証拠保全か?カルテ開示か?
病院でサインする「同意書」
最近はどこの病院でも、手術を受ける際に「同意書」への署名を求められると思います。
この同意書は「きちんと説明を受け、手術を受けることに同意しました」という内容となっています。ですから、事前にきちんとした説明が行われていることが前提です。
ですが、実際のところ、患者さんが理解できるようにやさしく説明してくれる病院ばかりではないのが現実だろうと思います。
ところで、実際の口頭での説明内容と同じかどうかはともかく、ほとんどの同意書には必ず「説明した内容」が記載されています。ここに記載があれば、後に訴訟で争われたとしても「ここに書いてあるとおり説明しました」という証拠として使えるからです。
合併症はやむを得ない?
この同意書に記載されている説明内容としてよく書かれているのは「想定される合併症」というものです。
合併症とは、その疾患やその手術などによって典型的に生じる可能性のある症状などをいいます。
医学界では「避けられずに一定確率で生じてしまうもの」を合併症と呼んでいるようです。
こう聞くと「合併症になってしまうのは仕方のないこと」と思いがちです。
合併症の中にもミスがある
ですが、実は、合併症は「起こってしまってもやむを得ないもの」とは限りません。
合併症の統計は、その疾患やその手術などで実際に生じた症例を、原因を問わず集めたものから成り立っています。
もしかすると明らかなミスは除外されるのかもしれませんが、ミスかどうか微妙な場合は通常積極的にミスであるとは申告しないものです。
ですから、ミスかもしれない症例が含まれることになります。
また、その統計結果は、似た結果を同じ表現で記載するようになりますので、その表現は必然的に抽象化されてしまいます。
例えば、「脳動脈瘤の手術の合併症」には「脳梗塞」が典型例として挙げられると思います。
しかし、「脳梗塞」の原因は、「動脈瘤が特殊でどんな手術操作をしても破裂したはず」というやむを得ない場合もあれば、「誤って間違った血管を塞いでしまったため脳梗塞になった」という場合もあるはずです。
ですが、これらはいずれも「脳動脈瘤の手術の結果、脳梗塞になった」という意味では違いがありません。
ですから、積極的にミスを認めて統計から除外しなければ、違いがなくなってしまうのです。
ですから、合併症には、お医者さんがどんなに気をつけていても避けられなかったやむをえないものだけでなく、「お医者さんのミスで生じたもの」が含まれている可能性があるのです。
インターネットを検索してみても、合併症の説明としては「避けられずに一定確率で生じてしまうもの」という紹介の方が多いようです。
ですから、一般の方ばかりでなく、おそらく医療事故に慣れていない弁護士も、合併症という言葉を聞いてしまうと「やむを得ない病気だったのかもしれない」と考えてしまう可能性があります。
ですが、上記のとおり、実は、合併症にはお医者さんのミスが含まれているかもしれません。
ですから、やはり、その事案ごとに状況をよく精査して検討しなければならないのです。
「合併症」の一言で、全て諦めたりせず、疑問が残る場合は、ぜひ弁護士に相談してみてください。