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へんこな

坂部智子

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テーマ:仕事のはなし

仕事柄、様々な高齢者にお会いする。
それぞれの長い人生の中で培われたあらゆるモノが、今のその人を
“その人”たらしめている・・・・と、いつも感じ入る・・・・
もちろんそれは、いいとか悪いとかなどではなく、
本当に、人は、その生き様は、さまざまである・・・ということ。

今日は、久しぶりにキョウレツな人と出会った。
Aさん(85歳、男性、要介護3)。
昼夜を問わず、数分おきにトイレに行く。
間に合わなかったり、知らない間に少しずつ出てたりするので、
日に、5枚も6枚も奥様がパンツを洗う。

パッドや、紙パンツは、頑として拒絶。
足元がふらつくままトイレに行き、立ったままする。

手すりが左右に取り付けられているが、座位からの立ち上り補助の位置についているので
立ってするには、役にたっていない(←取り付けた側にも問題あり、動作確認は???というところ)

訪問リハビリやさまざまな介護サービスも、全て断ってやめてしまっている。

奥様が すごい。
昔から、言い出したらきかないから・・・と、なんでも言われるままに対応してはる。
典型的な亭主関白である。
腰が悪い・・・とおっしゃるので、介護の負担はかなりあるだろう。
もちろん奥様の会話から、Aさんの優しいところや、甘えはるところも伝わってくるので、
十分いいご夫婦関係なのは わかる。
Aさん家の、これが自然な形なのだろう。

“もしも”というのは、全くもってナンセンスだけれど、
もしも、奥様が先に介護が必要になっていたら、Aさん自身、全くちがうその後の人生が
あったのではとも思われる。

うちの父も、今はこまめに料理にチャレンジし、かいがいしく・・・ではあるけれど、
それこそ、若いころは、手を伸ばせば届くところの新聞を誰よりも自分が近くに居るのに
「新聞」と言って、取らせていたような 亭主関白オヤジだったのである。
あのまま介護が必要な状態に突入していたら・・・・周りの苦労が目に見える。

さまざまな家族関係、さまざまな形がある。

ただ、自然なことが必ずしも 本当に居心地がいいこととはならない。
“へんこ”を少しゆずることで、奥様の笑顔がもっと増えるかもしれない。
頭の中100%を占めていたトイレへの不安が、多少解消することで、
睡眠の改善、体調が整い、行動範囲が広がり、活動的になれるかもしれない。
あきらめていたことが、まだまだ実現できるかもしれない。

絶対はない。
○○したら、必ず~~できるようになる という保証はない。

けれど、できるようになりたいこと、やっておきたいこと、などなど、
「~~したい」と思うことがあるなら、
“へんこ”をゆずっても損はしないと、ほんとにほんとに思っている。

Aさん家族には、お孫さんも、ひ孫さんもたくさんいるそう。
妻や、子供が言ってもきかないことでも、かわいい孫やひ孫が言えば
多少のいいかっこしいも入って、案外聞くこともある。
なにか、いいきっかけになったらいいなあ。

“へんこ”をちょこっとゆずったAさんの笑顔に、どうしても 会ってみたいものである。

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