後遺障害14級認定の謎
以前、このコラムで触れたことがある脳脊髄液減少症について、裁判で争っていた事件が、最近、和解という話し合いの形で終了しました。
交通事故によって脳脊髄液減少症になったということで争ったのですが、残念ながら、担当裁判官は、交通事故による脳脊髄液減少症であるとはっきりとは認めてくれませんでした。
もっとも、解決の内容としては、脳脊髄液減少症に対する治療期間の分も金額に含めるような内容で解決することができました。
ですから、こちらからすると、正面から認められたとはいえなくても、ある程度までは認めてもらったと理解できるような解決だったと思います。
「減少症」と呼ばない方がよい?
今回のこの事案では、非常に大きな教訓を得ました。
それは、「脳脊髄液減少症か否か」という争い方をすると、裁判で認められにくくなる可能性があるということです。
実は、2013年12月、日本賠償科学会という学会で、脳脊髄液減少症についてかなり大きな議論が行われました。
その結果は、同学会が発行している「賠償科学」という雑誌に掲載されています(「賠償科学No.41」日本賠償科学会、2014年11月30日発行)。
私もこの雑誌を読んでみましたが、「脳脊髄液減少症」については、肯定的な意見の医師も否定的な意見の医師もそれぞれたくさんいるようで、この論争はまだまだ決着がつかない可能性が高いと感じました。
髄液に関する疾患である可能性
もっとも、ここには一つ大きなポイントがあります。
それは、論争が「脳脊髄液減少症か否か」にあり、「交通事故をきっかけとして何らかの脳脊髄液に関連する疾患が生じているかどうか」ではなさそうだということです。
以前書いたとおり、脳脊髄液減少症については、完全にメカニズムが解明されたわけではありません。
ですが、「交通事故をきっかけに髄液の循環に異常が生じている可能性がある」ということについては、多くの医師や学者がその可能性を否定していません。
つまり、「脳脊髄液減少症」という名前には否定的な見解を持っている医師も、あくまでも「脳脊髄液は減少しない」あるいは「脳脊髄液が減少しているかどうかはわからない」という理由で否定的な見解を持っているだけであり、髄液循環の異常を生じさせている疾患の存在を一切否定しているというわけではないようなのです。
裁判で争うとしたら
そもそも、交通事故の損害賠償は、あくまでも「事故によって生じた傷害に対する賠償」ですから、「脳脊髄液減少症である」とまで認められなければならないことにはならないはずです。
とすれば、「脳脊髄液減少症である」とまで裁判で証明する必要はなく、裁判では「交通事故によって髄液の循環に異常が生じ、そのために治療が必要となった」というだけで十分なはずです。
にもかかわらず「脳脊髄液減少症か否か」という争い方をしてしまえば、裁判官も「脳脊髄液減少症であると証明できるか否か」を判断しようとしてしまい、結果としてハードルが高くなってしまいかねないわけです。
用語にとらわれずに、物事の本質を見極めて、その本質を裁判官にきちんと伝えられるように努力することが大切であると、あらためて感じさせられました。