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わたしのおか~さん

坂部智子

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テーマ:母の介護

秋になって、母はなんだかおとなしい。
おとなしいというより、拍子抜けするほどに 嵐が吹き荒ぶことが無くなった。

トイレでも、着替えでも、出掛ける準備でも、
食事でも、薬を飲むのでも、歯磨きでも、寝るのでも、
「○○するよ~」と言うと 「するよ~」と言う。
もちろん一人ではできないけれど。

この前も書いたように、同じ動作、セリフをずっと繰り返してきたことで、
当たり前のような“あんしん”が、できているように思う。

夜も睡眠導入剤と安定剤で、わりかし落ち着いて眠るようになっている。

食後、薬を飲んだ後、父が片づけを、私が寝る準備をしている間は、
そろばん(長年家計簿をつけるのに愛用していた)を渡す。
「忙しいやろうけど、ちょっとお母さんも用事しとってね」と言うと
「忙しいねんけどな~」などと言うときもある。
そろばんを、いじったり、振ったり、裏返して滑らしたりしながら
しばらく“用事”をしてくれている。

そして、8時には父が寝に上がるので(几帳面に早寝早起き)、
母とテレビを見る。
籐椅子に座った母の足元で、私は座椅子に座る。
手を握って座る。
母は空いた手で、私のあちこちをさわってくる。
だんだん眠くなってくるまでの その時間、
あちこちさわりながら、母はとてもよくしゃべる。

テレビを見ているのでもないけれど、耳から入ってきた言葉を拾って
(聞き間違いも多い)歌ったり、一生懸命しゃべってくる。
言いかけた言葉は続かなくて、途中で「ふふふ~ん」や「るらるる・・・」と鼻歌に変わる。

意味はまったくわからなくても、「そうなん」「すごいな~」「びっくりやな~」と
合いの手を入れると、またなにか言葉をさがしてしゃべる。
時々、大笑いのコントにもなる。

ゆったり、ゆっくりの穏やかな時間。
最近母は、私のことを、「わたしのおか~さん」と呼ぶ。
長いのに、いちいち、そう言う。

これまでの「おね~ちゃん」から、進化したのやろか。

そう呼ばれると、なんだか不思議な、ほっこりとしたやさしい気持ちになる。
柄にもなく、母性愛なんぞが芽生えてたりして。

母の介護が始まって、これまで積み重ねてきた時間がくれたんやな~
母も、父も私も、今まで以上に「ありがとう」とよく口にしている。

「ありがとう」の力。
「重ねた時間」の力。

こんな日が、来るんや。
今はひたろう。
次にどんな曲がり角があるかはわからなくても。

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