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かなしみと

坂部智子

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テーマ:母の介護

かなしみと
母は、ウチに帰って10日間過ごして亡くなった。
きれいにお化粧してもらい、ちょっとよそいきの服を着せてもらった。
母が自分で買って着ていたやわらかいピンクのブラウスとふんわりした長いグレー⁇の花柄のスカート。
フツーのパンツをはいて、名前の書いてない靴下をはいて。
翌15日は台風で、なにも動けないということで、母はそのままベッドにいた。

母の息づかいのわずかな変化でもずっと気にしていたから、母が静かに寝ていることが不思議だけど、口紅を塗った口を閉じて、笑うように眠る母の顔に少しずつ慣れていく。
介護されていた母ではなく昔のままの母。
もう、ハラハラ心配することはないのだ。
かなしいけれど、ホッとしている。
介護されていた母の姿は消えたような。
日常の中に昔の母が戻って、ただ静かに眠っているだけなような、そんな風に過ごした。
だからか、葬儀では静かにおくることができた。
かなしいけれど、父の時とは全然ちがった。

先週、コープに行ったら、いつも買っていた飲むゼリーに目がいく。なにやったら食べられるやろかと悩んでうろついた棚。
もう買わなくていいことがかなしかった。
でも、「あっちでもっとエエもん食べてるわ」と笑って言われて、ああそうやな、と思えた。

母と過ごした時間、母の周りの人たちとのふれあいにつつまれて、ひとつずつ、少しずつ、母のいない生活に馴染んでいくんやな。
そうやって1週間が過ぎた。


それでもやっぱり、
土曜日はかなしい。
母が帰ってくるようで。
5時半過ぎたら、
車が通る音に、
三線の音色に。

そしてはじめて、号泣した。
なぜだか、ずっとそこまでは泣けなかった…

いい思い出にしたがる気持ちが、ココロを止める…

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