められたことも大変嬉しかったです。
 

閉塞性動脈硬化症(軽症の場合)にはこのツボに効け!


「承山(しょうざん)」




 ふくらはぎを後ろから見て一番盛り上がっているところにツボをとります。膝の裏のしわの真ん中に「委中(いちゅう)」というツボがあります。委中からまっすぐ下に約24cmのところです。腓腹筋にあたります。要するに委中、合陽(ごうよう)、承筋(しょうきん)、承山という足太陽膀胱経のツボはこの腓腹筋にあり、腓腹筋を指圧したりマッサージしたりすることで筋肉の血流を良くしようということです。歩くと痛いので歩かずに何とかできないのかという代替案。

 

鍼灸治療院では腓腹筋に低周波鍼通電療法を行います。


 
 承山の名前は「やまをうける」からきています。腓腹筋は二腹筋と言って2つの筋肉のかたまりからできています。その2つの合わさったところにあるのでこの名前がついたといわれています。
 つぼなかぢ的には、地名なんじゃないかと考えています。もしくは山の名前。外くるぶしのところに「崑崙(こんろん)」というツボがあります。これは有名な崑崙山脈からきています。同様に承山も考えられそうですが(注3)、私の推測です。

おわりに


 足の痛みは神経痛だけではないというお話をしました。鍼灸でも効果はありますが手術をした方が早く良くなる病気があることもお話ししました。軽症なら運動療法と鍼灸で改善が期待できるとも。どうしても手術が嫌な人には選択肢の一つとなりえるでしょう。
 
 先日金沢マラソン2021が開催されました。天気に恵まれた一日でした。2年前は雨が降って低体温で救護施設に運ばれた方が多くいたと聞いています。今回は足のけいれんで救護施設を利用した方が多かったと聞き及んでいます。
 フルマラソンを完走した方には敬意を表します。それをずっとYouTubeで見ていたつぼなかぢは「オレにはマラソンムリやなあ」と思いました。せいぜい散歩頑張ります。

注1:「鍼灸治療を行った閉塞性動脈硬化症1症例における治療経験」リンクhttp://www.meiji-u.ac.jp/bulletin/2010-03/02_azuma.pdf
注2:「鍼で血管が新生される」リンクhttp://www.jsam.jp/pdflib/kiso_p16.pdf
中3:冷衛國著、『傳統經典與國學教育研究』(2021)には「玉賦楚陽城理上承山」とあり、 唐の仲之元が書いた『玉賦』という本に「楚陽城は承山の上をおさめている」と書かれている。

この記事を書いたプロ

中田和宏

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中田和宏(トキの森鍼灸院)

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