「不正のトライアングル」とは?大手自動車メーカーの不正が多発する問題について

濱田金男

濱田金男

テーマ:製造業の正しい品質管理手法

最近、トヨタ、ホンダ、スズキ、マツダをはじめ、自動車メーカーの品質トラ
ブルが多発し大きな問題となっています。
メーカーだけでなく、国土交通省の制度の運用方法にも問題があるような
報道も一部あるようですが、ここではメーカー側の問題として捉え、どこに
その要因があるのかを考えてみます。

1.品質不正は経営問題
日刊工業新聞(2024年2月28日)では「揺らぐ日本のモノづくり現場品質不正
は経営問題」という記事が掲載されました。

この記事では「経営品質」「工業道徳」などの言葉を用いて、品質の概念を見
直すことが書かれています。世の中が進歩してもやはり経営者をはじめとする
企業の人材育成が一番重要であることを考えずにはいられません。

品質"不正"は、以前からあらゆる業界で似たようなトラブルは繰り返し発生し
ており、日本の企業業全体として、重要テーマであると考えられます。

しかし、今回、豊田章男会長が「会社を作り直すぐらいの覚悟」が必要と発言
している通り、非常に困難が伴うため、対策が進んでいないのが実態であると
思います。

2.不正のトライアングルとは
最近多発している品質不正に関し、アメリカの組織犯罪研究者が提唱した理論と
して、「不正のトライアングル」という考え方があります。
 ①不正を行う「動機」
  『周りのみんなもやっている』『影響は小さい』など不正を行う本人、その
  担当する組織が自ら納得するための理由がある
 ②不正が行える「機会」
  特定の1人に業務が集中していることで誰の目にも触れずに実行できてしま
  う、不正が表面化する可能性が合理的に想定できないなど、不正ができてし
  まう環境・制度があること
 ③不正を肯定しようとする「正当化」
  納期に追われ、高ストレスの状態に置かれている、問題を自分だけで解決で
  きず、また上司や同僚に相談できない状況にある

など、この3つが揃うと、普通の組織でも不正を行ってしまうというもので、こ
の3分類は、かなり納得性のある理論だと考えられます。

逆にこの3つのうち1つが成り立たない場合、不正は防げるということになります。
しかし、日本の企業の過去の事例から、「動機」「機会」「正当化」の3つの条件
が揃いやすい組織風土が築かれてしまっていると考えられます。
またこれらの条件に該当する事柄の特徴を捉えて、予防策を講じることで不正防止
につながるかと言えば、そこにはもう一つ解決しなければならない大きな問題が
あります。

3.経営者の意識改革は可能か?
問題はどのような対策も経営層の意識改革に掛かっているということです。
コンプライアンス部門を設置する、iso9000の内部監査、外部審査などの強化など
の他人任せでは到底防止できないものと考えられます。

社長は市場環境の構造的変化を的確に把握していて、会社の体質や方向性を変えて
いかなければならないことを痛感しているはずです。
それなのに、なぜ会社が変わらないのだろう?と不思議に思うことも多く、現在
では、自ら明確なビジョンと戦略を示し、会社を方向付けられるリーダーでないと
社長として務まらない時代になってきたのにもかかわらず以下の点で、リーダーシ
ップが発揮できていないのではないでしょうか?

第一に、トップの示すビジョンや戦略が概念的、抽象的なものに留まり、マネジ
メント層が具体戦略を考える上での指針とは言えないものとなっています。「顧客
視点に立った製品・サービスの提供」などは典型的な例の一つです。

第二のカギは、部課長に戦略立案と意思決定の方法を徹底的に学ばせること。専門
職的な環境で育つ日本の中間管理職にとって、戦略的に物事を判断する機会は稀
です。そこで必然、OffJT的な教育を含めて戦略立案力、判断力を養う教育の必要
性が生じてきます。

最後、第三のカギ、それは社員一人一人の戦略実行力を高めること。
トップがどのように優れたビジョンを示し、中間管理職がどのように優れた事業
戦略・製品戦略を立案しようとも、社員の戦略実行能力が低ければ変革に結びつ
けません。

ここでも再度強調しておきたいのは、経営者を始め、組織全体として過去の経験
の延長線上にある通常業務の改善能力と、外部環境の変化に臨機応変に対応し新
たな発想で課題を解決する戦略実行能力は異なるという点でです。

4.内部通報制度
上記で指摘した内部からの自浄能力がすぐに発揮されることは期待できません。
豊田会長が指摘したように「会社を作り直すくらいの覚悟」が必要で、それには
膨大なネルギーを必要とします。

そこで、外部から法的規制が掛けられないか、について知って頂きたい内容につい
て解説します。

2022年6月1日より、公益通報者保護法により「内部通報制度」導入が300人以上
の企業に義務付けられるようになりました。
しかし、この制度は、企業人にあまり周知されておらず、ノウハウもないため
まだ仕組みも構築されていない企業が大半であり、実際に社員が安心して通報で
きる状況にないというのが実態だと思います。

また、「内閣総理大臣は、これらの事項に関する指針を定め、必要があると認め
る場合には事業者に対して勧告等をすることができる」とあり、導入されて
いなくても罰則等の規定はないようです。

このようなことからこの制度の普及にもある程度時間が必要ということになります。


最後に
不正問題は、品質トラブルと言っても、実は企業経営の問題であり、経営者がリー
ダーシップを発揮し解決すべき経営品質の問題と考えるべきです。
不正のトライアングルを構成する「動機」「機会」「正当化」がなぜ発生するのか
それをなくすためには、何をどう改革すれば良いのか改めて考えて頂くきっかけに
して頂ければ幸いです。

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濱田金男
専門家

濱田金男(企業経営コンサルタント)

合同会社高崎ものづくり技術研究所

大手電機メーカーで設計、製造、品質管理に長く携わり、中国工場立ち上げ、韓国での生産ライン効率化など海外支援実績も多数。新しい時代を見据えた工場改革、付加価値向上と人材育成で、ものづくりの現場をサポート

濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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