弁護士の使い方 ~紛争予防のためのパートナーとして~
弁護士に相談する事件の種類のことを「相談分野」と呼ぶことがあります。
離婚、相続、遺言、債務整理、交通事故、労働などの言葉は、みなさんも見たり聞いたりしたことがあるのではないでしょうか。
よく見る弁護士の広告ばかりでなく、弁護士会の法律相談センターでもこうした分類になっています。
相談分野と診療科目の違い
みなさんがイメージする弁護士の取り扱い分野は、医師の診療科目に近いでしょうか。
お医者さんが内科、整形外科などの専門の診療科目をかかげているように、弁護士もその分野を専門で取り扱っているのではないか、というイメージです。
でも、実態は少し違います。
弁護士は、お医者さんほどには専門が分かれていません。
首都圏なら専門弁護士もそれなりにいるのかもしれませんが、札幌では「離婚しかやらない」「相続しか取り扱わない」という弁護士はほとんどいないと思います。
眼科の医師が外科を担当することはないと思いますが、そういう意味では弁護士と医師は違うといえるのではないかと思います。
相談分野は分けにくい
こうした違いがある理由の一つは、弁護士の場合、分野ごとの境界線が定まりにくいということです。
例えば、「離婚」という分野で括られる事件には、純粋な夫婦間の離婚事件だけではなく、まだ離婚までは争っていない別居中の夫婦間の争いが含まれることもあります。
また、不倫などの厳密には夫婦間の争いではない事件も含まれたりします。
さらには、離婚後の親子関係の問題まで含むこともあります。
こうした事件の総称はおそらく「家族間の紛争」「男女間の紛争」などと呼ぶ方が正しいのだと思いますが、こうした呼び名ではあまりピンとこないため、代表的な「離婚」という言葉を使うことになるわけです。
また、弁護士の仕事は、ある特定の分野の事件だけでは済まないことが多いということも挙げられます。
相続を専門にしたいと思っていても、相続財産を調査するためには必然的に不動産の知識や預貯金の知識が必要になります。
場合によっては社会保険や年金、税金の知識を活用することもあります。
どうしても解決しなければ、相続問題について裁判所に申し立てる前に、預貯金関係の訴訟を起こさなければならないということもありえます。
私は医療事故・医療過誤や交通事故に力を入れていますが、医学的な知識は医療事故の事件のためだけ使っているわけではなく、交通事故の事件の場合にとても役に立ちますし、場合によっては刑事事件でも医学知識を使うことがあります。
このように、弁護士の場合、取扱分野が医師の診療科目ほどに区別されているわけではなく、むしろ複合的な知識が必然的に要求されているものだということがいえるかもしれません。
なお、より現実的な話をしますと、弁護士の場合、ある特定の分野で専門を標榜したとしても、その分野のお客さんだけが集まってくれるとは限りません。
そのため、弁護士として生きていくためには一つの分野の仕事だけでは済まないということも言えるかもしれません。
このように、弁護士の「分野」というものは、実態を理解するのが意外と難しいものです。
弁護士の「分野」や「専門」にはあまり強くこだわらず、あくまでも弁護士を選択する際の一つの材料という程度で考えていただければと思います。