JIT(ジャストインタイム)改革の効果が得られない理由:7つの落とし穴と克服策
工場では、生産性向上、品質向上、納期遵守などを目標に日々の努力
が行われていますが、それらの目標は具体的に数値に落とし込まれ、
その達成度が全社員に見える化されているでしょうか?
ISO22400とは、MES(製造実行システム)領域でのKPI(重要業績
評価指標)と、それらを構成するデータの国際標準です。
ISO22400では、生産性、品質、能力、環境、在庫、保全の6つの領域
について、合計34項目のKPIを定義しています。
ISO22400の目的は、業種/業態や企業ごとにバラバラだったMES
領域の評価指標を標準化することで、異なる工場設備から同一の指標
を用いたベンチマーキングが可能になり、経営情報と生産現場の情報
を統合的に可視化することができるようになることです。
ISO22400は、ドイツがIndustry4.0の取り組みの中で重要視して
いる標準化の一つであり、ドイツ、フランス、スウェーデン、スペ
イン、アメリカ、韓国、中国、日本などがこの取り組みに参画して
います。
中小企業では、設備より人の生産性が重要であるという考え方が
ありますが、ISO22400では、設備と人の両方の生産性をバランス
よく向上させることが目標です。
設備と人の相互作用を考慮した指標として、総合設備効率(OEE:
Overall Equipment Effectiveness)や設備有効性(EPE: Equipment
Performance Effectiveness)
などがあります。これらの指標は、設備の稼働時間に対する付加価値
の割合を表し、稼働率や性能、品質により算出・決定されます。
総合設備効率は、以下の式で計算できます 。
★総合設備効率 = 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率
時間稼働率は予定した稼働時間に対する実際の稼働時間の割合で、
性能稼働率は生産時間に対する実際の生産数の割合で、良品率は
生産量に対する良品の割合です 。
しかし、設備の効率を上げることは、生産性を向上させるために
重要ですが、作りすぎのムダやリードタイムの長期化を招くこと
を避ける必要があります。
それを防ぐためには、以下のような対策が考えられます。
①需要予測や在庫管理を正確に行うことで、過剰生産や在庫の蓄積を
防ぐことができます。需要予測や在庫管理には、AIやIoTなどの技術
を活用することで、精度や効率を高めることができます。
②生産計画やスケジューリングを最適化することで、設備の稼働時間
や生産量を需要に合わせて調整することができます。
生産計画やスケジューリングには、シミュレーションや最適化ソフト
などのツールを活用することで、柔軟かつ迅速に対応することができ
ます。
③設備の稼働率や性能、品質などの指標をリアルタイムでモニタリン
グすることで、設備の状態やロスの発生を把握し、必要に応じて改善
策を実施することができます。設備のモニタリングには、センサーや
ビッグデータなどの技術を活用することで、可視化や分析を容易に
することができます。
ISO22400では、人時生産性は「生産性」のカテゴリーに含まれる
KPIの一つです。
生産性には、成果に対する付加価値を表す付加価値労働生産性と、
成果に対する生産量や販売金額を表す物的労働生産性の2つの種類が
あります。
人時生産性が向上すると、従業員1人が短い時間で多くの付加価値を
生み出すことができるため、企業の利益が増加します。
人時生産性とは、労働者一人当たりもしくは一時間当たりに生産でき
る成果を数値化し、生産性を表したものです。
人時生産性とは、従業員1人が1時間に生み出した付加価値額のことで
計算式は次のとおりです。
★人時生産性 = 付加価値額÷ 労働時間
付加価値額とは、企業が販売した製品の金額から、原材料費や外注費
などの費用を差し引いた金額です。
★付加価値額=売上金額ー(原材料費+外注費)
労働時間とは、それぞれの従業員が実際に働いた時間の合計です。
★労働時間=Σ(各従業員それぞれが働いた時間)
人時生産性を向上させるためには、従業員のスキルアップや生産性の
向上が重要になります。また、効率的な生産ラインの構築や、在庫
管理の改善なども人時生産性の向上に効果的です。
しかし、工場では、「今月は売上高が増えた、出荷数量が先月に比べ
多かった」というように、物的生産性、つまり生産された製品の物理的
な数量や金額を指標としている場合が多いのです。
★物的生産性=売上金額(数量)÷労働時間
確かに、物的生産性のメリットは、生産された製品の数量を直接的に
測定できるため、わかりやすいという点です。また、生産された製品
の数量を基に算出するため、生産量の増加や減少を容易に把握する
ことができます。
しかし、この物的生産性は、企業によって生産する製品が異なるため
生産量や生産金額が妥当なのかどうか?客観的に判断できません。
もっと努力すれば、生産量を増やすことができるかもしれないのに
その努力を怠っているかもしれないのです。
近年、人時生産性が重視されるようになってきました。それは多様な
働き方が広まったこと、また生産性向上を図る指標として物的生産性
では適さないからです。
多様な働き方とは、従業員が自分のライフスタイルに合わせて、働く
時間や場所を自由に選択できる働き方です。テレワークやフレックス
タイム制などがその例です。多様な働き方が広まると、従業員一人
ひとりの労働時間が不規則になるため、物的生産性では生産性の向上
を測定することが難しくなります。
物的生産性は、生産された製品の数量を基に算出する指標です。
しかし、製品の数量は、従業員の労働時間だけでなく、生産設備や
技術力などの影響も受けます。そのため、物的生産性だけでは
生産性向上を図る指標として適切ではありません。
人時生産性は、従業員1人が1時間に生み出した付加価値額を基に算出
する指標です。人時生産性は、従業員の労働時間と生産された付加
価値額を直接的に他社と比較できるため、生産性向上を図る指標と
して非常に有効と考えられます。
このほかにもISO22400では、工場の生産性指標を「生産性」という
カテゴリーで負荷度、生産量、負荷効率、利用効率、正味設備効率、
設備有効性、工程効率など全部で9項目ののKPIを定義しています。
皆さんの工場では、どのような指標で工場を管理していますか?