【第14回】「考える力」とは何か ― AIが答えを出す時代に必要な力

佐々木康仁

佐々木康仁

テーマ:教育・ICT教育


「自分で考えなさい。」

子どもの頃、先生や親からそう言われた経験はありませんか。

私自身も、これまで何度となく耳にしてきた言葉です。

そして店長として多くのスタッフを育ててきた中で、私も同じような言葉を使っていたと思います。

しかし、改めて考えてみると、一つの疑問が浮かびます。

「考える」とは、具体的に何をすることなのでしょうか。

知識をたくさん覚えることでしょうか。
問題の正解を見つけることでしょうか。
それとも、自分なりの意見を持つことでしょうか。


今、生成AIに質問すれば、さまざまな答えが返ってきます。

文章を作り、情報を整理し、複雑な問題についても説明してくれます。

そんな時代だからこそ、私は「考える力」の意味を改めて見つめ直す必要があると感じています。

今回は、学校教育だけでなく、仕事や日常生活にも共通する「考える力」について考えてみたいと思います。

「知っていること」と「考えられること」は違う

私は長年、店長として店舗運営や人材育成に携わってきました。

その経験の中で、知識が豊富なことと、実際に仕事ができることは必ずしも同じではないと感じてきました。

例えば、

商品の特徴や性能を詳しく覚えているスタッフがいます。
カタログの内容も説明できる。
メーカーごとの違いも理解している。


それは素晴らしいことです。

しかし、お客様から、

「結局、私にはどれがいいのでしょうか。」

と質問されたとき、どうでしょう。

商品の知識を説明するだけでは、十分ではない場合があります。

お客様は何に困っているのか。
どのような生活をしているのか。
何を一番大切にしているのか。


そこまで考えて、初めて適切な提案につながります。

つまり、

知識を持っていることと、その知識を使って考えることは違う。

ということです。

家電販売の現場で求められる「考える力」

例えば、洗濯機を購入しようとしているお客様がいるとします。

洗濯容量が大きい。
省エネ性能が高い。
便利な洗浄機能が付いている。


こうした商品の特徴を説明することは大切です。

しかし、それだけでお客様が満足するとは限りません。

家族は何人なのか。
毎日どれくらい洗濯するのか。
洗濯物を干す時間はあるのか。
設置場所に十分なスペースはあるのか。
予算はどれくらいなのか。


こうしたことを伺いながら、最適な商品を考える必要があります。

時には、性能が高い商品よりも、お客様の生活に合った別の商品をおすすめする方がよい場合もあるでしょう。

ここで必要になるのが「考える力」です。

覚えた知識をそのまま伝えるのではなく、相手の状況に合わせて活用する。

これは、家電販売だけでなく、さまざまな仕事に共通することだと思います。

マニュアル通りに動くだけでは対応できない

店長時代、スタッフに仕事を教える際には、マニュアルやルールを活用していました。

基本的な手順を覚えることは、とても大切です。

しかし、実際の現場ではマニュアルに書かれていないことも起こります。

お客様から想定外の質問を受ける。
急に人手が足りなくなる。
予定していた仕事が進まなくなる。


そんなとき、誰かの指示を待つだけでは対応できない場合があります。

「今、何が一番大切なのか。」
「どの仕事を優先するべきなのか。」
「別の方法はないだろうか。」


自分で状況を整理し、判断する。

私は、こうした力を持つスタッフを育てることが、店長の大切な仕事の一つだと考えてきました。

しかし、そのためには単に、

「自分で考えなさい。」

と言うだけでは不十分です。

考えるために必要な知識を教え、判断する機会を与え、結果を一緒に振り返る。

そこまで行って初めて、考える力は少しずつ育っていくのだと思います。

学校では「正解」を求められることが多い

学校では、さまざまな問題に取り組みます。

算数の計算。
漢字の読み書き。
理科や社会の問題。


正しい答えを導き出すことは、もちろん大切です。

しかし、私はそれと同じくらい、

「なぜ、その答えになるのか。」

を考えることが重要だと思っています。

例えば算数の問題で、答えが合っていたとします。

そこで終わるのではなく、

「どうしてその計算方法を使ったの?」
「ほかの解き方はあるかな?」


と問いかけてみる。

すると、子どもは自分の考えを言葉にしようとします。

また、答えが間違っていた場合でも、

「どう考えて、この答えになったの?」

と聞いてみる。

その過程を一緒に確認することで、どこで考え違いをしたのかが分かることもあります。

正解を知ることだけではなく、正解にたどり着く過程を理解すること。

そこに「考える力」を育てる大切な機会があるのではないでしょうか。

「考える力」はどうすれば身につくのか

私は、考える力を育てるために、特に大切なことが四つあると思っています。

① 疑問を持つこと

「なぜだろう。」
「本当にそうなのかな。」
「どうしてこうなるのだろう。」


こうした疑問が、考えることの出発点になります。

子どもが質問してきたとき、すぐに答えるだけでなく、一緒に考えてみることも大切です。

② 比較すること

一つの答えだけを見るのではなく、ほかの考え方と比べてみる。

「こちらの方法と、あちらの方法は何が違うのか。」
「それぞれの良いところと問題点は何か。」


比較することで、物事をさまざまな角度から見る力が育ちます。

③ 理由を説明すること

「私はこう思います。」

だけでなく、

「なぜなら、こういう理由があるからです。」

と説明してみる。

自分の考えを言葉にすることで、曖昧だった部分に気づくことがあります。

④ 試して、振り返ること

考えたことを実際にやってみる。
うまくいかなければ原因を考える。
そして、別の方法を試してみる。


第9回で取り上げた「失敗から学ぶ」ということにもつながります。

疑問を持ち、比較し、理由を考え、試してみる。

私は、この繰り返しが考える力を育てていくのだと思っています。

AIに答えを出してもらうことは悪いことなのか

生成AIが普及する中で、

「AIを使うと考える力がなくなるのではないか。」

という意見があります。

確かに、何でもAIに任せてしまえば、自分で考える機会が少なくなる可能性はあります。

しかし私は、AIを使うこと自体が問題なのではないと思っています。

大切なのは、AIをどのように使うかです。

例えば、

「学校の宿題は必要なのか。」

というテーマについて考えるとします。

AIに、

「宿題は必要だという作文を書いてください。」

と頼めば、文章を作ってくれるでしょう。

しかし、それをそのまま提出するだけでは、自分で考えたことにはなりません。

では、質問を変えてみたらどうでしょう。

「宿題が必要だという意見と、必要ないという意見を教えてください。」
「それぞれの理由を比較してください。」
「私の考えに問題点があれば指摘してください。」
「反対の立場から質問してください。」


こうした使い方なら、AIは考えることを助けてくれる存在になります。

AIに考えることを代わってもらうのではなく、AIを使って自分の考えを深める。

私は、これからの教育で大切になる考え方だと思います。

AIは「答えを教える道具」から「考える相手」へ

私は普段、生成AIをさまざまな場面で活用しています。

知らないことを質問する。
情報を整理する。
文章を作成する。
新しい仕事の進め方を考える。


しかし、最近はそれだけではなく、自分の考えを検討する相手としても活用しています。

例えば、

「私はこう考えていますが、問題点はありませんか。」
「別の視点から考えるとどうなりますか。」
「この方法より良い方法はありますか。」


と質問します。

すると、自分では気づかなかった視点が示されることがあります。

もちろん、AIの答えが必ず正しいわけではありません。

だからこそ、その答えをもう一度自分で考えます。
必要に応じて情報を確かめます。
そして、最後は自分で判断します。


私は、AIを単に便利な道具として使うだけでなく、自分の考えを広げ、深めるための相手として活用することに大きな可能性を感じています。

大人も「考えること」をやめてはいけない

考える力が必要なのは、子どもたちだけではありません。

私たち大人にも必要です。
社会は常に変化しています。
仕事のやり方も変わります。
新しい技術も次々と登場します。


これまでの経験や常識だけでは、対応できないことも増えていくでしょう。

私は65歳になった今も、生成AIやプログラミングなどを学んでいます。

新しいことに取り組むたびに、分からないことが出てきます。

そのたびに、

「なぜこうなるのだろう。」
「ほかの方法はないだろうか。」


と考えます。

時には、これまで自分が正しいと思っていた考え方を見直すこともあります。

私は、これも大切な学びだと思っています。

考える力とは、一度身につけたら完成するものではなく、学び続けることで磨かれていくもの。

年齢に関係なく、私たちは考える力を育て続けることができるのではないでしょうか。

「考える力」とは、自分で判断する力

ここまで「考える力」について考えてきました。

知識を持つことは大切です。
正しい答えを知ることも必要です。


しかし、人生には正解が一つではない問題がたくさんあります。

どの仕事を選ぶのか。
どのような人間関係を築くのか。
何に挑戦するのか。
どんな人生を送りたいのか。


こうした問いに、誰もが納得する一つの正解があるわけではありません。

AIに相談することはできます。
人に意見を聞くこともできます。


しかし、最後に自分の人生を選ぶのは自分自身です。

だからこそ、私は、

考える力とは、知識を使い、さまざまな可能性を比較し、自分なりの判断を導き出す力

なのだと思っています。

そして、その判断が間違っていたと気づいたら、もう一度考え直せばよいのです。

考える力には、自分の考えを変える柔軟さも必要なのではないでしょうか。

AI時代だからこそ「考える人」を育てたい

第13回では「勉強とは何か」について考えました。

勉強は、知識を増やし、自分の未来の選択肢を広げることにつながります。

そして今回の「考える力」は、その知識をどう活かすかということです。

知識を身につける。
疑問を持つ。
自分で考える。
人の意見を聞く。
AIも活用する。
そして、自分で判断する。


これからの教育では、こうした一連の力を育てることが、ますます大切になると思います。

AIが答えを出してくれる時代になりました。
しかし、その答えをどう使うのか。
何を信じ、何を選び、どう行動するのか。


それを決めるのは、私たち人間です。

AIに答えを出してもらうだけの人ではなく、AIを使いながら自分で考えられる人を育てる。

私は、そこにAI時代の教育の大きな可能性があると考えています。

次回は、

【第15回】「質問する力」とは何か ― 良い問いが学びを深める

について考えてみたいと思います。

Today's English Phrase

Think beyond the answer.
(答えの、その先まで考えよう。)


答えを知ることは、学びの終わりではありません。

「なぜ、その答えになるのか。」
「ほかの考え方はないのか。」
「自分ならどうするのか。」


答えの先まで考えること。

そこから、本当の学びが始まるのではないでしょうか。

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佐々木康仁
専門家

佐々木康仁(ITコンサルタント)

株式会社CNCコンサルティング

対面と非対面を組み合わせた独自のマーケティング手法、ChatGPTを活用するための基礎的な講習、小学校などでのICT教育支援を事業の柱とする。数々の職業を経験し“現場感覚”でサポートできるのが強み。

佐々木康仁プロは九州朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

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