「子どもを叩いてしまう…」
こんにちは。
カウンセリングオフィス トリフォリの高澤です。
当所では生きづらさを抱えた毒親育ち・機能不全家族育ちのアダルトチルドレンの回復を支援しています。
なかでも未回復のまま子育てしている親御さんの支援に力を注いでいます。
世代を渡って連鎖する「生きづらさ」の鎖を是が非でも断ち切りたいのです。
アダルトチルドレンとは
以下は「アダルトチルドレン」という言葉を大辞林から引用したものですが、様々な定義が混在するなかとてもシンプルで分かりやすいと思います。
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アダルトチルドレン【adult children】
①〔adult children of alcoholics〕アルコール依存症の親を持って育った大人。AC。
②親の虐待、不仲、感情抑圧などによる機能不全の家庭で育ち、外傷体験を持った大人。また、その影響を自覚する人。親の問題の責任を負おうとする、自己評価が低い、親密な関係が苦手などの特徴が指摘され、適応上の困難を持ちやすい。AC。
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①が本来の定義です。アルコール依存がある家庭には、多くの場合、暴言や暴力、辱め、コントロールなどが飛び交っており、その環境で子どもたちはダメージを受けていきます。
②はまさに当事者の生きづらさを凝縮して伝えています。ここに示されているものはいずれも『小児期逆境体験(ACE)』(後述)に含まれるものばかりです。
毒親とは
アダルトチルドレンという言葉は現在では一般的ではない一方で、「毒親」という言葉はメジャーになっているのではないかと思います。
では毒親という言葉はどう定義されているのでしょう。
辞書には見当たらなかったので、以前NHKのクローズアップ現代で特集されたときの定義を引用します。
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毒親
毒親とは、過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配したり、自分を優先して子どもを構わなかったりする「毒になる親」のことを言う。
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ここで述べられているものも後述のACE(小児期逆境体験)そのものと言えます。
二者を見比べたとき、「アダルトチルドレン」という言葉は影響を受けた本人に、「毒親」という言葉は影響を与えた親にフォーカスが当たっているという違いはありそうですが、当事者が抱える困難(生きづらさ)という点にフォーカスを当てさえすれば、結果的には同じことを示していると言っていい概念なのかもしれません。
「生きづらい」という曖昧な言葉
当事者にとって「生きづらい」という言葉は実感がこもっている言葉である一方、周りから「何が?」と問われると、うまく伝えることが難しい言葉でもあります。
うまく言えないけど漠然と「すごく苦しい」状態。
これでは周りからなかなか理解してもらえません。
理解してもらえないとさらに苦しみは増すものです。
その点から当所では
【自分の苦しみのシステムを正しく理解すること】
を回復の第一ステップに位置づけています。
現状把握と言って良いかと思います。
自分自身が理解できていない状態では何に取り組めばいいかも見えないままですし、そのままでは人に理解してもらうことも難しいですから、結果的に回復を遠ざけてしまいます。
ということでまず正しく理解することから始めてみましょう。
子ども時代の逆境体験の影響
以下のフローは、ACに限らず発達性のトラウマを抱えている人が生きづらくなるに至った道のりを示す「地図」であり、影響を示す「リスト」でもあります。
逆境体験は子どもにどんな影響を及ぼすのか。ここではその流れを追ってみます。
*注記:ACE
下記の「小児期逆境体験(ACE)」に関する詳しい情報はCDC(米国疾病予防管理センター)のこちらのページ(英語)に掲載されています。
小児期の逆境体験(*ACE:Adverse Childhood Experiences)を始めとした様々な子ども時代(胎児期含む)の困難を伴う体験
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「安全」「絆」を感じる迷走神経の発達が阻害される
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本来「穏やかさ」「心地よさ」を感じさせてくれる“安全・絆”の神経がうまく機能してくれないため、その代わりに自律神経の過覚醒による「闘うか逃げるか」モード、あるいは低覚醒による「シャットダウン/鈍麻」モードが発動する。その力で「安心安全」や「つながり」の感じにくさをカバーしながら生き抜く(=サバイバル)
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神経の過覚醒(昂り、過敏さ)や低覚醒(感じにくさ、鈍さ)によりさまざまな影響が出ることがある。
たとえば次のようなものはその一例。
<認知的な影響>
物事を過度に脅威的、批判的、否定的、悲観的に認識する
<感情的な影響>
過度の警戒心、あるいは不安・恐れ・怒り・嫌悪、ほかにも抑うつ・毒恥などを感じやすい
<社会的な影響>
人に対して防衛的、親密関係が困難、「過ぎる」対人距離(回避or密着)
<身体的な影響>
神経系・免疫系・内分泌系の身体症状(偏頭痛、炎症、疼痛、皮膚・呼吸器・消化器等の疾患、慢性疲労、五感の知覚過敏、倦怠感など)
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自分で自分を落ち着かせることが困難になり、自分「以外」で自分を落ち着かせる手段(例:アルコール、ギャンブル、薬物(処方薬含む)、ゲームやネット、ひきこもり、過食、共依存など)で対処していくうちにそれが習慣化し、依存などの副作用をもたらすことがある
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様々な苦に苛まれ生きづらさで混迷する
注記)このフローを作成するにあたって活用したものは次の視点です。
ACE研究、アディクションアプローチ、愛着理論、ポリヴェーガル理論、発達性トラウマ、トラウマ理論、AC回復アプローチ等々
回復への道筋
小児期の逆境体験がもたらしたもの。
その最たるものが
【安全と絆を感じる神経システムの発達の阻害】
と先ほど触れました。
ここから考えると、
【「安全」と「絆」の神経システムの育て直し(再調整)】
に取り組むことで育ちの影響として起こった様々な生きづらさを和らげていくことは可能であるということになります。
クライエントとカウンセラーが互いに協力して
【安全と絆】
の感覚を育て直していくこと。
それがここで取り組んでいくことです。
子育てへの影響と親の仕事
毒親育ち、機能不全家族育ちであるAC当事者のなかには、生きづらいまま、未回復のままで子育てしている親御さんも少なからずいらっしゃいます。
自分が子ども時代に苦しんだからこそ、子どもには同じような思いをさせたくないという強い思いから、懸命に子育てに取り組まれるものです。
しかし、子どもによりよく関わることよりも、自分を助けてあげることを優先することが実は大切です。
「子どもに私みたいなつらい思いをさせない!」
「私は絶対にうちの親みたいにはならない!」
そう固く心に誓っても子どもは思うようにはなってくれません。
なぜなら子どもは感情と欲求の塊。
思い通りにならないのが自然だからです。
自分が自分として生きていくだけでも苦しいのに、そこに子育てのストレスが加わってしまうとそれは並大抵の負荷ではありませんから、子育てのキーパーソンである親御さんの方が潰れかねません。
だからこそ、親自身が先に自分を助けられるようになる必要があります。
泳げない人が溺れている人を助けられないことと同様に、自分一人だけでは生きていけない「わが子」という存在を育てていくには、まず自分が自分育てをできるようになることが先なはずです。
◎親が自分を助けられるようになる
↓
◎わが子に穏やかに関わることができる
↓
◎子どもの心に安心安全や絆の感覚が芽生える
↓
◎その子は「生きづらさ」の鎖に縛られずに済む
↓
◎その子が親となったときこの循環をわが子に渡すことができる
人は自分にしてあげられないことは他者にもしてあげられないと言います。
子どもを慈しみ、勇気づけ、尊重できる親になるためにも、まずは自分を慈しみ、勇気づけ、尊重してあげてください。
自分にあげられるものは、わが子へもあげられるようになります。
だからこそまずは「自分から」を大切にしてみてください。