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コラム

「前脚がぐらぐらの椅子を直したいのですが・・・。」

2021年1月28日 公開 / 2021年2月8日更新

テーマ:家具の修理事例

コラムカテゴリ:くらし

コラムキーワード: 家具 選び方

昨年も、椅子の修理をご依頼いただいた、新居浜市・S様が、ダイニングチェアを2脚お持ちいただきました。

修理作業前①/S様がご持参くださった椅子2脚です。

今回の椅子は、工房作家様の手づくり椅子です。
工業製品のダイニングチェアにはない仕口(接合部)のこだわりを感じさせる椅子です。
この椅子は仕口(接合部)の全てが、通しほぞ組み+2本のくさび打ち込み仕上げで作っているため、工業製品には不向きな(手加工には向いている)構造です。
各部材も、全てがウォールナットの削り出しとなっています。
作家もの椅子 修理前④

修理作業前②/前脚の抜けていました。

S様が指摘されたヶ所を見てみると、通しほぞが抜けかかっていました。
作家もの椅子 修理前②

修理作業前③/ほぞが折れていました。

構造の確認作業をしていますと、通しほぞが折れてしまっていました。
作家もの椅子 修理前③

修理作業中①/前脚部分の分解をしました。

ぐらつきを指摘されていた前脚部分を分解しました。
作家もの椅子 修理中①

修理作業中②/前側の幕板を作ります。

ほぞが折れていた幕板(写真右側)を、共材のウォールナット(写真左側)にてできるだけ近い形状に作っていきます。
作家もの椅子 修理中②
この幕板を作るには、5ヶ所の通しほぞ穴の位置やほぞ先の寸法や大きさを揃えるなど慎重作業が必要な仕事です。
作家もの椅子 修理中③

修理作業中③/骨格部全体の分解作業をしました。

前脚部を取り外したところ、後脚の取り付け部にもぐらつきを確認!
そのため、骨格部全体のフレームを分解していきました。

普通のほぞ組みと違い、通しほぞ+くさび打ち込み仕上げをしている仕口(接合部)は、本来 二度と抜けないように考えての作業です。
そのため、この仕口(接合部)を抜ききるのは、とっても慎重に作業を進める必要があります。
作家もの椅子 修理中④

修理作業中④/フレーム全体の研磨作業

通しほぞ組み+くさび打ち込み仕上げの仕口(接合部)の修理をする場合は、その工程上、どうしても塗装作業が欠かせません。
そのため、分解したフレームを、電動工具のハンドサンバーを使い、研磨していきました。
研磨紙は、♯100→ ♯240の番手のものを使用しました。
作家もの椅子 修理中⑤
フレーム全体の部材の研磨作業ができました。
研磨作業をしますと、生活汚れをはじめ細かなキズまで取り除くことができ、素肌のような状態になりました。
作家もの椅子 修理中⑥

修理作業中⑤/フレームの組み立て作業①

続いて、愛用のソマックス製T型クランプなどを使い、フレーム全体を組み上げていきました。
普通のほぞ組みの椅子と異なるのは、各通しほぞ組み両面に接着剤を付けクランプで圧着しながら、速やかにくさびを打ちこんでいかなければならない点です。
もちろん、はみ出した接着剤は、その都度 塗れたウエスで拭きとって作業を進めていきます。
作家もの椅子 修理中⑦
通しほぞ組みにくさびを打ち込んだ様子です。
飛び出ているほぞやくさびは、完全乾燥後にのこぎりやかんな、研磨作業にて目地払いします。
作家もの椅子 修理中⑦ 
作家もの椅子 修理中⑧

修理作業⑥/フレームの組立作業②

続いて、座面の取り付け作業をしました。
フレームと座面の取り付け部を当初の通り接着剤をつけ、できるだけ隙間が出ないように、当て木をソマックス製Fクランプで固定して木ネジ止めしていきました。
作家もの椅子 修理中⑧
当初の通り、ネジ穴は埋め木したのちに目地払いすることにより栓をしました。
こうしておくことにより、ウラ面から覗いても、とってもきれいです。
作家もの椅子 修理中⑨
これで、フレームの分解 → 研磨 → 組み立て の工程が終わり、続いて植物性オイル仕上げの工程に入ります。
作家もの椅子 修理中⑨

修理作業中⑦/植物性オイル仕上げ

TOKI家具館メンテナンスで、もう20年以上前から愛用している植物性オイルは、ドイツ製オスモ&エーデル様のオスモカラーです。
工房作家様の手づくりの椅子には、クリア(透明)仕上げがお似合いです。

今回は、オスモカラーの さらっとしたオイル(♯1101 エクストラクリアー)で仕上げたのちに、粘りと耐久性のあるオイル(♯3101 ノーマルクリア)で作業をします。
左の写真が ♯1101エクストラクリア、右の写真が ♯3101ノーマルクリアです。
オスモカラー
塗装作業の進め方は、どんな場合でも、塗りにくいヶ所から塗りやすいヶ所へ進ませると作業効率が良いです。
S様の椅子ですと、座面ウラや脚の内側、背もたれの内側など塗りにくいヶ所からタンポを使い塗っていき、最後は、座面などの塗りやすいヶ所へタンポを進ませていきました。
オスモカラーの乾燥時間は、♯1101、♯3101共に、約12時間です。
作家もの椅子 修理中⑩

修理作業後/通しほぞ組み+くさび打ち仕上げの椅子の完成です。

オスモカラーが完全乾燥後は、フレーム全体の水平バランス調整作業や細部のチェックを経て、空拭きをしたのち脚ウラに床の保護材を貼り付けて完成です。
作家もの椅子 修理後①
研磨の上、オスモカラーで仕上げましたので、フレーム全体の風合いが、より自然な感じになりました。
座面もこの通り、とってもきれいになりました。
作家もの椅子 修理後②
通しほぞ組み+くさび打ち込み仕上げの仕口(接合部)も目地払いしてきれいになりました。
S様、大切な椅子の修理をご依頼いただきありがとうございました。土岐泰弘
作家もの椅子 修理後③

21世紀は、メンテナンスの時代

SDGs(持続可能な開発目標)という言葉を、よく見聞きするようになりました。

私ごとで恐縮ですが・・・
私はほぼ毎朝、TBS 朝チャンを見ています。(夏目三久アナウンサーのファンです)
そのなかで『SDGsな未来へ ここスゴッ!発見』のコーナーを見るのが刺激にもなっているんです。

20世紀は、大量生産 → 大量消費 → 大量廃棄 の時代でした。
お客様からは・・・
「家具って使い捨てじゃないの・・・」
「修理にお金を出すって、もったいない・・・」という言葉もまだまだ聞きます。
でも、これを続けていくと、SDGs(持続可能な開発目標)になりません。

① コロナ渦の現在、永く使える構造の家具を将来的な修理のことも考えて必要な数だけ作り、絶えずメンテナンスを繰り返してさらに永く使っていく・・・。

② また、超高齢社会(65歳以上の人口が21%)の現在、
愛着はあるが、歳を重ねて使いにくくなった家具は、リノベーション(仕様変更や二次加工)して、少しでも便利に使えるようにする・・・。

③ 重たくて不便になったり 使い道がなくなった無垢材家具は、再資源化(無垢材ヶ所を、もう一度材料に戻す)して、今必要な家具に作り変える・・・。

TOKI家具館メンテナンスは、このような家具の仕事こそが、SDGs(持続可能な開発目標)の時代に必要な仕事と想い、チャレンジを続けます。
こんな長い文章を、最後までお読みいただきありがとうございました。土岐泰弘

この記事を書いたプロ

土岐泰弘

家具の修理とリノベーションのプロ

土岐泰弘(有限会社土岐家具店(屋号:TOKI家具館メンテナンス))

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